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X13 エーデルトとビュフォル

 エーデルトはマジックショップ北星と書かれた店の看板を見上げた。


(ここですか……)

 

 彼の頭の中では様々な疑問が渦巻いている。

 なぜ、王を殺すために動いていた人間が、ここで雑用のような依頼をこなしていたのだろうか?

 なぜ、王を殺すことができた人間が、測定不能な低ランク冒険者だったのだろうか?

 なぜ、そんなわけがわからない事態にソファイリが巻き込まれたのだろうか?


 この店の主人にそれらの問いをすれば、真相に近づけるかもしれない。

 だが、もちろんそれには危険も伴う。

 もし店の主人がフーンと共犯関係だった場合、そのような詮索は自らを危険に晒す可能性がある。


(店全体に転移妨害の結界、奥の方には空間魔法のトラップ。基本は抑えていますが、初歩的なものばかりですね)


 エーデルトはまずは店の防衛設備を鑑定スキルで調べ、この程度の魔法の使い手なら、自分の実力で打ち勝てるはずだと考えた。

 なので彼は店の扉を開き、堂々と中へ踏み込んだ。


「いらっしゃ……なんじゃ、劣等種族か。お前に売るもんはないぞ」


 店主らしきドワーフは一瞬だけエーデルトの方へ振り向き、彼がエルフだと気づくと、すぐにくるりと背を向けた。

 エーデルトは店主の失礼な態度に対して、怒りのような感情は一切見せず、落ち着いた口調で話し始めた。


「問題ありません。私がここに来たのは、物を買うためではなく、あなたと話をするためなのですから」


「冷やかしなら帰ってくれ。わしは暇ではない」


 ドワーフの店主は棚の上のポーションを綺麗に並べ直す作業を終えると、エーデルトを無視して店の奥へ向かって足を動かしだした。


「待ってください。私はとある人の情報を追い求めているんです。もし知っていることを教えていただければ、それなりの情報料を支払います」


 情報料という言葉を聞くと、彼の中の商人としての卑しさが災いしたのか、ドワーフはピタリと足を止めてしまった。


「そうか、取引をしようってことなら、少しぐらいは話を聞いてやろうかの。で? 誰の情報を知りたいんじゃ?」


「フーンと言う名の冒険者なんですが……」


 エーデルトが彼の名前を挙げると、店主はすぐに顰めっ面を浮かべた。

 それはこの店主が何か重要なことを知っていると確信するには十分だった。


「悪いが、そいつに関してわしが言えることは何もない。帰ってくれ」


「待ってください。報酬は弾みますよ?」


「残念じゃが、金の問題ではない」


「彼に脅されているんですか? もしそうなのであれば、私があなたを守れる人材を――」


「いや、違う。ともかくこの話は終わりだ。出て行ってくれ」


「仕方がありませんね……色魔の囁き(チャーム)

 

 エーデルトは冒険者ギルドでも使った魅了の魔法を唱えた。しかし、何も効果は現れない。ドワーフの店主は依然として、彼を力強い腕力で店から押し出そうとしている。


「ふー……。やれやれ、そのような手段に出るか」


 店主はポケットの中から黒い札を取り出した。魔法封印札(マナ・バインド)だ。それの効力でエーデルトの魔法は効果を発揮せずに消滅したのだ。

 チッとエーデルトは舌打ちをした。魔法封印札(マナ・バインド)はその性質上、鑑定結果にも表示されないので考慮していなかった。これは明らかな失態だ。


「ええ。私はどうしても彼の情報が必要なんです」


「だが、今のでわかっただろう? お前さんに勝ち目はない。見た所、お前さんは魔法が主戦力のようじゃが、それはわしには通用せん」


「果たして、本当にそうなのでしょうかね? 装備外し(ディエクイップ)!」


 店主が手に持っていた魔法封印札(マナ・バインド)がパッと手品のように消えた。


 装備外し(ディエクイップ)は敵の持ち物を一時的に無効化する武技スキルだ。

 その効果は泥棒(スティール)の下位互換だと思われがちだが、成功率はこちらの方が格段に高く、敵の持ち物を選んで発動させられるメリットがある。

 次の行動をあらかじめ考え、計算された戦いをするのが好きなエーデルトに向いているスキルだった。


「ほう、なかなかやるの。確かに、武技なら魔法封印札(マナ・バインド)を突破できる。じゃあ、わしも本気を出すとするかの」


 ドワーフの店主はひょいと身軽にバックステップを取り、右手の人差し指を天井へ向けた。


全てを凍らす氷裁アブソリュート・フリーズ!」


炎の柱(バーニング・ピラー)!」


 店主が唱えた氷属性の上位魔法から身を守るため、エーデルトは自分の周りに炎の柱を展開させる。

 結果、二つの魔法は直撃、大きな音を立ててすぐに消滅し、周囲は濃い水蒸気に覆われた。


「ヒョロヒョロとした頼りない体つきのくせに、なかなかやるの。だが、今のは悪手じゃな」


 姿は見えないが、店主の声が水蒸気の向こうから聞こえてくる。


(悪手? 魔法を唱えてくるなら、別に姿が見えなくても対応できます。静かに相手の出方を伺えば、問題ないはずです)


 エーデルトは神経を研ぎ澄まし、いつどのような魔法が飛んできても対応できるように、しっかりと意識を集中させた。


 ――ズバシッ!


「――ん!?」


 思わぬ衝撃に突然襲われ、エーデルトは勢いよく店の外へ吹っ飛ばされた。


(い、今のは一体?)


 理解が及ばない出来事に困惑しているのか、地面に尻餅をついている彼はなかなか起き上がれない。


「くっはっは! 敵地で自分の視界を奪うのはバカがやることじゃよ」


 声高らかに笑いながら外へ出てきた店主が手に握っていたのは、風魔法の砲撃が打てるマジックアイテムだった。


(そうか!)


 店主は視界が奪われていても、慣れ親しんだ自分の店の中はある程度自由に動き回ることができる。おそらく水蒸気が出ている隙に、置き場所を覚えてあった商品を咄嗟に手に取って使ったのだろう。


 またもや想定外の出来事にやられてしまったことにより、エーデルトの中には焦り、そして自らの浅はかさに対する怒りが芽生え始めていた。

 やはり城の教師相手に行う模擬戦のように、実戦をうまく運ぶのは難しいらしい。


「今日はもう閉店じゃ。じゃあの」


「待ってください!」


 エーデルトはそう叫びながら地面から飛び上がり、店主が閉めようとした扉に片足を突っ込んだ。

 強い力で足を挟まれ、彼は苦痛に顔を歪める。


「私はどうしても彼の行方を知らなくてはならないのです」


「行方を知って、どうするんじゃ? あいつを王都の警備隊に売るのか? なら、わしは協力できん。他を当たってくれ」


「違います! 私は彼と共に行動していた、ソファイリを追っているんです」


 店主が扉を閉める力を緩めた。


「あの性格が悪い小娘の知り合いなのか?」


「彼女は私の妹です。私は彼女を追って、はるばるヒルシュアリアからここまでやってきたのです」


「なるほど。そういうことか」


 ふむふむと店主はヒゲを弄りながら頷き、扉を開いた。


「まだ完全にお前を信じたわけではないが、話だけなら聞いてやろう」

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