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005 前向き

 

 地下遺跡を出た三人でカインが先頭に立ち、フローゼとマリアは周囲を不思議そうに見渡している。


 遺跡の入り口は深い森の中にあり、遺跡の周囲は背の高い木々が立ち並んでいた。

 とりあえずカインが森の入り口まで、そしてその後も一番近い人里まで案内することに話が決まっている。


「おい、フローゼはわかるがどうしてマリアまでそんな不思議な顔をしているんだ?」

「えっ?あっ、はい。いえ、ここに育っている草木が私のところとは違っているので興味深くて」

「そうか。まぁ気候が違えばそういうこともあるだろうからな。それが珍しいのか?」

「ええ。知らないことを知ることで国民の助けになる何かがあるかもしれないじゃないですか」

「ふぅん、そうか」


 マリアの様子を見て更に疑問が浮かぶ。


「(聖女……か)」


 突然召喚されたと聞かされ、わけのわからないことになっているにも関わらず落ち着いた様子を見せているのだ。


「思った以上に落ち着いているんだな。もう少し困惑するかと思っていたんだが」


「……私、わかりましたの」


「わかった?何がだ?」


 妙に落ち着いているなと思ったのだが、なるほどな、さすがは聖女といったところか。

 何かを理解したのだろう。


「これは神が私に課した試練だということが、です!ねぇ、そうですよね、フローゼさん?」


 確信したように横を歩くフローゼに話し掛けた。


「えっ?ちがいますよぉ。単純にあたしの失敗ですよ?」

「――ぷっ!」


 迷うことなく否定されたことで笑ってしまったのだが、マリアは鋭い目でカインを睨む。


「わ、わかっていますよ!フローゼさんも本当のことを言えないのですね!試練だって敢えて言わないようにしているだけだってことを!でないと試練になりませんものね!そ、それにそれだと私に神様の声が聞こえない理由にも納得できますもの!カインにだけ聞こえて聖女である私に聞こえないなんてありえません!」


 フローゼに即座に否定されようがマリアは尚も強情な様子を見せた。


「(おいおい、えらい前向きだな。けどまぁマリアがそれほど地位ある聖女ならその考えにもわからないこともないが、実際のところどうなんだ?っていっても神も忙しいみたいだからまた今度話が出来たら聞いてみようか)」


『――まぁ、偶然じゃな』

「おおぅ!?いきなり話し掛けんなよ!」


 心の中での問いに対して神から返事をされ思わず驚く。


『なんじゃ、お主から話し掛けたのではないか』

「そうだけど、さっきは忙しいって言ってたじゃねぇか」

『ちょっぱやで終わらせたので只今休憩しておる』

「その休憩で覗きとか、趣味が悪いぞ」


 神とはいっても実は暇なんじゃないかと疑問が浮かぶ。


『細かいことは気にするな。せっかくこんな面し――――儂の管轄内で不備が起きたのだ。責任は取らんとな』

「お前今面白いって言おうとしただろう?」

『いやいや、お主の聞き間違いじゃ。フローゼのミスは儂のミスじゃからのぉ』

「ちょっとカイン? 」


 そのままいくらかやり取りをしているとマリアが膨れっ面を見せていた。


「今もしかして神様と話をしているのですか!?」

「ん?あぁ、まぁそうだな。今は休憩中らしい」

「それ私の声は聞こえているのですよね?」


 神の声が聞こえないマリアはカインに確認をする。


『ああ、もちろんじゃ』

「もちろん、だってさ」


 マリアはそこで顔を綻ばせて両膝を地面について両手の平を合わせて祈りの姿勢になって憂いの表情を浮かべた。


「ああ神よ。この度神から与えられたこの試練を私は見事に遂行してみせます。今はそのお声を聞くことが叶わないのは私に試練を与えるためであり、そのためにカインとフローゼさんを私のお供にあてがわれたのですよね?」

「おい、誰がお供だ誰が!ってか神は違うって言ってるぞ?」

「またまたぁ。カインも嘘が下手ですね。さ、早く行きましょう!」


 マリアは笑顔になり、立ち上がり前を歩いて行く。


「ったく、聖女ってみんなあんな感じなのか?」

『まぁあの子が特別前向きなだけだと思うが?』

「だよなぁ」


 カインとその場を覗き見ていた神は同様の印象をマリアに抱いていた。


「そういや、フローゼの魔力はどうにもなんないのか?」

『ん?どういうことじゃ?』

「いや、今はいいけど、これから旅をするってんなら戦力の確認をしておきたいからさ。俺一人だと問題ないけど、さすがに足手まといが二人だと守るのが大変だからな」

『ふむ、なるほどの。フローゼの方は、神の威光を得られる媒体があれば多少はなんとかなるかもしれんが今はあの通りじゃ』


 神の威光を得られる媒体?

 そんなものが存在するのか。聞いたこともない。


「それはどこにあって、どんなものなんだ?」

『さぁのぉ。もしかしたらそこらにあるかものぉ?』

「ちっ、自分で探せってか」

『ヒントはやったじゃろ?とはいうが、現状の魔力量でもそれほど問題はないと思うがの)』


 カインはその話を聞いて考える。


 どこかに神の威光を得られる媒体になり得る物が存在するのか。

 通常で考えると伝説級の武具とかになるのか。

 だが、今すぐそれをどうにかできるわけでもない。


「ああ、まぁそれは仕方ないな。それで、フローゼの方って言ったが――――お、おいっ!あぶねぇ!!」


 ――神と会話をしていたカインは突然前方に向かって走り出す。


 少し前を歩いていたマリアとフローゼの横の茂みが明らかに異様な動きを見せたのだ。


「ちっ、俺としたことが集中を切らしちまってた!――くそっ、間に合うか!?おい!早く逃げろ!」


 大声を上げてマリアとフローゼに声を掛ける。


 油断していた。ここは魔物が出る森の中だということを。


 ソロの冒険者であるカインは、普段は自身のことを優先に考えているので他人に注意を払うことに慣れていなかった。



 次の瞬間、茂みから二匹の獣型の魔物が飛び出して来た。


「ちっ、間に合わねぇ!」


『うーん、心配いらんと思うがのぉ』


 その場を傍観している神はカインが二人の下に間に合わないことを知っている。



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