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051 霊峰シュークリス山

 

 ――――翌朝。


 孤児院を後にする。

 子ども達は無邪気に「またお肉獲ってきて」「また遊ぼうね」などといったことを口々に言ってきていた。


「長い間お世話になりました」

「みんながいなくなると寂しくなるわね。近くに来たらいつでも遊びに来てね」

「あー……そうですね、近くに来ることがあれば…………」

「(真面目かよ。どうせ国に帰ったら易々と来れないこと気にしてんだろ?)」


 確約できない約束はできないのだろうと判断する。


「まぁ死んでなければまた来るよ」

「ちょっとカイン!言い方!」


 きつく睨まれたのだがしょうがない。

 マリアの素性は話さない方が良いし、実際死んでなければこの街に来た時にはまた寄ることもあるだろう。


「ううん、そうよね。冒険者だものね。来れなくてもいいからどこにいても元気でいてね」

「…………はい」


 マリアは俯き加減に申し訳なさそうに返事をした。


「ほらっ、アレンもちゃんと挨拶しなさい」


 それまでミリアンの後ろで半分ほど隠れていたアレンがミリアンによって押し出された。


「アレンくん、あんまり無茶なことしたらダメよ?」

「……うん」

「で、どうすんだ?冒険者になることは諦めたのか?」

「……ううん」


 カインの問いに、アレンは迷いを見せながらも首を振る。


「ならな――――」


 カインはアレンの目線に合わせるように身をかがめると、アレンの頭にポンと手を置いた。


「冒険者が命懸けなのはこれでわかっただろ?」

「……うん」

「先輩として最後の助言だ」


 何を言われるのだろうかと、アレンは疑問符を浮かべる。


「覚悟だけはしっかりと持つことだな」

「か……くご?」


 言葉にしていてもアレンは理解出来ていない様子を見せていた。


「うーん、まぁ覚悟といっても一言では難しいな。色々と種類はあるからな。だが本当に覚悟があれば必ず強くなれるさ。あの時俺を置いて逃げなかったように、な」


 マリアもカインの横に並び屈み、しっかりとアレンの目を見る。


「そうね、その覚悟が何かが今はわからなくても、いつか自分で答えをだせれば良いと思うわ」

「…………うん、わかった。覚えておく。覚悟、だね!」

「ええ。頑張ってね」


 悩む様子を見せながらもアレンははっきりと返事をした。


「さて、と。いつまでものんびりしていられないしな」


 カインが立ち上がり、マリアはカインを見上げながら遅れてすくっと立ち上がる。


「おい、フローゼいくぞ」

「えっ?もう行くの?じゃあね、みんなバイバイ」


 子ども達と最後まで遊んでいたフローゼに声を掛けた。




 ――――そうして孤児院の人達に見送られケリエの街を後にする。




「――しっかしまぁ本当にあれを登るのか?」


 街を出てすぐに目にするのは目の前の大きな山。

 まだ距離があるにも関わらず見上げてしまう程の高さの山。


「それが神様からの試練なのですから仕方ないでしょう?」


 さも当然とばかりに返答をするマリアを見て疑問が浮かぶ。


「(試練ねぇ。どうなんだおい?)」

『そんなわけないのぉ』

「だよなぁ……」


 うきうきとしながら前を歩くマリアの背を見て神に問い掛けると、すぐに返答を得た。

 明らかな勘違いを正そうとしてもマリアは頑として受け入れないだろうということは想像がつく。


「まぁマリアが楽しそうだからいいか」

『なんだかんだ仲良くしておるのぉ』

「仲良いのか?まぁ悪い奴じゃないし、それに一番の被害者はマリアなわけだしな…………それに…………」


 感謝をするのは、マリアのおかげでまた一つ強くなる事が出来た。

 その出会いは思い返すと碌なものではなかったのだが。


『そういえばフローゼの方はどうじゃ?』

「あいつはもう少し常識を学んだ方がいいな」


 行動に安易さが目立つ。


『そうかい。ではその辺りは頼んだぞ』

「はいはい、わかってるよ」


「何をしているのですか?早く行きますよ!」


 前方で大きく手を振り手招きするマリアにカインは呆れてしまう。


「ったく、楽しそうにしやがって」


 愚痴を言うのだが、その表情からは笑顔がこぼれていた。




 ケリエの街で見送られる前、シュークリス山を越えることに決めたことをレイモンドに話すと、気を利かせてくれて、山の麓まではレイモンドが所有する馬車で送ってくれるのだという。


 そこから先、馬車は山を迂回するために別の道を進むというので乗り合わせるのはそこまで。


 ガラガラと馬車の揺れを感じながら進み、フローゼは外の景色を見て楽しんでいた。


「――あのさ、そういえば聞きたかったんだけどさ」

「なにをですか?」

「いや、昨日確認し忘れていたんだけどさ、昨日俺が一人でマンティコアを倒したんだよな?」

「なにを当たり前のことを。覚えていないのですか?」


 マリアはカインが記憶にないのかと小首を傾げる。


「いや、実はぼんやりとしか覚えていないんだ。最後、俺なんかめちゃぐちゃな動きしていなかったか?あんなに速く動けるとは自分でも思わなかったんだけどな…………」


「ああ、そのことでしたか」


 マリアは数瞬考え、どこか納得した表情をマリアは見せた。


「あのですね、カインは魔法を使ったのですよ?それもちょっと特殊な」

「俺が?魔法を?」


 魔法なんて使った覚えなんてない。

 あの時の俺に使えるような魔法なんて何があったのかと思い返すが全く思いつかない。


「ええ。カインが使ったのは身体強化の魔法ですね。ですのでカインの動きは劇的に向上していたのですよ」

「身体強化だと?身体強化は自分には掛けられないのじゃなかったのか?」

「まぁ厳密には自分にかけても効果は非常に薄い。が正しい表現ですね。ですが、カインはそれを自分自身に効果を保ったまま掛けることが出来ていました。ですので特殊と言ったのです」


「……そうか」


 納得できるような、できないような。


 確かにそう言われればそれしかないのかもしれない。前にマールに掛けてもらった身体強化の時と似たような感覚はあった。


 しかし、どうしてそんな魔法を俺が使うことができたのか――――。


「もしかしたら、マールさんの魔力を受け継いだことが影響しているのかもしれませんね」


「…………俺の中のマールの魔力……か」


 マリアの言葉を受けてそっと胸に手を当てる。


「(だとしたら、ほんとマールには世話になりっぱなしだな。ありがとう、助かったよ)」


 心の中でマールに感謝を述べるのだが、当然返答はない。


「まぁでも十分だとは言い難いので、あと必要なのはその身体強化の効果の底上げと、いつでも使えるようになるための特訓ですね」

「ああ。あれがいつでも使えるようになればかなり便利だな」


 身体強化を一人で使えれば戦いの幅がより一層広がる。


「もちろん今回限りでなく、今後もお手伝いしますので」


 そう口にするマリアにニコリと微笑まれたのだが、正直嫌な予感しかしなかった。


 思い出すだけで吐気がするあれをこれからもすることになるのかと。

 いつまであの激烈に苦しい特訓が続くのかと思うと逃げ出したくなった。


「――そ、そういえば魔獣ってどんなやつなんだろうな?」

「あっ、そういえば何も情報がないですね。前みたいなマンティコアのようなものなのでしょうかね?」


「さぁ――――」


 ふと浮かんだ疑問を口にするとマリアも考え込んだのだが、そこで馬車の速度が徐々に遅くなり、すぐに停まる。


「皆様、お着きになりましたよ」

「ありがとうございます」

「ですが、本当にここでよろしいのでしょうか?もしよろしければ次の町までなら馬車を走らせますが…………」

「ううん、ここで大丈夫だよぉ」


 マリアが口を開こうとしたのだが、御者に対してフローゼの方が先に断りを入れた。


「そうでございますか? わかりました。ではあなた方の旅に幸運を」


 御者の男は僅かに悩む様子を見せたのだが、これ以上言っても仕方ないかと考えすぐに手綱を握って馬車を走らせる。


 馬車を見送り、フローゼを見た。


「どうした?フローゼの割には珍しいな」

「なにがぁ?」

「いや、てっきり歩くのがめんどくさくて駄々をこねるかと思ってたんだが……」

「えっ?だって神獣に会うんでしょ?」

「いや、まぁそれはそうだが、ほんとにいれば、の話だけどな」

「いるよ?」


 フローゼはキョトンとした顔で、どうしてそんな質問をされるのかわからないといった様子で肯定する。


「わかるのか?」

「うーん、まぁわかるというか感じるというか…………」


 フローゼが顎に指を当て悩まし気な様子を見せたのでマリアの方は何か感じるのかとマリアを見ると、マリアは何も感じない様子で小さく首を横に振った。


「考えられるのは、恐らく天使であるフローゼにしか感じられない何かがあるのでしょうね」

「そういうもんか?」

「今のところそうとした考えられないですね」


 確かに、と納得はしてしまう。


「まぁいるならいるで構わんが、魔獣に遭遇するのが先か、神獣に会うことが出来るのか、それともどちらとも遭遇することなく山を抜けることになるのかってところだな。いくらなんでもわざわざ神獣の捜索なんてしないからな」

「その時は仕方ありませんね」


 そうしてシュークリス山に向かって歩き出した。



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