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017 魔獣討伐

 

 ――――翌日、カイン達はカルナドの街から歩いて二時間程度の山岳にいた。


「本当にこんなところで魔獣が目撃されたんですか?」

「それを確認するために来ているんだろう?」

「ねぇねぇ、グリフォンってどんな魔獣なの?」

「グリフォンは、鳥の頭と羽に四足の獰猛な魔物のことですよ。確か討伐ランクはBだったかと」

「意外だな、マリアは魔物に詳しいようだな」

「まぁ、知識で知っているだけですけどね。実際には見たことがありませんよ」

「そうか」


 カインとマリアの話を聞いているフローゼは「へぇー、鳥さんかぁ」と小さく言っている。


 そうしてしばらく崖沿いを歩いて後、目撃情報のあった場所にて一同は足を止め周囲の警戒に当たっていた。


「――この辺りにはいないか……むっ、誰か来るな」


 そこでバーバラが山の麓に向かう道の方から人が歩いて来る気配を感じ取る。


「んー?そこにいるのはバーバラ試験官殿とマリアさんではありませんか?」


 姿を現したのはタッド達。


「タッドか。どうした、こんなところへ?」

「あぁ、いえいえ。僕はFランクらしくここで生えている魔法薬の材料になる野草の採集依頼を受けて来ただけですよ」


 バーバラにここへ現れた理由を説明しているタッドなのだが、カインはタッドの後ろの人物が気になった。


「……テスラ」


 テスラはニヤニヤとしながらカイン達を見ている。


「(どうせ碌なことを考えていないんだろうな)」


 その様子だけ見て、ここへ姿を見せたのは偶然ではないのだろうと推測した。

 冒険者同士が現場で鉢合わせることはあるのだが、昨日の今日でタッドとテスラの二人が何らかの意図を持ってここへ現れることの確率の方が偶然現れる確率よりも遥かに高いのだろうと推測できるのだから。


「そうか、だがここは危険な魔獣の目撃報告がある。採集をしたらすぐに立ち去った方がいいぞ」

「そうですねぇ、危険な魔獣は試験官殿と異例のCランク冒険者様にお願いした方が良いですものね」


 笑顔で答えるのだが、皮肉交じりであることは明らかである。


「――ただ」


 笑みを浮かべながらタッドは確認する様に言葉を続けた。


「仮に、僕たちが野草の採集時にその魔獣に遭遇することがあれば倒してしまっても構いませんよね?」

「(なるほどな、そういうことか)」


 その言葉を聞いて、テスラ達がどういうつもりでここへ現れたのかをバーバラもカインも理解する。


「ああ、それはもちろん構わない。そんなケースはごまんとある。だが、甘く見るなよ?常に想定外の事態が発生すると心に留めておけ」

「もちろんです。では兄さん、行きましょう。早く野草の採集をしないといつ魔獣に襲われるかわからないほどここは危ないですからね」

「そうだな。タッドの初任務を失敗するわけにはいかないからな」


 そういってタッドとテスラたちは先に進んでいった。

 通り過ぎる間にタッドはマリア達に侮蔑の眼差しを向ける。


「バーバラさん。あいつら魔獣に手を出すつもりですよ?」

「ああ、わかってる」


 カインとバーバラが確認し合う。


「どういうことですか?あの人たちは野草の採集で来たのですよね?」

「いや、そういう口実でこの場に現れて、魔獣を討伐した手柄を立てたいのだろう。たぶん昨日の腹いせなんだろうな」

「そんなことで?」

「それほど昨日のことが腹に据えかねたのだろう」

「けど昨日は明らかに向こうの方が先に私のことを挑発してきましたよ?」

「マリアが気にすることじゃないさ。まぁそういうやつらだって認識していればいいよ」


 少しばかり申し訳なさそうにするマリアは責任を感じている様子を見せるのだが、カインの言葉を受けて気を楽にする。

 フローゼは何を言っているのかを全く理解していないでいた。


「やっぱり殺しておいた方が良かったのじゃ?あんなに悪意剥き出しだったし……」

「ん?何か言ったか?」

「あっ、いえ、なんでもありません」

「それで、あのテスラという男はどれぐらいの強さなのだ?」


 マリアの小さな言葉を聞き取れなかったカイン。

 確認しようとしたところにバーバラの声が差し込まれる。


「んー、まぁ俺とそう変わらないぐらいですかね?魔法が使える分、総合力では多少向こうが上かもしれません」

「生半可な魔法ではグリフォンには効かないぞ?やつは魔法耐性が高いからな。そういう意味では今回に限ってはカインに分があると私は思うな」

「それはどうも」

「それにフローゼの魔法なら十分に効果はあるだろう。その時は頼むぞ」

「はぁい、任されました」


 それからしばらく気配を消しながら周辺でグリフォンの捜索をするのだが、発見には至らない。


「もう疲れたぁ……本当にそんな魔物いるのぉ?」

「ああ、これを見てみろ。今見つけたものだが、これがその証拠だ」


 バーバラが大きな岩の側面についている傷を指した。カイン達が壁を確認すると、爪痕が残されている。


「これはもしかして研いでいるのですか?」

「ああ、その通りだ。だが、妙だな。爪痕が少し大きい気がするが…………」


 爪痕を見ながら考え込むバーバラを横目に、カイン達はどうしたのだろうかと顔を見合わせた。


「ここにいる個体は思っている以上にデカいかもしれんな」

「ですね」


 となると警戒を一層引き上げないといけない。


「――――きゃあああああああああ!」


 突然、遠くから悲鳴が聞こえて来た。


「あっちか!?いくぞ!」


 聞こえて来た悲鳴の方向に向かってカインとバーバラは即座に走り出した。

 だが、その先、先頭を走っているのはマリアだった。


「――なっ!?」


 前を走られることにバーバラは驚愕する。


「(私よりも早く反応していたのか?いや、違う……。反応は間違いなく私の方が早かった。しかし、初速はマリアの方が速かったのだ)」


 岩肌が剥き出しで足場がそれほど良くない場所、少し足を踏み外せばすぐに滑落するような場所でバーバラの前をマリアは走った。


「(もしかすれば思っている以上の実力を秘めているやもな)」


 その身のこなしだけでマリアの持ち得る可能性を考えてしまう。


「ほぇええ。みんな速いねぇ」


 フローゼは少し遅れ、慌てて後を追いかけて行った。



 数十秒かけて悲鳴の聞こえた場所に辿り着くと、大きな翼を羽ばたかせてテスラ達に向かって鳴き声を上げているグリフォンがいた。

 タッドは尻もちをついており、びくびくと身体を震わせている。

 その近くには剣を構えて最前列に立つテスラ。


「デ、デカいっ!ちっ、何やってる!?勝てないなら早く逃げろ!」


 カインが大声で声を掛ける。


「だ、ダメだ!メリエの奴が大怪我を負わされて、動けないんだ!」


 テスラの背後にはドクドクと血を流し、気を失って顔面蒼白のお付きの女がいた。


「くっ、そういうことか。マリア!任せられるか!?」

「はい、大丈夫です!」

「マリアに任せるとはどういうことだ!?」

「いいからあの怪我人はマリアに任せて、俺達はグリフォンの相手をします!」

「どうやら詳しく説明を聞いている暇はなさそうだな」


 カインとマリアで何らかの意思疎通をするのだが、バーバラは要領を得ていない。

 即座に二手に分かれて、今にも襲い掛かって来そうなグリフォンにはカインとバーバラが向かい、マリアはその背後に駆け付ける。


「(ちっ、ぶっつけ本番だがたぶん大丈夫だろう)」


 目の前で獰猛な声をあげるグリフォンだが、気がかりなのは背後の怪我人。

 だが、カインは怪我人をマリアに任せておけば大丈夫だということを何故か確信してしまっていた。


 マリアは怪我をしているメリエに向かって手をかざしてブツブツと詠唱を始める――――。



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