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失われる物語  作者: コトリ
はじまりの世界
3/6

白いゆりかご −2−

「さて、どこからお話しすべきか・・・」


青年は独り言を呟きながら、何かを思案するように窓の外に目を向けた。

そしてゆったりとした動作で歩み寄り、ベッド脇の小さな椅子に腰掛けると静かに語り始めた。


「私が貴女をなぜ御子様と呼ぶのか、この世界に今何が起こっているのか、少し長いお話しになりますが、まずは自己紹介からさせていただきますね」


青年はアリスに向けて柔らかい笑顔を見せる。

年齢は分からないが、見た目は20代半ばだろうか。

透き通るような空色の瞳の奥が、どこか寂しげに揺れたことにアリスは気付かなかった。


「私の名前はシオン、この塔の管理をしている者です。そしてここは管理塔、世界のあらゆる場所と繋がっている核のような空間です。世界はこの塔を中心に樹状に広がり、エネルギーを得ている。この塔は世界の情報を記憶し記録している」


どうやらこの建物は塔らしい。

窓の外を見ると確かに見晴らしは良さそうだ。下を見下ろさないと高さは分からないが、それなりの高さがあることは感じられる。


シオンの話によると、ここは今まで生きてきた世界とは切り離された空間で、普通の場所ではないようだ。この白で統一された無機質な部屋も、静か過ぎる環境も、今ままで身に付けてきた常識と違う理の中に存在しているとするなら、何となく納得できるような気がした。


「そして、ここは世界の始まりの場所なのです」


当然のことのように、サラリと壮大な話を口にするシオン。


「待って、一体何の話なの?」

「貴女と世界の話、でしょうか」


状況を理解しようと取り敢えず真面目に話しを聞くアリスは、あまりにも飛躍した展開についていけなくて思わず止めてしまう。

世界、管理、核、おとぎ話でも聞かされているようだと思う。


「ここは遠い昔、我が主人が優しい世界を創りたいと願って造った場所なのです」


遠い昔・・・?

20代半ばに見える青年は、まるでその時そこに居たかのように話している。

一体いつの話しなのかは分からないが、この青年が人間ではないことは明白だった。


「御子様?」


アリスがシオンを変なものを見るような目で見ていると、シオンが怪訝そうに首を傾げた。


「アリスは白の巫女の伝承を知っていますか?」

「白の巫女…。世界を再生に導く神の使いのこと?」


アリスは少し考えた後、幼い頃の記憶を思い出して答えた。



この世界には誰でも知っている、古い言い伝えがある。



世界が悲嘆に暮れる時、白き巫女天空より舞い降りん

白き巫女が世界とともに涙を流す時、慈悲の涙が世界を闇より救い上げん

九つの絆が戻りし時、我ら至福の彼岸へ導かれるなり



アリスが育った村では月影教が信仰されていたため、これ以上の話は伝わっていなかったが、小さい頃に母が絵本の読み聞かせをしてくれた微かに残っていた。

その絵本の中の巫女がとても悲しそうに見えて、幼いながら不思議に思ったことを覚えている。


「そう、その白の巫女のことです。伝承の中では白の巫女と呼ばれていますが、本来の呼び名は再生の御子。アリス、貴女こそが再生の御子なのです」


シオンはまっすぐこちらを見ている。

透き通るような空色の瞳は、嘘でアリスを騙そうとしているようには見えない。


「白の巫女と再生の御子…。わたしが、みこ…」


ドクン、と心臓が脈打ったような気がした。

心臓の音が煩い、呼吸が苦しい。何より頭が痛い。

何だろう、何かを思い出しそうで思い出せない。



(いつか貴女がこの世界をーーーーてちょうだい)



白い世界で異国の装束が揺れたのが見えた気がした。

あの不思議な夢とこの白い部屋が重なる。


「御子様、貴女は知っているはずです。この塔も、塔から見える景色もーーー」


シオンの呟きはアリスには届かなかった。

無論、シオンはこの呟きを彼女に聞かせるつもりは無かったし、声に出すべき言葉でもなかったのだが。


(ーー・・リス。どうして僕は、またキミに出会ってしまったんだろう)


シオンは混乱するアリスが落ち着くのを待ちながら、立ち上がり部屋の窓を開けた。

窓からは心地よい風が入ってくる。眼下に広がるのは、いつもと変わらない緑あふれる穏やかな景色だった。


(ここは変わらない。ずっと。この景色も僕も)


「大丈夫、何も心配は要らないよ。さぁゆっくり深呼吸をして。質問に答える時間はたっぷりあるから」


温かいお茶を淹れながら、シオンは幼い子にするように話しかけた。

アリスは育った環境から自分の感情を出すことが苦手だ。

全てを閉ざして生きてきたから。

でもたとえ閉ざしてしまっていたとしても、消えたわけじゃない。

こんな荒唐無稽な話しをされて、混乱しないわけがない。


シオンから受け取ったカップを両手で包み込むと、じんわりと温かさが伝わってきて少しだけ気持ちが和らいだ。

騒つく思考をお茶を飲み込んで沈める。


「それで、再生の御子は何をするの?」


世界も白の巫女も、正直よく分からない。もっと言うとどうでも良かった。

でも生きていくためには理由が必要だ。

帰りたい故郷のないアリスにとって、ここで生きていくための理由が与えられるのなら何だって良かった。


話を広げる方向の軌道修正のため、全体的に大幅な修正を行いました。

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