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006 聖女

 

「危ない!逃げろっ!」


 マリアとフローゼに声を掛けるがこの距離では間に合わない。

 茂みの中から飛び出してきた二匹の獣型の魔物はもうマリア達の目と鼻の先にいる。


「――ふぅ、舐められたものですね」


 マリアが小さく呟くと右手に光が収束した。


「なんだあれは!?」


 カインは走りながら思わずマリアの右手を注視していると、まだ十数メートル離れたマリアの右手の光が収束して1メートルを超える長さの銀色の太い棒を形作りだした。


「えぃ!やぁっ!」


 マリアはその棒を素早く左右に振り回し、襲い掛かって来た獣型の魔物をそれぞれ一撃の下に吹き飛ばす。


「――は?」

『(だから心配いらんと言ったじゃろう)』

「……いや、お前、マリア。これはどういうことだ?」


 カインはそこでゆっくりとマリアに近付く。

 フローゼは特に取り乱す事無くのほほんとしていた。


「えっ?あっ、これのことですか?」

「あ、あぁ。それ、その棍棒どこからだしてきた?」

「これは、私の具現化魔法です」


 どういうことだ?こいつは何を言っていやがる。

 堂々と言い放つマリアの様子に、カインは状況の理解に努めるが全く理解できない。


「……すまん、詳しく教えてもらってもいいか?話せないことがあるなら話さなくてもいいから」

「どういうことですか?」

「いや、俺の見立てではお前は戦えないものと思っていた。それで慌てて助けようとしたんだが…………」


 質問の意味が理解できないのか?

 少なくともカインが知る限りでは物体の具現化魔法だなんてものは聞いた事もない。


「ああ、そういうことでしたか。その必要はありませんよ。見ての通り私はこれで戦えますので」

「…………」


 ダメだ、話にならない。

 思わずカインは溜息を吐く。


「あのな、俺が知る具現化魔法っていうのは魔力を使って火や水を起こすもので、それ以外での魔法は魔力を通した魔道具を作るぐらいだ。物体を生み出すなんてのは聞いたことがない。だが、見たところその棍棒は何もないところから生み出されて、しかも魔力を伴っているように見えるんだが?」

「ええ、ですからそう申しているではありませんか?あなたは話が通じない人ですね」


 マリアはカインが自分の言っていることが理解できていないのだと呆れた表情で見た。


「(なんだとこの野郎!?)」


 マリアの態度にイラっとするのだが、グッと堪える。


「(――っと、我慢我慢。ここで怒っても聞きたいことが聞けない。そういや神のやつはこれを知っていたのか?どうなんだ?なぁおい、見てるんだろ?)」


 ふと神の反応がないことが気になった。

 ここでもしフローゼが死ぬことがあれば黙ってはいないだろう。それともフローゼは天使だから死なないのか?


『そんなものは自分で聞くものじゃよ。あぁ、ちなみにもう一つの疑問じゃが、フローゼはもちろん人間と同じようにして死ぬことがある。今は人間の身体と同じ構造になっておるからの』

「(くそっ、つまり神は最初から知っていやがったな?ちっ、まぁいい)」


 この余裕の態度から見る限りそうだろうと断言できる。


「じゃあマリア。もう少しだけ教えて欲しいんだが?」

「なんですか?」


 何を質問されるのだろうかとマリアは小首を傾げた。


「あのさ、聖女……そのローラン神聖国の聖女はみんなおんなじように戦えるのか?他に聖女がどれぐらいいるのか知らないが」


 フローゼに関する問題で少し気になることはあるが、今は後回しにする。

 カインの質問を受けたマリアは首を傾げていたが、数秒を要して納得したような表情をした。


「あっ、なるほど、やっと意味がわかりました。あなたは私のことを知りませんものね。ローラン神聖国には他に四人の聖女がいますが、これができるのは私だけです」

「つまり、他の聖女にはできないことがマリアはできると?俺はてっきり聖女だなんて呼ばれてるから回復魔法に特化しているもんだと思ってたからさ」

「いえ、もちろんカインの言う通り回復魔法を一番の得意魔法だとしていることは御想像通りですし、それは他の聖女も変わりませんよ。ただ、私は少し特別でして」


 マリアはカインに自信に漲った表情で微笑む。


「特別?何が違うんだ?」

「はい。私はローラン神聖国筆頭聖女、つまり聖女の中で最上位に位置するのです」

「はあ!?お前がか!?お前俺とそんなに歳も変わらんだろ?」

「あっ!またお前って言いましたね!」

「い、いや、すまん!マリア……」


 驚きのあまり、思わず勢いでお前呼びしてしまった。


「(くそっ、こいつここだけは絶対に譲らないな。だが、今はそんなことを気にしている場合ではない)」


 カインは慌てて訂正する。


「ほんと気を付けて下さい!それよりそんなことよりも、とにかく早く森を出ないと日も暮れそうなので歩きながら話しましょう」

「そ、そうだな」


 未だにわからないことだらけなのだが、確実にわかったことが一つだけある。


 カインがこれほど取り乱してマリアのことを聞きたがった理由であるのだが、明らかに先程のマリアの身のこなしはカインの想像を遥かに超えた動きだったのだから。

 物体具現化魔法ももちろんなのだが、マリアが垣間見せたその強さはもしかすればカインを上回る可能性を見せていた。



 そうして森を出るために歩きながら話す。


「あと、先程の話で少し気になったのですが、カインはいくつなのですか?」

「俺か?俺は十七だ。――――って、なんだよその顔は」


 年齢を問い掛けられたので正直に答えるとマリアは明らかに表情を緩めた。

 にへらと意地悪い笑みを浮かべている。


「うふふっ、つまりカインは年下だったのですね。私は十八ですよ?」

「あっ!あたしも十八だよぉ?」

「あらっ?では私とフローゼさんは同じ歳でしたか」

「だねぇ」

「――ぐっ」


 そしてここでまた一ついらない事実、マリアの方が一つ歳は上だったことが判明した。

 ついでにフローゼも。



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