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016 バーバラからの依頼

 

 ギルドの受付ではバーバラがタッドに声を掛けると、タッドは物凄い剣幕で睨みつけていたが、それまで聞こえていた怒声は鳴りを潜める。

 どうやらさすがにいくら不満があったとはいえ、試験官を務めた人に噛み付くことを抑える程度に理性は残っていた様子だった。


 そうしていくらか話をしていたところでバーバラがタッドの頭にポンと手を乗せたところで話は終わる。


 バーバラは笑顔でカイン達のところに向かって再び歩いて来た。


「待たせたな」

「もういいんですか?」

「ああ、納得しているかどうかもそうだが、今はわからないかもしれないな。実力を過信していると早死にしてしまうのにな……。カインならわかるだろ?」

「……まぁ、はい」


 言わんとしていることはわかる。むしろ身に染みている。少しばかり昔を思い出し苦い思いを甦らされたが、今はもう割り切っているつもりだ。


「(ただ、どう見てもあいつがそれをわかっているようには見えないがな)」


 タッドは未だにバーバラを睨みつけている。それどころか、どこか自分達も睨まれているのではないかという気さえしていた。


「(変なこと考えてないといいけどな)」


 恨みを持つのも筋違いだろう。


「それで?依頼ってなんですか?」


 呆れながらも、一応街に滞在している間は警戒しておいた方がいいだろうと判断して、バーバラの依頼内容を確認する。


「ああ、それがだな、たまたまこの辺りで活動をしていた私が呼ばれた事に関係するのだが、最近この辺で魔獣の存在が確認されたらしいじゃないか」

「そうなんですか?」


 まだ情報としては新しいのか、それらしい話を聞いたことはない。


「真偽のほどは定かではない。それも含めて、存在が確認されれば合わせて討伐して欲しいというものだ」

「それをどうして俺達に?しかもマリアとフローゼはまだ駆け出しにもなっていないですよ?」


 新人二人を含む自分達にどうして声を掛けるのか。


「一つには、久しぶりにお前と一緒に仕事をしたいと思ったのと、もう一つにはこれから熟練の冒険者に声を掛けるつもりだったのだが、お前達なら問題ないと判断したからだな」


 バーバラの言葉を受けてカインはマリアとフローゼを見る。

 恐らくフローゼはまだしもマリアの実力の高さに驚かされたというのもあるからだろうと判断した。


「(どうする?)」


 少し考え込む。

 受けていいものなのか、断った方がいいものなのか。

 数秒の間をおいて決断する。


「(いや、いくらバーバラとはいえやはり二人の素性を勘付かれるわけにはいかない)」


 と判断して断ろうとしたところ――――。


「あの?」

「ん?」


 マリアがバーバラに声を掛けた。


「私は依頼を受けても別に構わないのですが……」

「そうか、それは助かる」

「バーバラさんとカインはどんな関係なのですか?カインに聞いた限りだと、知り合いだという程度にしか聞いていないので…………」


 その言葉を受けて、バーバラは目を丸くさせる。


「なんだ、お前私の事を話していなかったのか?」

「別に話さなくても問題はないでしょう」

「仲間の質問には真摯に答えろとあれほど言っておいただろうが。すまんな、かつての弟子が説明不足だったみたいだな」

「弟子?ですか?」

「ああ、私は王都で冒険者をしているバーバラ・ラルクで、このカインの師匠だ。これでもAランク冒険者だ」


 バーバラはカインの頭をがしっと掴んで嬉しそうに話した。

 頭を掴まれたカインはまるで子ども扱いされたことに少しばかり不満を滲ませるのだが我慢して受け入れる。


「へぇー、そうだったんですね。なるほど、わかりました。それで、今のでもう一つ不思議に思ったのでお聞きしたいのですが、どうしてカインはその師匠であるバーバラさんと一緒にいないのですか?」


 マリアはカインとバーバラの関係性は理解した。だが、同時に他の疑問が浮かんでくる。


「あー、あぁ。それはな、カインが弟子をしていたのは二年前のことで、今カインはこの周辺で冒険者をしているらしいな」

「らしい?」

「ああ。私も久しぶりにカインに会ったからな。それで私からの質問だが、カインはソロで活動していると聞いていたが、どうしてマリア達と組む事になったのだ?私としてはカインがパーティーを組む事を望んでいたから喜ばしいことではあるのだが」


 バーバラの質問を受けてカインもマリアも返答に困る。

 どう答えようか。そういえばこういった事態に対する答えを用意していなかった。


「あっ、それはですねぇ。あたしが――」


 カインとフローゼが黙ってしまった様子を見たフローゼが答えようとしたところでカインとマリアが慌ててフローゼの口を塞いだ。


「お前何言おうとしてるんだ!」

「そうですよ!私のことはまだしも、フローゼさんのことは説明しようがないんですから!」


 と小さく声を掛ける。

 その様子を見ていたバーバラは不思議そうに首を傾げた。


「た、ただの行きがかり上だ!こいつらが女だてら二人での旅が不安だっていうから俺が護衛として雇われたんだよ!」

「そ、そうです!私達二人だと何かと困る事もあるかと思ってカインにお願いしたのです!」


 そうして取って付けたような苦しい言い訳を展開する。


 そこでカインとマリアはお互い顔を近付けて――。

「おい、マリアが余計な質問したからだろ!」

「そんなこと言われてもどうせ聞かれたら同じじゃないですか!それよりもなんて答えるのですか!?」

 と、もがもがと苦しそうにしているフローゼを横目に小さく話し合った。


「(護衛、ねぇ。なにか事情があるな、これは。見たところ二人ともカインと同じくらい…………いや、マリアに至っては明らかにカインよりも強い)」


 その様子を見ながらバーバラは断言するのだが、直後に小さく息を吐く。


「(まぁせっかくカインが仲間を作る気になったんだ。余計な邪推はしないでおこうか)」


 薄く口角を上げて笑うとカイン達に声を掛けた。


「――――おい」


 カインとマリアが他の言い訳はないかと考えていたところ、バーバラに声を掛けられ、黙ってバーバラを見る。


「あんまりのんびりしていられるほど私も暇じゃないんだ。ただでさえ、試験官なんて余計な仕事までさせられた上にお前らの遊びに付き合う暇はない。そろそろこっちの依頼の話を具体的に進めようさせてもらうぞ」


 どこか表情を綻ばせるバーバラはそれ以上の追及はせずに、依頼内容の詳細を話して聞かせた。



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