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X12 エーデルトと王都アバゴル

 飼いならされたギガンテファルコンの背に乗って飛ぶこと24時間。エーデルトはアーマインの王都、アバゴルのすぐ近くまで辿り着いていた。人里から少し離れた森の中で地上に降り立ち、ギガンテファルコンにはそこで大人しく待っているよう命令する。ここからは目立たないように徒歩で王都へ向かうつもりだ。


 エーデルトはリュックの中に入っていたコンパスと地図を確認し、太陽の位置、時刻、上空から見た景色などの様々な情報を照らし合わせて目的地の方角を見極め、王都へ向かって歩みだした。


『あんたって、器用ね! 知らない場所へ来たのに、マジで慣れてる感じじゃん』


『お世辞はよしてください。この程度のことは出来て当たり前です』


 ビオレにはお世辞を言ったつもりはなかったのだが、エーデルトの自己評価の低さと、自分に対する厳しさが、彼にその言葉を皮肉だと捉えさせてしまったようだ。

 

 その後、エーデルトは無事に森を抜けてアバゴルに到着し、通行税を払って身分証を提示して税関を問題なく通り抜け、特になんのトラブルも無く王都の内部まで辿り着いた。


『あー、わかったかも。あんたって、なんでもそつなくこなせるから、物語的な起承転結の承と転の部分が出来にくいんじゃない? だからつまらなくて視聴率出ないのかも』


『そんなことを言われても困ります……』


 唐突につまらないと言われて、エーデルトは心外そうな顔を浮かべた。


「あっ……」


 大通りを歩いているとエーデルトは思わず声をあげた。見覚えがある張り紙を右目の端で捉えたのだ。彼はすぐさま、その気になった張り紙に接近した。


 雨に濡れたせいか少しぼやけているが、あれに描かれているのは間違いなくソファイリの似顔絵だ。何か他の情報はないかと、エーデルトは近くの張り紙に一通り目を通していき、とあるもう一枚の手配書の上でその目を静止させた。


 その手配書にはこう書かれていた。


 フーン、王を殺した反逆者。生死不問。


『こいつがソファイリをそそのかして、王の殺害に加担させたのでしょう。見るからに悪人ヅラをしています』


『そー? 目つきは悪いけど、あたしには人畜無害そうに見えるんだけど。あと若干、ヒモっぽい』


『殺人を犯したんですよ? 人畜無害なわけないじゃないですか』


 エーデルトはフーンと呼ばれる人間が描かれた手配書を壁から一枚剝ぎ取り、リュックの中にしまった。この似顔絵を使えば、人探しが少し楽になるかもしれないと考えたからだ。


 彼はここで得られる情報はこの程度だろうと判断し、次の目的地へ向かって足を進めた。



***



「こんにちは、今日はどのようなご用件でしょうか?」


 エーデルトはアバゴルの冒険者ギルドに立ち寄っていた。彼はソファイリが冒険者として登録していることを知っている。そして登録カードが必要だという都合上、冒険者ギルドは偽名のまま利用できない。なので、ここならば彼女が通った形跡を見つけられると思ったのだ。


「人探しをしています。ソファイリ・エルマイヤという名の冒険者は、ここを最近訪れましたか?」


「申し訳ございません。そのような個人情報は提供できない決まりとなっております」


 受付嬢はエーデルトの要求を断ると、彼の退出を促すように、目を出口の方へちらりと向けた。厄介な客だと思われたのだろう。


色魔の囁き(チャーム)


 受付嬢以外の人に聞こえないように、エーデルトは小声で魅了の呪文を唱えた。


「もう一度、お尋ねします。ソファイリ・エルマイヤという名の冒険者は、ここを訪れましたか?」


「……記録を確認してきます」


 受付嬢はぽっと顔を赤らめ、もぞもぞと落ち着かない様子で裏部屋へ向かった。


 周りには受付嬢の急激な態度の変化を疑問に思い、エーデルトに怪訝な視線を向けた人もいた。だが彼ら彼女らがエーデルトの魅力的な容姿に気づくと、様々な疑問は、嫉妬、もしくは憧れのような感情に塗りつぶされて消え去った。


 もし彼が汚いおっさんだったら、通報されるか、リンチに遭うかといった感じの悲劇が待ち受けていただろうが、何故かイケメンは許されてしまうらしい。


 数分後、受付嬢は手に一冊の手帳を持って戻ってきた。


「一ヶ月ほど前、ソファイリ・エルマイヤはここを訪れたようです」


「そうですか。彼女はどのような依頼を受けたのでしょうか?」


「ソファイリ・エルマイヤは依頼を受けていません」


「では、彼女はどうしてここに?」


「二人の冒険者志願者を連れてきていました」


「その二人の名前は?」


「フーン、そしてセタニアという名の二人の人間(ヒューマン)です」


 エーデルトは受付嬢の言葉を聞くと、ぱーっと表情を明るくさせた。

 ここを訪れたのは大当たりだったようだ。


「その二人は依頼を受けたのでしょうか?」


「はい。二人が受けた依頼の詳細は――」


 エーデルトは受付嬢の言葉を、一句一言、丁寧に自分の手帳に書き記した。

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