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054 襲撃

 

「さて、明るくなっってきたことだし、先を進むぞ」

「はぁい」


 意気揚々と前を歩くカインとフローゼの姿を見ながらマリアは不思議に思う。


「神力……がフローゼの翼に作用している。つまり、フローゼの魔力が上昇しているのは今だけということになるのでしょうか…………」


 マリアの目が見たところ、フローゼの魔力は翼のあるなしで大きく左右されていた。

 それはつまり、この山を出ればフローゼの魔力が再び低下するということを表している。


「……あの?」


 念のために確認しておこうと、今の状態のフローゼなら魔法の操作、扱いがどうなっているのかを。


「ん?」

「なに、マリアたん?」


 カインとフローゼが同時に振り返る。


「いえ、フロ――――あぶないっ!」


 途端に殺気を感じ取った。

 マリアが瞬時に走り出すのは目の前のカインとフローゼの下。


「へ?マリアたん、どうし――」


 疑問符を浮かべるフローゼの横を駆け抜け、目の前に迫る脅威に対抗する。

 手には輝く大きな斧を構えてその脅威、巨大な獣の爪を、斧の柄で受け止めた。


「――おいおい、なん……だ、こいつは?」


 カインは目の前の獣の異様さに戸惑ってしまう。


「わぁ、でっかいオオカミだねぇ」


 マリアが斧で受け止めたのは巨大な狼の牙だった。



「――ぐっ、二人とも、早く後ろに下がって…………。少し態勢を立て直しますので」

「あ……ああ」


 マリアに言われるがままカインとフローゼは背後に下がる。


「よしっ!」


 カインとフローゼが離れたのを確認すると、マリアは数歩下がって牙を逸らした。

 巨狼の爪は地面を深く抉り、マリアは少し後ろに跳ぶ。


「えいッ!」


 態勢を立て直したところで地面を踏み抜いてその大きな斧を目一杯振り回したのだが、オオカミはマリアの斧を軽やかな跳躍で難なく躱した。


「むぅ、素早いですねぇ…………」


 軽やかな身のこなしで地面に着地をする巨狼から目を離すことなく視界に捉える。


「――グルルゥゥゥゥ」

「ならっ!」


 再びマリアの方から距離を詰めて斧を振り回すのだが、巨狼もすぐさまマリアから距離を取った。

 マリアが振り切る斧を、巨狼は素早く回避して、又、巨狼も爪や牙を振るいマリアに襲い掛かる。


 だがマリアもそれを素早く回避した。


 一進一退の攻防を繰り返し、巨大な斧を持つマリアと巨狼は何度も立ち位置を入れ替えながら素早く交差を繰り返す。

 共に決定打を与えられないでいた。


「……あのオオカミの牙と爪に身のこなし…………俺が相手だとひとたまりもなかったな」


 その攻防の激しさを見る限り、どうみても自分が立ち入る隙がないことはわかった。

 先日戦ったマンティコアなどとは比較するのもおこがましい。


 あのマリアでさえ互角なのだから。


 それを見ながら、まだまだ力不足だということを実感すると同時に考えが過る。


「――くそっ!となると、あれがここの魔獣か――」


 やはり山に登ったのは失敗だったのではないか。

 これだけ危険な魔物がいるのであるならば皆が山を迂回するのにも納得が出来る。


「俺達がもっと下がった方がマリアは戦い易いかもな」


 情けない話だが、確認する様にフローゼに声を掛けた。


 しかし、横を見ると、フローゼはキョトンとした顔をする。


「えっ?なんで下がるの?」

「いや、だってフローゼ。あのマリアでさえ現状互角なんだぞ?もし俺達を気にして戦いにくいようなら邪魔をしないようにするのも時には必要なことだ」


 この様子を見ると、もしかしたらフローゼのマリアに対する信頼は揺らぎないものなのかもしれない。

 マリアが負けることなど微塵も思っていないのだと。


 だが、遅れた判断は時には命取りになる。


「うん、それはわかるよ?」

「なら――あっ、もしかしたらフローゼはマリアが傷を負ったら治療をどうするのかを気にしてるのか?」


 確かに考えたことはなかった。

 マリアは自身の治療をどの程度行えるのか。

 その点を考慮していなかった辺り、マリアに対する絶対的な信頼は自分の方がしてしまっていたのかと思わず反省してしまう。


「いやいや、マリアたんが怪我なんてするはずないじゃない?鬼のような強さのマリアたんだよ?」

「いや、ならどうして下がらないんだ?」

「えっ?」


 フローゼは再びキョトンとした顔をした。


「だからっ!俺達にできることをするんだよ!」

「あー、そういうこと?ならカインくんがあの神獣ちゃんに話し掛ければいいんじゃないかなぁ?」


「――――は?」


 思わず耳を疑った。

 今フローゼは何を言った?


「えっと、確認するぞフローゼ」

「うん。でもなにを?」


「今、マリアは大きなオオカミと戦っているな?」

「うん、戦ってるねぇ。大きいねぇ」


「大きさはさておき、加勢に入る必要も退避する必要もないとフローゼは思ってるわけだな?」

「うん、マリアたんが負けるわけないからねぇ」


「で、だ。そこまではいい」

「うん」


 ここまでは何の問題もない。

 見た通りのことをそのまま確認しただけ。


「フローゼはあのオオカミが神獣だって言うんだな?」

「えっ? うん、そうだよ?」


「間違いないんだな?」

「だからそう言ったじゃない。もしかしてカインくんは耳が悪いのかなぁ?」


 ――瞬間、その場にゴンと鈍い音が小さく響いたのはフローゼの頭に拳骨を落としたから。


「――ったぁ!何するのよカインくん!? カインくんのばぁか!」


 涙目をフローゼはカインを恨めしそうに見る。


「お、お前の方がバカだっ!どうしてそんな大事なことを最初から言わねぇんだ!」

「えっ?」


 フローゼは三度キョトンとした。

 その様子を見てカインは呆れてものもいえない。


「だからッ! あのな、アレが神獣だということをまず最初に言えっつの!」

「えっ?カインくんは気付かなかったの?」

「俺はフローゼみたいにその神力?だったか、そんなもん感じられないんだよ!」


 やっぱりこいつはポンコツだった。


「……えっとさぁ」

「なんだよ」


 さて、あれが神獣だとするとこっから先をどうしたものか。

 マリアが負けることはないにしても、神獣を殺してしまうわけにはいかない。


「……じゃあさぁ、カインくんはあの声聞こえないの?」

「声? 声ってなんのことだよ?」


 仮に神獣を殺してしまったらどうなるのだろうか。神の奴は何も言っていなかったな。



 フローゼと会話をしている内に戦局に変化が訪れている。

 それはフローゼの予想通りの展開。


 マリアは巨狼の動きを捉え始めたのか、斧を巨狼の足や胴体に当てることが出来ていた。


 僅かに血を流す程度に留まるのは、恐らく圧倒的な攻撃力を誇るであろうマリアの武器でさえその体皮の頑丈さからだろうと予測はできる。


 両断することができずにいくつかの切り傷をつけるに留まっていた。


 それでも目の前の攻防はもう十分な程にほとんどマリアに攻勢が傾いている。

 巨狼の方がジリジリと劣勢に立たされていたのは目に見えてわかった。


「神獣の声、カインくんにも聞こえるでしょ?」

「は?神獣の声?なんだそれは?」


 聞こえてくるのはマリアが戦っている声に、グルルといった獣の唸り声だけ。


「ちゃんと聞いてみてよ。カインくんにも聞こえると思うから」


 フローゼはどこか確信を持っている様子で言って来た。


「声って、俺達以外にほかにどんな声があるっていうんだよ――――」


 とはいうものの、一応耳を澄ませて、音だけに集中する。


『――オィ』

「(ん?)」


『――ナンだヨ!』

「(あれ?)」


 すると微かにだが、声らしきものが微妙に聞こえて来た。

 なんか聞いたこともない声が耳に――――というか脳内に響いてくる。


「(これ、神の奴と交信する時の感覚に似ているな…………)」


 その感覚には覚えがあった。


 より正確に聞き取ろうと集中する。

 すると、それははっきりと感じ取ることができた。


『――――なんだ、このニンゲンッ!?どうしてオレが押されてるんダッ!? こ、このままではマズい! コ、コロされルッ!』


「――――は?」


 そっとフローゼの顔を見る。


「どう? 聞こえた?」

「……あ、あぁ」


 今ならもうはっきりとわかる。

 聞こえた声はどう見ても、いや、どう聴いてもあの巨狼の声だった。



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