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024 ケリエでの活動

 

 話を終えたカイン達はミリアンによって孤児院の中を案内されている。

 アレンとロイも付いてこようとしたのだが、「いい加減にしなさい!あなた達は外の片付けがまだ終わっていないでしょ!」とミリアンによって一喝されると慌てて一目散に逃げていっていた。


「それにしても、立派な孤児院ですね」

「そうですね。レイモンドさんが不自由のないようにしてくれていますので」

「……確か、お子さんを亡くされたんですよね?」

「まぁ昔の話ですので気にしないでください。私達も気を遣わないようにしていますので。それに、ここを巣立っていった子の中にはたまに顔を出してくれたり、色々と物品を送ってくれる子もいるのですよ」


 ミリアンは嬉しそうに話して、マリアもその話を聞いて笑顔になる。そこでカインも建物全体を見渡して感心した。


「(これだけの規模の建物を維持しつつ子ども達を養っているんだからな)」


 確かに、例え豪商だとしても一商人が寄与するのにこれだけの規模を賄うのだ。中々出来る事ではない。そして同時にある疑問が浮かんだ。


「なぁ、ミリアンさん」

「はい?」


 歩きながらミリアンはカインに顔だけ振り向く。


「レイモンドさんが孤児に対して手厚くしているのはわかった。ならさっきのアレンみたいに冒険者になりたいって言う子にはどうしているんだ?冒険者なんてそれこそいつ死ぬのかわからないんじゃないか?」


 色々と反するものがあるのではないかと考えるので疑問を呈したのだが、カインの疑問にミリアンは明らかに表情を落とした。


「それは、確かにおっしゃる通りレイモンドさんも心を痛めているのです。ですが、子ども達が巣立っていく時に決めた自主性を尊重してあげたいっていう想いもあるのです」


「……そうか」


「実際、孤児院を出た後に連絡がつかくなる子も多くいます。元気にしているといいのですが……。こればっかりはなんとも……」


 それまでの明るいやりとりの一切がなくなり、ミリアンは言葉に詰まり始める。

 ――――そこでカインは腰の辺りに鋭い痛みを感じた。


「……つぅ!なにしやがる!」


 マリアがミリアンに見えないようにこっそりとカインの腰をつねっているのだが、その顔は明らかに怒っている。


「どうしました?」

「いえ、なんでもありません。では私たちはそろそろ街のギルドを覗きに行ってきますね」


「そうですね、街に着いたばかりですものね。わかりました。お夕食はご用意させて頂いて良かったのですよね?」

「はい、是非お願いします」


 即座に笑顔に切り替え応対するマリア。


「えっ!?ご飯あるの!?やった!早く食べよ!」


 夕食という単語を聞いて即座に反応したフローゼ。


「さっきお菓子食べたでしょ?」

「それは食べたけどぉ?」

「なら我慢してください」


 しかしマリアに言われると共に渋々我慢することになって孤児院を後にする。



 そして孤児院を出て街の中心に向かい始めたのだが、少し歩いて街に入ったところでマリアは足を止めカインを睨んだ。


「ちょっとカイン!少しぐらい空気読んでください!」

「んなこと言ったって事実だろ?」

「そうかもしれませんが、何もあんなにバカ正直に聞かなくてもいいでしょう?」

「けど、俺は何人も見てきた。勇み足で死んでいくやつを。それに、それだけじゃなく、マールも――……いや、なんでもない」


 カインがマールの名を口にしたところですぐに口を閉じる。


「マール?それはなんですか?人の名前ですか?」

「そんなことより、この街のギルドだが、あそこだな」


 カインが指差す場所、少し離れた建物にはカルナドの街と同じ看板が掲げられた建物があった。


「次は何が食べれるかなぁ?」

「ちょっとフローゼさん?孤児院に帰ればご飯はありますよ?」

「えっ?でもぉ……」


 唇に手を当て、渋るフローゼを横目にカインは考える。


「そうだな、依頼によるが食材集めの依頼でも受けてみるか?」

「うん!うん!それにしようよぉ!ねぇマリアちゃん!?」

「ですが――」

「食材を持って帰れば孤児院としても助かるんじゃないのか?」


 カインの提案にフローゼはポンと手を当て殊更笑顔になった。


「そう、ですね。確かにそういうのがあるのならそうしましょうか」

「やったぁ!」


「(それにしても、さっきカインは何を言いかけたのでしょう?)」


 マリアは不思議に思うのだが、もうギルドが近くにありそれ以上聞けないでいる。


 そうしてギルドの中に入り、真っ直ぐに依頼書が貼り出されている掲示板に向かった。

 依頼の選別は事前に経験者であるカインが行うことで決まっている。


 掲示板の前に立ち、いくつか張り出されている依頼に目を送るのだがカインの表情は徐々に複雑なものになっていった。


「(しまったな。条件に当てはまるのはこれだけか……)」


 チラリとフローゼを見ると期待の眼差しを向けられている。その表情からは早く早くというのが容易に見て取れる。


「(まぁフローゼはまだしも、マリアがいればこれでも別に大丈夫か)」


 ふと過ることがあるのだが、最終的に決断して一枚の紙を剥がした。


「これはどうだ?」


 カインがマリアとフローゼに見えるように依頼書を提示する。


 依頼書には

【食材確保、迷いの森のイノシシを捕獲:難度D(~B)】

 と書かれていた。


 コクコクと頷くフローゼの横でマリアは訝し気な表情を浮かべる。


「カインが決めることなのでそれは構いませんが、このかっこの中にあるBとはどういう理由でしょうか?何か意味があるのですか?」


 カインが提示した依頼書の中に書かれている難度には、他の依頼書には見られない表記のされ方をしていた。

 他の依頼書にはこの依頼書の様に難度のところにかっこでの表記はない。


「これはだな、詳しい話は受付で聞けるが、たぶん他の依頼書を見た限りではコレのことだろうな」


 カインは他の依頼書を後ろ向きのまま親指で指す。

 指した先の依頼書には【迷いの森の魔獣討伐:難度B】と書かれていた。


「もしかしてこれって、目的地が同じですけど依頼内容が違うからってことですか?」


 マリアはその内容から表記に関することに関して察しがつく。


「ああ、時々こういう依頼があるんだ。俺達が受けるのは食材にするイノシシの捕獲だが、その時にこの魔獣に遭遇することがあるかもしれない危険性を孕んでいることを差しているってわけだな。で、討伐すればBランク分も合わせて報酬を得られるってことだ。もちろん本来の依頼とは別だから逃げても構わない」


 簡単に説明をするとマリアは他の依頼書に目を走らせた。


「なるほど、では他の依頼にしますか?」


 カインの説明を聞いて納得するマリアなのだが、フローゼもマリアと同じように他の依頼書にすぐ目を通してカインの持っている依頼書を奪い取る。


「ダメ!食べ物の依頼これだけだからこれを受けるの!」


「えっ?そうなのですか?」


 フローゼから遅れて他の依頼書に目を通し終えるのだが、確かにそれ以外にめぼしい依頼はなかった。

 カインは予想通りのフローゼの反応に溜め息を吐く。


「まぁ可能性の話だが、これが残っているのはその魔獣のことがあるからで、他のはもう今日は取られてしまっているみたいだな」


「そう、ですか……なら仕方ありませんね。では、もし魔獣が出ても私がなんとかしますよ」

「やった!よろしくね、マリアちゃん!」


 そしてこれもまたマリアからは期待通りの返事が返って来た。


「ですが、あまり任せきりにせず、フローゼさんも戦ってくださいよ?」

「もっちろん!美味しいご飯が食べられるなら頑張っちゃう!」


 カインは魔獣に遭遇しても自分だけなら勝てないまでも逃げることは可能だろうと判断している。

 だが、仮にマリアがその気になれば討伐することも十分可能だろうとも判断した。


 むしろ、先のグリフォンの時のことを考えれば討伐する可能性の方が高いのではないかとすら思う。



 それからは受付に依頼書を持って行った際、受付嬢にかっこの中の難度Bについて確認するのだが、カインの言っていた通り魔獣へ間接的に関与するためという説明を受けた。


 ただし疑問に思うのは魔獣に関する詳細は不明とのこと。


 目撃者の話では四足歩行の獣型の魔物ということだけは情報として得られるだけに留まっている。



 ――――そうしてカイン達はケリエから北東に進んだ先にある迷いの森と呼ばれる森に向かっていった。



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