004 目的
嘘か真か、聖女マリアと名乗る人物は、ここコルト王国から遥か北上した先のローラン神聖国に戻るという。
しかし、マリアはローラン神聖国から出たことがなかったらしい。それどころか馬車を乗り継いだりするやり方なども知らないとのこと。
カインの問いかけに対して答えられないことで恥ずかしそうに顔を赤らめていっていた。
「……とんだお嬢様だな」
「う、うるさいわね!と、とにかく!あなたにも責任があるのですからわかるところまで案内をする義務があります!」
「(だからそう言ってるじゃねぇか)」
溜め息がでる。今まで何を聞いていたのか。
「はいはい。じゃあ行こうか」
とにかくこのままここでじっとしているわけにもいかない。
カインとマリアは反りが合わない様子を見せながらも、仕方なく道中までの行動を共にすることにした。
「行きましょ、フローゼさん」
「はぁい」
先にマリアがフローゼに声を掛けて地下遺跡の広場を出ようとしたところでカインは前を歩く二人を見て疑問が浮かぶ。
「なぁ、その翼は引っ込められないのか?」
「えっ?これですか?これはですねぇ。見ていてください」
カインの抱いた疑問はフローゼの背にある大きな翼。
そのまま地上に出ればどう見ても目立って仕方がなかった。
目立つだけならまだいいのだが、人目につけばそうも言っていられない。
カインの疑問を受けたフローゼは、問い掛けられた答えを用意するかのように広場の出口に向かって歩いて行く。
その様子にもまた疑問しか浮かばない。
そうしてフローゼは歩いて行き、広場を出た途端に背中の翼はシュンと音を立てて消えてしまったのだ。
「は?」
「えっ?」
その様子を見てカインは目を見開き、マリアは口に手を当て驚愕する。
「ここを出れば天界との繋がりが薄くなるので翼はなくなるのよねぇ」
「うそ……あれだけの魔力が全く感じられなくなっちゃった」
「……そうか、翼が消えるなら見た目はただの人間だな」
見た目はただの若い少女。
多少人目を惹く長い金髪と豊満な身体をしているが、それ以上特に目立っている様子もない。
「(はぁ、つまりだ)」
同時に溜め息も出た。
「(こりゃお荷物が二人になったってことだな。場合によっては天使の魔力を期待してたんだけどな)」
カインは今後のことも踏まえて考えていたのだが、そうなると少しばかり悩ましくなる。
『まぁそう言うな。これは天界の者が人間の世界に大きく関与できんように施されている処置じゃ。仕方ないのじゃ』
「(大きく関与、ね)」
その言葉がどれくらいの意味を差しているのか気にはなるので問い掛けた。
「そうか。じゃあ神の方はどうなんだ?」
『儂か?儂の方はこうして声だけになるの。用事があれば心の中で問い掛けよ。じゃが、儂もいつも暇しているわけではないのでいつでも答えてやれるとも限らんがな』
「つまり今は暇しているわけなんだな」
『まぁ暇もそうじゃが、フローゼの初任務を見学しておったらこんなことになったという方が正しい表現じゃな』
「あいつ、今回が初任務なのか。ちっ、とんだハズレだな」
話しを聞くたびに溜息しか出てこなかった。
『そう言うな。今回の件、お主にとっても何も悪い話ばかりではないぞ?』
「どういうことだ?」
『ほっほっ、それはあのマリアという人間を送っていけば自ずとわかるということじゃな』
「ちっ、神のみぞ知るってか。そう言われると引き下がれないじゃねぇか」
『ほっほっほっ、ではまたな。フローゼのことを頼んだぞ』
「おい!まだ聞きたいことがあるんだって!おい!おいってば!」
口に出そうが心の中だけに留めようが、何度問い掛けてもそれから神の返事はなかった。
「もう、一人でブツブツ何を言っているのですかカイン?早く行きますよ」
「ってか、マリアも俺のことを呼び捨てにしてるじゃねぇか」
「それはそうでしょう。あなただけが私を呼び捨てにするなど不公平でしょ?ですので私もあなたのことをカインと呼ぶことにしました。文句でも?」
「ああ、別にまぁ慣れているからいいけどな」
ソロで活動していても名前を呼ばれることなどいくらでもある。
呼ばれ方などどうでもよかった。
「それよりフローゼ?」
「なぁに?」
「神のやつ、声が聞こえなくなったんだが?」
「まぁ神様も忙しいひとだからねぇ。仕事に戻ったんでしょ」
「ちっ、つまり今度いつ話ができるかわからねぇってことだな」
聞きたいことなどいくらでもある。
「まぁそういうことよねぇ」
「仕方ないな。じゃあいくぞ」
「カインが一番遅いんでしょ?早く来なさい!」
「(このやろう!これのどこが聖女なんだ?)」
そうしてカインとマリアとフローゼは地下遺跡を出て、今居るコルト王国からマリアを元居た国、ローラン神聖国まで送り届ける旅をすることとなった。