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030 アレンの行方

 

 孤児院の子どもに案内された先は台所で、カイン達が駆け付けるとミリアンが床に倒れていた。


 その表情は苦悶に歪んでおり、呼吸が荒く脂汗が垂れている。

 周囲にはミリアンを心配そうに見ている子どもたちの姿があり、その中には黒髪眼鏡のロイの姿もあった。


「大変!」


 マリアが食堂に入るや否やすぐに駆け寄り、ミリアンを抱きかかえる。


「すごい熱!――我、汝に癒しの施しを分け与えん――」


 マリアが魔力を込めると途端に腕の中で抱かれるミリアンは白い光に包まれた。

 光の中のミリアンは次第に荒かった呼吸が落ち着き始め、歪んでいた表情も穏やかになっていく。


「――ふぅ、とりあえずこれで安定したみたいね」

「凄いな、傷の治療だけでなく病魔に対しても相当な効果があるんだな」


 その手際の良さはもちろんだが、ミリアンの容体を見て驚嘆した。


「全部ってわけじゃないですけどね。怪我にしてもそうですけど、基本的に治癒魔法は本人の抵抗力を上げているだけですから失った血や体力は戻りません。病気なんかは特に特定の魔法薬や薬草を併用する方が効力は一層上がりますし」

「そんなもんなんだな」

「万能な魔法や道具なんて存在しないってことですよ」

「(まぁ、それはそうだろうな。それがあればマールも死なずに済んだしな)」


 カインもマリアが言っていることは理解できる。そんなものがあればと頭の隅で考え表情を落とす。


 マリアはそのままミリアンを腕に抱いたまま話していたのだが、これで現状問題はないと判断して視線をカインに向けた所でミリアンの容態が安定しているのに表情を落としているのが何故なのか気になった。


「あの、カイン?――」

「――あっ!?」


 どうしたのかとマリアがカインに問い掛けようとしたところで近くにいたロイが思い出したかのように大きな声を上げる。


「どうしたの?急に大きな声を出して?」

「大変なんです!アレンが薬草を取りに街の外に行きました!」


 その場にカイン達が知る子どもの姿がなかった。


「薬草って、どこに?」

「たぶん……迷いの森に…………」


「「!?」」


 ロイの言葉を受けてカインとマリアは驚く。


「なんだって!?なんてまたあんなところに?薬なら街で買えないのか!?」

「買えないんです。いえ、買えないというより買うことができないんです」


 どういうことなのかわからず疑問符を浮かべた。


「僕たちはレイモンドさんから不自由のない生活を送らされていただいていますが、魔法薬や薬草のような高級品を買えるほどのお金を持たされているわけではないので……」

「なるほどな。で、なんで迷いの森なんだ!?」


 言いたいことはわからないでもない。消耗品な上に高価で貴重な治癒道具が常備されているはずもない。


「それが……その……」


 いくらかの納得をしながら問い掛けるのだが、ロイは口籠った。


「おい!早く答えろ!」


 カインの声にロイはビクッとなり肩をすくませる。


「カイン、ちょっと落ち着いて下さい。子どもたちが怖がっています。それに、せっかく楽になったミリアンさんも起きてしまいますよ」


 カインが周囲を見るとカインの突然の怒声にびくびくしている子ども達の姿があった。


「どうしたのぉ?怒らないからちゃんと説明してもらえるかなぁ?」


 フローゼはロイをそっと抱きしめる様に問いかけた。

 ロイはフローゼの目を見て、目尻に涙を溜めながら小さく口を開く。


「……僕の、僕のせいなんです。カインさん達が迷いの森に行く話をしていたのを聞いて、あそこには月夜の花っていう高級薬草になる花があるって……アレンくんに話したから…………それで…………」


「なるほど、買えないなら自分で採りに行けば良いって思ったわけだな?」

「……はい」


「ったく」


 カインは頭をがしがしと掻く。

 どういう経緯があるにせよ、アレンが迷いの森に入ったきっかけの一つに自分達の存在が関与しているのではないかと考えた。


「マリア!フローゼ!行くぞ!」


「はい!」

「うん!」


 とにかく急がなければアレンの身に何かあってはいけない。マリアがミリアンを寝室に運んだあと、子どもたちに任せてカインは部屋に剣を取りに行き、急いで孤児院を出る。


 その間にマリアがロイにもう少し詳しい話を聞いており、カインは迷いの森に走って向かいながらロイから聞いた話を聞いていた。


 アレンが月夜の花の場所を何故知っているのかということだが、ロイの話によると、これまで冒険者ごっこをしている時、ミリアンの約束を破って街から離れた迷いの森に足を何度も踏み入れていたらしい。


 迷いの森は魔物の数も少なく、イノシシに対してもアレンとロイは逃げるだけはできたので最初はミリアンに内緒で行っていたらしいのだ。

 だが、何度も足を運ぶ内に入口付近だけでは物足りず、一度奥深くに入ってしまい、その際に迷いながらも辿り着いた先で二人は見たこともない草があったのを知っていた。

 その時は特に気にしなかったのだが、ロイは気になって帰ってから調べたそれが月夜の花だということを知ったのだという。


 アレンはその時に迷ったのが怖かった様子で、ロイの前では強がっていたのだが魔獣の噂がでたことも相まってそれ以来森に足を運ぶこともほとんどなくなり、当然奥深くに入る事はなかった。


 そのため、ロイもアレンには月夜の花のことを話していなかったのだという。


 だが、今回ミリアンが倒れた事でロイは思わずそのことをアレンに話してしまった。

 急ぐアレンを慌てて止めようとしたのだが、アレンはロイの制止を振り切って一目散に迷いの森に向かっていってしまったらしい。



「――なるほどな、生意気な口をきいていたが、なんだかんだ言いながらもあいつもミリアンさんのことが好きだってわけだな」


「そうみたいですね」


 アレンの行動は褒められたことではないが、責められるものでもない。更に子どもがしでかしたことだ。


 とにかく今はなによりアレンが無事でいることを願いつつ、カイン達は迷いの森の前に着く。


「じゃあ俺は月夜の花の方に向かうからそっちは頼んだぞ」

「はい。カインも気を付けてくださいね」

「ああ、さすがに俺も死にたくないからな。魔獣に遭って勝てなさそうなら退くって」


 カインとマリアとフローゼの三人で固まって捜索するのも効率が悪い。

 そう判断したカインは単独で月夜の花の場所に向かい、マリアとフローゼは一緒になって行動することにした。フローゼの方向音痴と魔法の不安定さを考えると自分と一緒に居るよりもマリアと一緒の方が安全だし安心できるからと。


「じゃあ行くぞ!」

「ええ」

「うん、任せてぇ!」


 胸を張るマリアとフローゼ。


「…………」


 マリアはまだしも、自信満々なフローゼを見てカインは不安になった。


「どうしたのぉ?あたしの顔に何かついてるぅ?」


 フローゼはペチペチと頬や額を触って確認しながら首を傾げる。


「……フローゼ」

「なに?」

「頼むから腹減ってるからって今は何も口にするなよ?」

「ひどっ!?カインくんはあたしをなんだって思ってるのよぉ!」


「……ポンコツだって思ってる」


 途端に後頭部に痛みを受けた。


 ――――マリアに殴られたのだった。



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