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038 過去

 

『――――ねぇカイン、どうして仲良くやれないの?』

『俺とマール、二人で上を目指すから別に誰かと仲良くなる必要なんてないだろ?』


『……はぁ。まったく、カインは相変わらず人見知りだなぁ』



「――――昔、俺は王都で過ごしていたんだ。生まれは違うんだが俺の育った場所だな。その当時、俺には幼馴染のマールってやつと一緒に組んでいて、二人で冒険者になって一年が経っていた頃だ」


 思い出すように言葉にしていく。忘れているわけではない。マールのあの笑顔を思い出すのが今でも辛い。


「俺はマール以外のやつとはあんまり馴染めなかったんだが、マールはその人当たりの良さから誰彼なしに仲良くなっていったんだ」


「へぇ、そうなんですね」


 マリアもそれだけでわかる。その死んだ親友というのがマールという名の子のことだということは。


「それで、マールが知り合った中にこの間会ったバーバラさんがいたんだが、バーバラさんが俺に剣の稽古をつけてくれることになってな。一応弟子入りという形になっているっていうのはマリアも知っているよな」


「ええ。ですがそのマールって人は? 一緒に稽古をしなかったのですか?」


「マールは魔導士だったよ。それも超が付く天才のな」


「あっ、そう……なんですね」


 そんな人がどうして死ぬことになったのか、マリアはカインが続ける言葉を待つ。


「バーバラさんが俺に剣の稽古をしたのはマール立っての希望だったんだよ。俺はいらんと言ったんだが、まぁ流れで仕方なく、な」


 そこだけはまた違う意味で思い出したくなかった。

 あの当時、バーバラさんには容赦がないぐらいボコボコにされたのだから。


「そんな俺がボコボコにされるのをマールは嬉しそうに見ていたよ」


 両手を顎に当て座りながらニコニコと見ているマールの口癖はいつも同じだった。



『――カインはちゃんとすれば強く、それこそ国中に知られるぐらいの腕にだってなれるんだと思うんだよねぇ』


 息を切らせながらあちこち痣だらけになり寝転がるカインにマールは不思議そうに問い掛ける。


『俺が?ないない。俺はお前と違うんだって。現にこうしてバーバラさんにいびられ続けてるじゃないかよ』


『でも前より強くなったと思わない?』

『まぁ、それに関しては否定はしない、かな?』


 今思えば卑屈になっていたのかもしれない。

 そこにいる幼い頃からの親友はこと魔法に関して圧倒的な才能を見せていたのだから。


 マールは神童と持て囃されるくらいその力は誰にも認められていた。

 詳細はわからないが王国の魔導士団にもかなりの待遇で勧誘されていたらしいというのを噂で聞いていた。


 そのことをマールに聞いたらいつもはぐらかされて、その時の決まり文句も同じだった。


『ボクとカインの二人で伝説になるんだろ?』

『いやまぁ確かにそう言ったが…………』


 本当に幼い頃の約束だ。

 二人でマールの家の英雄譚を読んでいた時に冒険者への憧れの念を持ったことが約束のきっかけになった。


 ――――そして、成長すると共に、マールの才能が素直に羨ましくなった。


 マールの魔法の才能に対して、俺はほとんど魔法の才能がなかった。身体能力と剣に関しては俺の方が上回っていたのだが、魔法の汎用性の高さが示す通り、能力が高ければそれだけで冒険者でなくとも一目置かれるのは世の常。


「仲は……良かったのですよね?」

「ん?いや、もちろん良かったよ。俺が一方的に嫉妬していただけだな」

「嫉妬……ですか?」

「ああ。当時は考えなかったが今にして思えば嫉妬だな」


 他に類を見ない才能を見せるマールに対して、今思えば。という話なのだが。


 当時はどうして自分は強くなれないのかということばかり考えていた。それと同時にどこか努力してもマールの横に立てない自分に歯痒さも感じていた。


 それでも、そんな俺に対してマールは常に横に居てくれた。それに対しての申し訳なさと情けなさは当時でも自覚はあった。


 幼い頃の約束を大事にしてくれることには確かに感謝はしていた。それは間違いなかった。


 そして、バーバラさんに会わせてくれたことで確かに剣技は上達した。

 それまで我流で磨いた剣技に師事を受けたことでそれなりに上達できた。それでもマールの横に立つにはまだ届かないのというのは断言出来た。


「そんなに凄かったのですか?そのマールという人は?」

「まぁな。伊達に神童なんて呼ばれていなかったってことだな」

「へぇ……」


 それまで真っ直ぐカインを見ていたマリアは僅かに視線を逸らせる。


「(神童……ですか。そんな風に呼ばれてもそんなに良いものでもないですけどね)」


 考えるのは自身に置き換えてのこと。


「それで?それからどうなったのですか?」


 逸らせた視線を戻して再びカインを見る。

 マリアもわかっている。ここまでの話はあくまでも前置きなのだということを。


「…………王都の近くにある、まだ完全に攻略されていないダンジョンがあるのは知っているか?」

「えっ?ええ。確か、百年ほど前に急に現れたっていうダンジョンですよね?ローランでも噂は入ってきましたよ」


「ああ。それのことで合っているだろう。ある階層からからは入る度に構造が変わる妙なダンジョンだな。実際は攻略されているのかどうか不確かだっていう話だ」


「それってどういうことですか?」


 マリアは眉をひそめる。意味を理解出来ていない。


「俺も噂に聞いただけなんだが、一応最下層までは辿り着いたものがいるって話なんだ。地下二十階層が最下層という噂なんだが、ただ、それだけのダンジョンなのに何もなかったっていうよくわからないダンジョンだな。だから今ではほとんど入る者はいない。腕試しと素材集め以外にはメリットがないからな」


 入る度に構造が変わり、かつ魔物が出現するダンジョン。それだけを聞けば心昂るものも冒険者ならあるだろう。攻略した先に何があるのか見てみたい。


 だが、王都の近くにあることも相まってそれなりに調査はされてきた。奇妙なダンジョンなのだから当然だ。


 結果、最下層に何もないという噂が立てば挑戦者は少なくなるというのも必然。

 攻略する意味がないのだから。


「だがマールの見解は違ったんだ」

「そうなのですか?」


「ああ、マールはこう言っていた」


 マールの言葉を思い出して言葉として紡ぐ。


「『どう考えてもそれだけのダンジョンなのに何もないなんてありえない!ボク達でいつかこのダンジョンを攻略しよう!それが終わったらそれから世界を巡るんだ!』ってな」


「……確かにそうですね。私もそのマールさんの意見には今のところ同意できますね」


 マリアとしても否定できるだけの要素は見当たらない。実際見てもいないので肯定もできないのだが。


「ああ。だが、王国がいくら調べても何もないって答えになるんだ。それ以上の調査――――」


 そこまで口にしてカインは言葉に詰まった。そしてガシガシと頭を掻く。


「すまん、話が横道に逸れたな。いや、無関係な話じゃないんだが…………」


 ダンジョンが無関係ではないというのに横道に逸れたというのはどういうことなのか――――。

 それから少し待つものの、カインは言葉にできないでいた。その様子からはどう言葉にしようか悩む様子を見せている。


 そこでマリアはハッなり気付いた。


「……もしかして、そのダンジョンでマールさんは……――――」


 マリアが口にしたことでカインは唇をグッと噛み締める。


「……ああ、ご明察の通りだ。そのダンジョンでマールは死んだ」


「どうして――」


 まだ駆け出しなのにそんなダンジョンに踏み込んでしまったのかと問おうとしたところで――――。


「――俺を守ってマールは死んだんだ」


 そう口にするカインの表情はマリアがここまでカインが見せたことのない、見たことのない悲しい表情を浮かべていた。


 容易に受け取れる。どうにもならない感情に苛まれているのだということを。


 だが、わからないことはまだある。

 先程浮かんだ疑問だ。


「どうして――」


 再び問い掛ける。恐らくここを聞かなければならないことはわかっていた。



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