003 失敗のつけ
「あははははは」
「何を笑っていやがる、このポンコツ天使が!」
「いやぁ、上手くいくと思ったんだよねぇ。うっかりうっかり」
「ったく、どうするんだこれ!」
「しょうがないよねぇ、もう召喚しちゃったんだしぃ」
「ちょ、ちょっと!どういうことなのか説明してください!神とは神様なのですよね!?天使であるフローゼさんはわかりますが、どうしてあなたにその神様の声が聞こえるのですか!?」
とりあえず落ち着いて話をする為にその場に座って話していた。
カインとフローゼは何かを理解したのだが、その場で置いてけぼりなのは神の声が聞こえないマリアだった。
カインとフローゼはお互い顔を見合わせる。その表情は難しい顔をするカインと苦笑いしているフローゼ。
「まぁ慌てるなっていう方が無理だよな。今から説明してやるよ。信じるかどうかはお前次第だけどな」
「お前ではありません、マリアです」
「わかった、わかった。マリアが信じるかどうかは話を聞いてから決めてくれ」
「初めて会う見ず知らずの他人を呼び捨てですか。まぁ今はそんなことを言っている場合ではありませんのでとりあえず流しますけど」
「(呼び捨てはいいのにお前は聞き流せないのな)じゃあいいな?」
マリアは小さく首肯する。
「とりあえず、あいつは天使で間違いないみたいだ」
「でしょうね。さすがににわかには信じられない話ですが、内包している魔力量も桁違いのようですし…………」
「(ほう、魔力の感知が出来るのか。珍しいな)まぁそれでだ。その天使の役割はここで人間の願いを叶えるということだってさ」
「人間の願い?」
「まぁ、つまりはここを訪れた俺の願いだな」
「あなたの願いで私はここに呼ばれたのですか?」
「早まるなって。俺の願いだと勘違いしたあいつがおま――」
と言いかけた瞬間にきつく睨まれた。
「――マリアを召喚したんだ」
「……勘違い…………ですか?」
「ああ。つまり、本来叶えなければいけない俺の願いを間違えたことで、お前はここに召喚されて、あいつは天界ってとこに帰れなくなったらしい」
「そういうことみたいですぅ」
一通りの説明を終えたところでマリアは顎に手を当て考え込んだ。隣には苦笑いしているフローゼがいる。
「そうですか。では神様は他にも何かおっしゃってますよね。例えば間違えた願いの代わりにしなければならないことがあるとか、私に神様の声が聞こえない理由だとか」
「(なるほど、頭も切れる、と。確か聖女と言っていたな)察しがいいな。その通りだ。とりあえず、間違った願いを履行しちまったことであいつは罰が与えられたらしい」
「罰?ですか?」
「ああ、マリアを元居た国に連れ戻せってさ」
「それは召喚と反対に送還とかできないのですか?」
「ああ、どうやらそうらしい。願いの取り下げはまた手順が大きく異なるらしいんだ。それと、神の声が聞こえない理由は、おま――マリアが願いの対象だからだとよ」
「…………そうですか」
『すまんな説明までさせてしまって』
「いや、しょうがねぇだろ。あのポンコツ天使が説明したら色々と適当になりそうだしな」
神と軽く会話を交わす先でマリアはカインから話を聞いて肩と表情を落としている。
そんなに落ち込むなと近付いて優しく声を掛けようとしたところでバッと勢いよく顔を上げた。
「おかしいわ!どうして!?どうしてなのよ!?」
「――なっ!?」
目尻に涙を浮かべながら間近でじっと睨みつけられたことで思わず顔を逸らせてしまった。至近距離のその顔が泣き顔に近いのだが、それよりも、とても直視できないほど綺麗な顔立ちだったことに今更気付かされる。
「(こ、こいつ、中々可愛いんじゃねぇか?)ま、まぁ仕方ねぇんじゃないか?」
わけもわからず突然召喚されたのだ。一番の被害者はこいつなんだなと考えると同時に少しばかり不憫に思った。
「どうしてあなたのような人に神様の声が聞こえるのですか!?そんなのズルくないですか!?」
「は?」
全く予想をしていない角度で怒りを向けられた。
「んなこと言っても俺も聞きたくて聞いているわけじゃないっつの」
「何を贅沢なことを!神様のお声ですよ!?聖女である私には聞こえないのに!先程のあなたの口振りからするとあなたは神を信仰していないでしょ!?どうしてあなたなんかに!」
「ぐっ…………こいつ」
『ほっほっ、これはこれは逞しい子の様じゃな』
前言撤回する。可愛くなかった。確かに見た目は可愛いかもしれないが、中身が可愛くない。
なんだ?神を信仰している宗教の聖女は神の声が聞こえる俺が妬ましいってか?
「ねぇねぇ、話は済んだのぉ?で、これからどうするのぉ?」
「おい、お前、フローゼだったな」
「はぁい、フローゼですぅ」
「お前、最初の印象と全然違うんだが?」
「あー、あれは規則に沿って演出していただけよぉ」
あっけらかんと言い放つ。
「(演出ってお前…………)」
どう返したらいいものなのか返答に困る。
「そ、そうか、まぁそれは今はいい。で、どうするもこうするも、こいつ、マリアを送らなければならないんだろ」
「またこいつなんて言い方したわね!」
「んだよ、文句あるのか、聖女マリア様?」
「ぐっ、次は馬鹿にするような言い方までして!あなたなんかに送ってもらわなくても結構よ!行きましょ!フローゼさん!」
マリアはフローゼの手を引き立ち上がった。
「ん?けど、あたし人間の世界のことほとんど知らないわよぉ?」
「――えっ?そうなのですか?で、では私が案内しますので、一緒に来て下さい」
「おいおい、案内するって、お前――」
歩き出そうとしたマリアが立ち止まると同時に振り返り、再び睨まれる。カインは睨まれる理由は呼び止めた事と再びお前と口にしたことだと察する。
「なんですか?」
「(――はぁ、めんどくせ)マリアはクリストフ教の聖女って言ったよな?」
「ええ、そうです。何度も言わせないでください」
「それって、パルド大陸北部にある国、ローラン神聖国だよな?行き方わかるのか?」
「ええ、そうですが?ここはローランではないのですか?」
「なに言ってんだ?ここはパルド大陸の最南端、コルト王国だっつの」
「はぁ!?ここがコルト王国ですって!?」
「(忙しい奴だな)」
マリアの移り変わる感情による表情の変化が目まぐるしかった。