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046 発現

 

「――――ぐっ……くぅ、おおおおおおおおおおおおッ」


 あまりの苦しさに地面を転げまわる。


「カインくん大丈夫なの?」

「ええ。私の見立てではもう少しだと…………恐らく、ですが」

「……それ、本当に大丈夫なの?」


「――たぶん」


 マリアは転げまわるカインを見ながら考えるのだがはっきりとした確証はない。それでも可能性を見出すのは、あれから三日、カインの中の魔力の塊は確実に大きく変化をしている。


 マリアが視る限りでは、カインの中でその塊は徐々に膨張していっていた。


「(でも、もしこれをカインの身体が耐えられなかったら――――)」


 それでも危惧するのは、膨張して破裂してしまった時の事。その時にカインの身体が耐えきれなかったら即座に中止をしてかつダメージを最低限に留めるつもりでいる。


「――ぐっ、ぐぅううう」


 カインは胸に手を当て、なんとか起き上がった。


「ど……どうだ?」

「うーん、あとちょっとみたいなんですけどね…………」


「そ……うか――――」


「カインくん!?」


 カインは力尽き、意識を失いその場に倒れ込むのをフローゼが受け止める。


「今日はこれぐらいにしておきましょうか」

「カインくんはどうするの?」

「そうね、目を覚ますまで寝かせておきましょ」

「じゃあ部屋で――お、おもいぃっ」

「あっ、今日は天気も良いし、そこの木陰で寝かせときましょ。自然に触れることも魔法を覚えるために必要な感覚を身に付けることもあるので」

「えっ?あっ?そう?じゃああたし街に行って――――」


 フローゼが笑顔で街の方に向かおうとするのだが、マリアがガシッとフローゼの肩を掴んだ。


「な、なにかな?」


 振り返り、マリアの顔を見ると、マリアはニコリと微笑む。


「いやぁ、ここ最近ずっとカインに付き合ってたから今日はちょっと物足りないのよね」

「えっ?あー、それって、もしかして…………?」

「うんフローゼ、付き合ってよね。遊んでばっかりでしょ?」


 笑顔を崩さずマリアは言葉を続ける。


「(カインが受けていたあれをあたしが……?)」


 言葉の差す意味を理解するなり青ざめた。


「ムリムリムリムリ!絶対にむーりっ!」

「大丈夫よ、心配しないで。ね?フローゼに合わせた内容にするから」

「あたしに合わせた……内容?」

「もちろん魔法に特化させた内容よ」


「――いやぁあああああ!」


 マリアは少し離れた場所にフローゼを引き摺って行く。



 ――――。


 ――――――。


 ――――――――。


 暗い部屋の中、部屋といったらいいのか、空間といったらいいのか。

 すぐそこで行き止まりになるかもしれないし、どこまでも続いているのかもしれない。

 意識はなんとなくだが認識できる。あるにはあるのだが、どこか浮遊感に漂う感覚を得ている。


「どこだ……ここ?」


 ふわふわとする感覚、地面に立とうともしっかりとは立てない。


「あっ、もしかして俺は死んだのか?」


 あれだけの苦しみがあったのだ。耐え切れずに死んでしまったのではないのかと考える。


「そっか、結局俺は――――」

『何を言ってるの、カインは?』

「えっ!?」


 背後の声に振り返る。


「お……前…………マールか?」


 そこにはかつての友が記憶の中と寸分違わない変わらない姿で立っていた。


『久しぶりだねカイン』

「そっか、マールに会ったってことはやっぱり俺は死んだんだな…………。すまん、俺も――」

『いやいや、カインは死んでなんかいないよ?』

「だってマール、お前――――」

『ボクはカインの力になるためにここに来たんだよ。いや、ここにいるといった方が適切なのかな?』


「……ここにいるって?」


 意味がわからない。

 久しぶりに会ったといったらいいのか、マールが何を言っているのか理解できない。

 マールの顔をジッと見ると、マールはカインの胸に拳を当てた。


『ココ、だよ』

「は?」


『ボクの最期のあの時、カインはボクの手を握ってくれていたよね?』


 その言葉を聞いて、ギュッと胸を締め付けられるような感覚を得る。

 あの時の苦しみを思い出した。


「すまん、あの時――」


 俺はお前を、と伝えようとしたところで頬に強烈な衝撃を受ける。

 同時に横に大きく吹き飛ばされた。


「てめぇッ!何しやがる!」

『カインがいつまでもぐちぐち言ってるからだろ!』

「だからって殴ることないだろうがっ!」


 マールに殴られたのなんていつ以来か。小さい頃は何度も喧嘩をした。最後に殴られたのはマールの才能と自分の才能の差を痛感させられた時だったっけか。


 懐かしいな。


 あれ?そもそもマールってこんなに力が強かったかと不思議に思うのだが、考えが上手くまとまらない。

 思えば断片的に思い出される記憶もどこか物足りなさを感じる。


 ふと考えに耽っていると、マールが目の前に来る。

 手を伸ばして来るので、何気なく手を握り返すとカインを立ち上がらせた。


『あのさ、ボクはカインを恨んでなんかないよ。知ってるよね?』

「いや、それはまぁ……」


 わかる。

 あの最期の笑顔を見て理解できた。何かを明確に伝え合ったわけではないが伝わった。


 思い出した!

 どうしてもマールに聞きたいことがあったのを。

 こんなことを話している場合じゃない。


「おい、マール!お前あの時――――」

『――あの時、カインはこうして最後までボクの手を握ってくれていた。だから渡すことができたんだよ?』

「――――えっ?」


 手を握ったまま、反対の手で再び胸の辺りをドンっと叩かれる。


『だからね、カインはこれからもっと強くなるよ。元々強くなれたはずだったけどボクの分と合わせてずっとね』


 ニコリと微笑むマールの存在感が握った手を通じて薄れていくのを感じる。


「待て!まだいくな!お前に聞きたいことがあるんだっ!」

『ボクのことを忘れてくれとは言わないけど、カインにはもう仲間がいるだろ?』

「えっ?」


 間隙を縫って問いかけられた内容に思わず戸惑った。ふと思い浮かべるのは銀髪と金髪の女性達。


『あんまりボクのことばっかり考えていると嫉妬されるよ?』

「いや、あいつらに限って嫉妬なんてするわけないだろ?ってかお前どうしてあいつらのこと知って――」

『ふふっ、いつも見ているからね。頑張ってねカイン』

「待ってくれ、頼む!まだ――――」


 聞きたいことが聞けていない。

 だが、目の前からマールの気配が完全になくなったのを感じた。


「おい、一体何がどうなってんだよ」


 マールに当てられた腕の先、自身の胸にそっと手を当てる。

 カインの目尻から垂れた水滴は頬を伝い、顎を流れ、胸に当てた手に静かにポツリと落ちた。


 滴は手に当たると小さく跳ね、ピチャっと小さな音を立てる。


「――えっ?」


 音がした瞬間、突如として光に包まれた。

 その光に包まれることに驚きを禁じ得ないのだが、恐怖はない。安心感に包まれる。


「そっか、そういうことか…………ありがとう、マール」


 光が一際大きくなる。

 薄暗いその場は一気に光に包まれる幻想的な空間に生まれ変わった。

 どこか浮遊感を得ていた感覚も徐々にはっきりと感覚を覚えていく。背中に硬い感覚を得ながら、後頭部には柔らかい感触を得る。


 光が徐々に収まると同時に、視界の先には葉っぱの隙間から差し込んで来る僅かばかりの光が目に入ってきた。


「……うっ」


「――大丈夫ですか?」

「もう!なにしてんのよカインくん。急に苦しみだすから心配したじゃないのぉ」


「マリア、フローゼ…………」


「ねぇねぇ、カインくん」

「――ん?」

「カインくんは泣き虫なのかなぁ?」


「……泣き虫?」


 フローゼに言われたことで目尻を拭うと、涙が流れていた跡があったのがわかった。


「なにか悲しい夢でもみていたのですか?」

「夢……だったのか?」


 とは言うものの、はっきりと思い出せない。今何を見て何を知ったのか、大事な何かだった気がする。


「すまん、覚えてない」

「いいですよ、無理に思い出さなくても」

「そうだよ、そのままマリアたんの太もも堪能してればそのうち思い出すよ」

「太もも?」


 フローゼの言葉に思わずマリアの方に向かって身じろぎする。

 目の前には白い綺麗な足があり、視界に映るのは神秘的な光景。少し上を見上げると、太陽の光が僅かに陰影をつける美しい顔があった。


「――――あっ」

「ちょっとカイン?あんまりジロジロ見ているとさすがに怒りますよ?」

「いや、見ていない。ただ――」

「ただ?」

「うん、もうちょっと寝かせておいて欲しいな」


 もう少しこの感触を堪能したい。


「もうっ、仕方ないですね。あとちょっとだけですよ?」

「ああ、助かる」


「あっ、カインくん、さっきマリアちゃんが――――」


 フローゼが何かを言おうとしたところ、マリアは指を一本立ててそっと口元に当てる。


「――あっ、もう寝ちゃったんだ」


 小さく寝息を立てるカインは先程見せていた苦しそうな表情はなく、薄く微笑んでいた。


「ええ。恐らく魔力を身体に馴染ませるために今は寝ていたいのかと」

「ふぅん、そうなんだぁ」


 マリアが視るカインの中には、魔力の塊はそこにはなく、代わりに感じるのはカインの中を巡る魔力の奔流。



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