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010 ギルド試験

 

 試験時間までの間で他にも確認しておきたいことのいくつかを擦り合わせておいた。


 マリアが使える魔法は聖魔法による治癒魔法が主になるのだが、簡単な火と水の魔法は問題なく使えるとのこと。他には昨日見せた具現化魔法、これも聖魔法に分類されるそうだという説明を受けた。

 同時にそれを扱う身のこなしからして身体能力は問題ないと判断する。


 フローゼの方はというと、得意な魔法は風魔法だが、そもそも基本的には魔法全般はある程度問題なく使用できるらしい。

 ただ、身体能力がそれほど高くないらしいのは人間の身体になっているからだとのこと。


「(まぁ剣士スタイルの俺からすればそう考えるとバランスは取れているのか?)」


 カインとしても、今後長旅をすることになるのなら戦力の把握はしておきたい。

 マリアとフローゼの戦力比を、試験を通して実戦でどれほど使い物になるのか見定めるつもりだった。



「ん?カインじゃないのか?」


 そうして試験時間が近付いたところでギルドに入ろうとしていると、前を歩いて来ていた人物に声を掛けられる。


「あっ、バーバラさん……」


 見知った顔がいた。


「こんなところで会うなんてな。それにしても珍しいな、カインが人を連れているなんて。それも二人も」

「…………いや、ちょっとした事情で当面の間一緒に行動することになりまして」


 ギルドの入り口前でカインに話し掛けるのは、長い赤髪で鎧を着込んだ女性の剣士。

 カインより少し年上の様子を見せる。


「ふぅん……あんたがねぇ。珍しいこともあるもんだ」

「そういうバーバラさんはどうしたんですか?こんな辺境の街に?」

「ああ、ちょっと依頼を受けてな。それで丁度来ていたところに今回の試験官をついでに頼まれたのさ」

「そうですか、ならこいつらを頼みますね」

「おっ、この子らも試験を受けるんだね」


 バーバラはマリアとフローゼを見定めるように上から下までジッと見た。


「よし、わかった。ただし、いくらあんたの頼みとはいえ不正はしないよ?」

「もちろんです。公正にしてくれて構いません」

「そうかい、じゃあまたあとでな」

「はい」


 バーバラはそれだけ言って先にギルドの中に入って行く。


「カイン?今の方は?お知り合いみたいでしたけど」

「ああ、あの人は王都を中心に活動しているんだ。割と顔も利くし、何より相当腕が立つ」

「ということは、カインが王都にいる時に知り合った、ということでいいのですよね?」


「……まぁ、そういうことだ、な。ぼちぼち時間だ、そろそろいくぞ」


 カインは聞かれたくなかったのか、微妙に濁すように答えると前を歩いてギルドの中に入って行く。


「フローゼさん」

「なぁに?」

「あなたはカインの事情を知らないのですよね?」


 マリアはカインの抱える事情が段々と気になり、本人に直接聞けないまでも、フローゼに聞く分は構わないだろうと問いかけた。


「えっ?事情?なにそれ?」


 フローゼはきょとんとした態度を取るのを確認してマリアは聞くだけ無駄だったかと小さく息を吐いて額を押さえる。


「いえ、何も知らないのでしたら構いませんわ」

「どういうこと?」

「(まぁ急いで確認しなければいけないわけではないですし、私の興味本位で聞くのも気が引けますしね)」


 首を傾げるフローゼの横で歩き始めるマリアは、多少気にはなるのだが、今ではなくともいつか聞けることがあるのかもしれないと考える。

 仮に聞けないのであるのならそれも仕方ないと考え、カインに続いてギルドに中に入って行く。




「あっ、マリアさん、フローゼさん、こちらへどうぞ」


 ギルドの中に入ると、受付嬢に声を掛けられ奥の部屋に案内された。


 奥に行くと、土の地面で広い空間が設けられたそこは鍛錬場のようである。

 その最奥には先程ギルドの前で会った女性、バーバラが堂々とした佇まいで立っており、横には紙束を持っているギルド職員の女性と高齢の白髪交じりの男性がいた。


 そのバーバラたちの正面、中央手前には二十人程の男女が立っていて、その中には軽装に身を包んだテスラの弟もいる。


 兄であるテスラは壁際にお付の女性と共に立っている他、その周囲には他にも数名壁際に立っているので新規登録者の保護者か何かなのだろうという推測は立つ。

 つまり、新たに登録する者達が中央に集められているのだと判断してカインもマリアとフローゼに一言「後は説明を聞いていればいい」とだけ伝えて同じように壁際に立った。


 カインは一人で立っていたのだが、テスラがカインに気付くとわざわざ近付いて声を掛けてくる。


「今回の試験、どんなものになるか知らんが、弟と戦うことにならなければいいな」

「(ちっ、いちいち話し掛けに来るなよな。しかし、自信はあるようだな)」


 ニヤニヤと話すテスラの対応をするのが面倒くさいとは思うものの、試験内容によっては新規登録者とはいえ実力者が混じっていることもある。

 この辺は運に左右されるのだが、カインが見た感じではマリアとフローゼ以外にはそれ程の実力者がいるとは思えなかった。


「(ただ、マリアもあの見た目からは考えられないぐらいだったしな……)」


 しかし、そのマリアも昨日初めて見た段階ではおよそ強者と呼べるものでもなかったので、まだまだ観察力が足りないなということを痛感させられたばかりだ。


 もう試験が始まろうとしているので何もできないのだが、念の為確認しておく。


「…………その弟は強いのか?」

「まぁまだ俺には及ばないが、かなりの実力だ。もしかするとお前よりは強いかもな?」

「そうか」


 小さくテスラに目を向け、会場の中心を見た。


「(……だとすれば問題はないか)」


 そうなると後は大人しく見ている事としよう。

 横で踏ん反り返っているテスラの反応が見物だ。実際カインもまだその実力の一端しか目にしていないがそれでも十分に驚かされたのだから。



 カインとテスラがそんな話をしているところで、今回の試験官を任されたバーバラが口を開く。


「よくぞ冒険者に志願してくれた。まず初めにそんなお前達に先に伝えておくことがある!」


 バーバラが勢いよく話し始めると、それまで緊張していた新規登録者たちの多くは更に身体を固くさせた。


「おいおい、そんなに緊張するな。と言いたいところだが、無理もないか」


 呆れ混じりに観察する様に受験者達を見る。


「まぁそれでも中には自信ある者は堂々としているようだが」


 それでもバーバラは新規登録者たちに厳しい眼差しを向けつつもいくらかは感心するように見渡した。


「(それなりに肝は据わっているようだな)」


 その中にはカインと一緒にいたマリアとフローゼの落ち着いたその様子に「ほぅ」と小さく漏らすと、そのまま大きな声で言葉を続けた。


「――まず、今回の試験では、よっぽど実力が足らない限りは落ちることはない」


 それを聞いた数名はほっと安堵の息を漏らす。


「――しかし!だからといって甘く見るな!当たり前のことだが冒険者は命がけの職業だ。いつ命を落とすとも限らない。もし冒険者を軽んじているようなら今すぐ登録希望を取り下げろ!」


 バーバラの言葉を受けて、何人かは再び緊張が顔に表れた。


「これは決して不安を煽っているわけではない。ただの事実でしかないのだ!しかし、それでもだ。実力があればその分の十分な見返りや自由は保障されるがな」


 そこまで話すとその場には少しの静寂が訪れる。


「(相変わらずこういう引き締め方は上手いな)」


 カインはバーバラの話術を感心して見ていた。

 話術とはいうがただの事実の羅列でしかない。カインが感心していたのはバーバラの表情や声色に、だ。抑揚を持たすことで話に集中する様に見事に引き付けていたのだ。



「よしっ、覚悟は決まったようだな。では今から試験を始める。今回の試験は事前の調書に基づいた内容に沿って始める。具体的には魔法主体と武術主体だな。今から彼女に読み上げられた者は前に出ろ」


 そうしてバーバラの隣に立っていたギルド職員の女性は手元の資料を基に八名の名前を読み上げた。

 その中にはフローゼの名前もあった。名前を呼ばれたフローゼはにこにことしており、隣に立っていたマリアに「頑張って」と肩を叩かれて前に出る。


「(ん?マリアは呼ばれなかったのか?)」


 フローゼだけが呼ばれたことを不思議に思っていると、ギルド職員は何やらバーバラに耳打ちする。

 バーバラも耳を傾けてギルド職員の資料に目を通すと周囲を見た。


「マリア・アーシェン、いるか?」


 するとマリアの名前を大きく呼ぶ。


「……はい、私がマリア・アーシェンですが?」


 マリアはとりあえず返事をしたものの、何事かと思い不思議に思い、それはカインも同じだった。


「お前は得意な内容の記述に魔法でも武術でもなく全てと回答しているが、これはどういうことだ?」

「どういうことも何も、そのままですが?」

「そのまま…………つまり、魔法も武術もどちらも同じぐらい得意だということか…………」


 そこでバーバラはカインの方をチラリと見る。

 カインはバーバラと目が合ったのだが、どういうつもりで見られたのか正確にはわからなかったが、恐らくマリアの発言の真偽についてだろうと思い、小さく頷いた。


「よしっ、わかった。ならマリア・アーシェンの試験はあとの方に回す。それと、タッド・ウェスターは?」

「はい、俺ですが?」


 次に呼ばれたのはテスラの弟だった。

 タッドも何故呼ばれたのかと思うのだが、マリアをチラッと見て察した様子を見せる。


「お前は武術が得意としているが、魔法も得意であると回答しているな?」

「ええ、はい、その通りです。試験はどちらでも構いません」


 バーバラは顎に手を当て、数秒考え込んだ。


「……ふむ、そうか。わかった。ではタッド・ウェスターもまた後に回す」

「わかりました」


 それだけ言うと、タッドはマリアを見てフフンと鼻を鳴らしていた。



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