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031 魔獣の正体

 

「――つっっぅぅぅぅ」


 カインは一人、森の中でアレンがいないか見回しながら後頭部を擦っている。


「くそっ、マリアめ。思いっきり殴りやがって……」


 森の入り口で別れて十数分経つのに未だに痛みが引かない。


 マリアはカインの後頭部を殴打したあと、この非常時に何を言っているのだと怒っていた。痛がるカインの後頭部の治療をすることなくフローゼを連れて森の中に入って行っている。


 アレンの捜索に当たり、見つかる見つからないに関わらず、約二時間後に森の入り口に待ち合わせをすることにしていた。


「しっかし、あいつどこまで入って行ったんだ?」


 キョロキョロと周囲に視線を配りながら捜索するのだが一向に姿が見当たらない。


「ったく、もうすぐ日が暮れるしな。 早くしないと危険度が上がってしまうし、それに、さっきの通り雨のせいで地面も滑りやすくなってるしな」


 ただでさえ薄暗い森の中、日が暮れれば十分な視界の確保が難しくなる。

 そんな中、雨の影響もありところどころぬかるんだ地面を見るとアレンのような子どもが無事で済むとはとても思えない。


「――ん?」


 そうして視線を向けていた先、土が見えていた地面に小さな足跡が見えた。


「……これは、アレンか?」


 カインは周囲を見渡す。

 移動しているのは昼間に訪れた道とほとんど変わらない道。ぬかるんだ地面にできた足跡から推測できるのは、周囲にカイン達の足跡が微かに確認できたので間違いなくカイン達が通ったあとにできた足跡なのだということがわかる。


「ちっ、やっぱりこの先にいるのか?」


 ほとんど確信を得たので、カインは急いで月夜の花がある野原に向かって駆けだした。


「頼むから無事でいろよ」


 いくらかの焦燥感に駆られる。

 そうして少し走っている間に日も完全に暮れてしまい、視界は夜空から差し込んで来る少しばかりの光が頼りになった。


 深い森の中を突き抜けると開けた野原があるのは昼間と変わらないのだが、そこには昼間と全く違う景色が広がっている。


 眩いばかりに花開いているのは、月夜の花が咲く野原。


 野原に辿り着くとカインは感嘆の声を上げる。


「すごいな、こんな綺麗な花だったんだな……」


 目の前に広がるのは夜空の満天の星空の中から一際強く輝いている月の光を存分に浴びて煌々と花開いている赤と青の花、月夜の花が辺り一帯に咲き誇っており、その光景は幻想的に見えた。


「――っと、それよりもアレンはいないか」


 余りにも美しすぎた光景に目を奪われてしまったのだが、すぐにここに来た目的を思い出し、アレンの姿がないのか探し始める。


 そして、探し回る必要もない程にアレンはすぐに見つかった。


 視界の奥、アレンはいくつもの月夜の花を手に持ち、鞄に詰め込んでいたところが見えるので歩いて近付く。


「――おい、こんなところでなにしてやがる?」


 アレンに近寄り声を掛けると、アレンはビクッと身体を動かして慌てて声が聞こえた方向に向かって振り向いた。


「って、ああびっくりしたぁ。なんだ兄ちゃんか。脅かさないでくれよ」


 アレンはカインの姿を確認すると安心してホッと胸を撫で下ろす。


「なんだじゃないだろ?みんな心配してるぞ?」

「わ、わかってるよ!これを採ったらすぐに帰るから」


 アレンは手に持っている赤と青の綺麗な花、月夜の花をカインの前にずいっと差し出した。


「あのな、ミリアンさんが心配なのはわかるがあんまり無茶なことするなよ?」

「……わかってる」


 カインの言葉を聞いてアレンは不貞腐れながら俯く。


「(まぁいいか、これぐらいの歳の頃は多少の無茶もしたくなるもんだしな)」


 あまり小言を言っても仕方ないと思いながらアレンの手を引いた。


「じゃあもういいだろ。帰るぞ」


「うん」


 アレンはすっと立ち上がり、手に持っていた最後の月夜の花を鞄に入れる。


 そうして元来た道を帰ろうと振り返り、同時にアレンの頭にポンと手を置いた。


「まぁ気持ちはわからないでもないぞ?」

「えっ!?」


 突然どうしたのかとアレンはカインを見上げる。


「あんまり褒められるもんじゃないが、時には冒険もしないとな。男だもんな」

「な、なんだよ、兄ちゃん!わかってるじゃねぇか!」


 ニカっと笑い返してくるアレンを見てカインは小さく息を吐いた。


「ったく、生意気なガキだな」


 そうしていくらか思い返す。


「(俺の時はどうだったんだろうな?今ならバーバラさんの気持ちがちょっとぐらいわかるな)」


 とは考えるものの、「(俺のガキの頃の方がまだもうちょっと素直だっただろ?)」と考えた。

 バーバラに対して同じような態度を取っていた過去の自分を思い出して小さく笑みがこぼれる。


「なぁ兄ちゃん?」

「なんだ?」


 パン、パン、とアレンはズボンの埃を払いながら視線を合わせずカインに話し掛けた。


「あのさ、今度戦い方を教えてくれよ?」

「あのな、頼み方ってもんがあるだろ?教えてください、だろ?」


 どこまでも過去の自分と重なってしまう。


「いいじゃん、ケチー」

「ケチとかそういう問題じゃないって。それに俺もまだまだ鍛錬中の身だしな」


 別に煙たがる必要もないのだが、言い方が気になるのは、まるで昔の自分を見ているようだった。


「ふーん、弱いの?」

「どうだろうな。弱いつもりはないが強いとも思わないな」

「なにそれ?よくわかんないな」

「まぁそのうちわかるようになるさ」


 俺の様にな、と思いながら歩き始めると、アレンはカインの後ろで疑問符を浮かべながら付いて歩き始める。



「――ぶっ!なに急に止まってんだよ!」


 アレンはすぐに立ち止まったカインの背に顔をぶつけて鼻を押さえた。


「黙れっ!静かにしろ!」

「えっ!?えっ!?」


 カインは小さな獣の声とただならぬ気配を感じて空を見上げる。


 見上げた先、上空には大きな影が月を背景に映し出されており、次第にその影は大きくなっていった。


 バサッ、バサッ、と音が近付いて来るその大きな音を立てながらソレはカインの目の前に降り立つ。


 カインの眼前、数メートル先には身の丈4メートルほどの大きな体躯で、四つ足の背に翼がある大きな獅子が立ち塞がっていた。

 獅子の尻尾はうねうねと動いている。


 アレンはカインの背中から何が現れたのかと思い覗き込むと同時に恐怖に慄いた。


「に、兄ちゃん、あ、あれ…………」

「…………ああ、マンティコア……だな」


 目の前に現れた獣の名前を口にしながら額を脂汗が伝う。


「まさか、あれが魔獣の正体か…………? アレン、俺から離れるなよ!?」


 カインは腰に差していた剣をシュッと素早く抜き、正眼に構えた。



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