001 召喚
連載三作目の作品になります。
どうぞお楽しみください。
――――思わず目を奪われた。
目の前にいる銀髪の全裸の女性のことなのだが、それよりも驚いたのは、裸の女性が自分めがけて大きく拳を振るっているからだった。
「(――――どうしてこうなった)」
――――数時間前。
「――――まぁ所詮噂は噂だったってことだな。とんだ無駄足……でもないか。一応素材回収もできたしな」
黒髪で黒い鎧を身に纏った若い男がいるのは地下遺跡の最深部で大きな石に腰掛けていた。
座っているその台座以外に周囲を見渡しても石造りの崩れた支柱や外壁以外には特に何も見当たらない。
敢えて言うなら目の前に倒れている人間の三倍ぐらいの質量がある竜。
地竜と呼ばれる翼のない竜が横たわっているだけで、他には台座の遥か頭上から微かに光が差し込んできているぐらいである。
「まぁ別に駄目もとで来ただけだしな。仕方ない、帰るとするか。――――ん?」
男が台座から腰を上げて地上に戻ろうとすると、頭上の穴から差し込んできている太陽の光が一際大きく周囲を照らしだした。
「そうか、太陽が真上を差した時がこの場所が一番明るくなるのか。偶然できたのか?――――それにしては明るすぎないか?」
疑問に思う。
いくら太陽が頭上の穴の丁度真上にあるからといっても、それだけでこれだけ明るくなるものなのか、と。
異常な様子を窺わせるので周囲に警戒を配ると、突然背後から透き通る様な声が聞こえた。
「あぁ、ようやくここに辿り着ける人間が現れましたか」
「だ、誰だっ!?」
ここには誰の気配もなかった。それは断言できる。厳密には先程まで対峙していた目の前の地竜のような魔物ならまだしも、人語を話すことができる存在などいるはずがない。
背後を確認する様にその場から飛び退きながら反転して声の元を確認すると男は目を疑った。
「お……まえは、なんだ?…………翼人族……には見えないな」
目の前に姿を見せているのは、長い金髪を腰まで伸ばしている美しい女性だった。見た目の年齢からすると男とそれほど変わらないだろう。十代半ばといったところか。
だが、男が警戒を解かないのはこんな場所に女性が一人で現れるなどあり得ない。それどころか、それ以上に警戒させるのは、その女性の背には大きな白い鳥のような翼を生やしているのだから。しかし、男の頭の中を過った種族、茶色い翼の翼人族ともまた違った。
「ふふっ、驚かれるのも無理はありません。わたしはあなた達の世界では【天使】と呼ばれる神の使いですよ」
「天使……だと?そんな神話上の生物のことを突然言われても信じられると思うか?――正直に言え、お前は何者だ!?」
「信じて頂けませんか。……まぁ仕方ありませんね。では、証拠としてあなたの願いを叶えましょう。そもそも、あなたはそれが目的でここに来たのですよね?」
「……ああ、確かにそうだ。俺はここに来れば願いが叶うという噂を聞いてやって来た。だが、それがどうした?」
「ですから、そのあなたの願いを叶えれば私が天使という神様の使いだということを信じて頂けますよね?」
「…………」
男はしばし考える。果たしてこいつの言っていることはどれだけ事実なのだろうか?
「…………もしも、お前が願いを叶えられるというなら、例えそれが地位や名誉や女であっても自由に願いが叶うというんだな?」
本当にそんなことができるのなら叶えて欲しいものはある。
「わかりました。地位と名誉を兼ね備えた女性を望むのですね」
「ちがっ!例えばの話でだな――」
「では、あなたのその願いを叶えましょう」
「待てって!だから違うって言ってるじゃねぇか!」
天使と名乗る女性は男の制止の言葉を聞こうとせず、何かブツブツと唱え始める。
すぐに女性の周囲を白い光が包み込んだと思えば、白い光は大きく膨らみ、辺り一帯を光で埋め尽くした。
余りの光量に男は目を開けていられない。
数秒後に光が収まり、警戒心を最大限に引き上げながら天使と名乗る金髪の女性がいた場所を見ると、再び目を疑う。
目の前には宙に横たわる様に浮く銀髪の少女がいた。
さらに衝撃を受けたのは、その少女が裸体であったのだ。