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82 パラメーター操作 後編

 俺とカリアは、いつぞや一緒にキティーフラワーを狩った草原へと出向いた。

 視界が隅々まで届く広い平地、レベルが低いモンスター、街からおおよそ徒歩十分。

 魔物狩り初心者には打ってつけな環境だが……まあ、熟練者である俺にはちょっと物足りないかもしれないな。


「よし、手始めにあれを倒してみろ」


 カリアがナイフの先端を向けた地では、のほほんとした顔を浮かべた一匹のキティーフラワーが野花の匂いを嗅いでいる。

 あの魔物は周囲をまるで警戒しておらず、この世の悪意から無縁であるかのように幸せそうだ。

 そんな無害な魔物を手に掛けるのは少し心が痛む――


 ――でも、死ね。


 最近は全く使っていなかった、苔を生やしつつあるババアの剣を腰から抜き、俺は勢いよくキティーフラワーに飛びかかった。


「おらぁーっ!」


 ――スカッ。


 渾身の斬撃は動いてもいないキティーフラワーを華麗に避け、俺は勢い余ってその場で転けてしまった。

 キティーフラワーは俺を見て不機嫌そうな唸り声をあげると、後ろ足でサッサと地面を蹴り、泥を俺の顔に塗りつけた。


「お前……もしかして、むしろ弱く(・・)なっていないか?」


 残念ながら彼女の言葉は真実のようだ。

 奴隷だった頃、カリアと一緒に訓練をしていた時は、キティーフラワー程度なら手軽く倒せていた。


 それに、よく考えたら八勇士だった間、俺は一度もまともな戦闘をしていない気がする。

 盗賊団は地形にやられて勝手に自滅しただけだし、他のは全部味方があっさりと処理するのを見物していただけだ。

 今の俺の戦闘能力がかなり鈍っているのも頷ける。


「ああ、弱くなってるみたいだな」


「何をどうやったら、そんな腑抜けたことになるんだ! 失望したぞ」


「いや、そもそもカリアは失望できるほど、俺に期待なんて寄せてなかっただろ?」


「屁理屈だけは相変わらず一級品だな……」


「お褒めに預かり光栄だ!」


「褒めていないぞ……。よし、では今日からまた特訓を再開する。毎朝、迎えに行くから覚悟しておけ」


 えええ……それは困る。

 俺は毎朝メルリンと掃除をしたいのに。


 仕方がない。こうなったらラックに頼って、そこらにいるモンスターをちょちょいとやっつけて、実はこんな力を秘めていました的な展開でごまかそう。


 都合よく原っぱの奥の方にいる、鬣の代わりにでっかいラフレシアを生やしている魔物は、キティーフラワーの上位種、ライオンフラワー。

 俺の強さを証明するには格好の相手だ。


「おーい、そこのライオンさん! ぶん殴ってやるから、ちょっと来い!」


「お前、正気か!?」


 カリアは慌てて止めようとするが、俺は構わずライオンさんへ向かっていく。

 どうせあいつの攻撃は当たらないんだ。

 前みたいに、自滅するまで持久戦をすればいい。


「おーい、こっちだ――」


 ――スッ!


 背を向けているライオンフラワーの尻尾が、顔のすぐ横を切り裂くように通過し、俺は条件反射的に手を自分の頬へやった。

 すると妙に滑らかな感触が指に伝わった。


「ば、バンドエイド?」


 バンドエイドが付いているということは、俺のグロ規制アビリティが発動したということだ。

 だが、それはおかしい。

 俺に攻撃は当たらないので、怪我をするはずがないからだ。


 あいつの攻撃はケパスコの嫌がらせのように、戯れとして処理されているのか?

 だとすると、痛みを感じないのはおかしい。

 戯れとして処理されているのなら、堅忍不抜もどき(ペインキラー)も発動しないはずだ。


「わわわ! ちょっと待ってください、浮雲さん! ちょっとこれバグってて設定画面に戻れない……」


 遠くから見守っているベルディーが何かを焦った口調で叫んだ。

 彼女は見慣れないカードのような物を震える手で握っている。


「そ、そのだな。ラ、ライオンさん? さ、さっきのぶん殴るとか言ったのは冗談だから、お互い何もなかったことにしないか?」


 俺は不可思議な状況に恐怖を感じ、一歩ずつ後ずさり始めた。


 ――だが、それは間違いだった。


 逃げるという行為は、弱い者が強い者と対峙した時に行われる。

 この原っぱの強者であるライオンフラワーはそれを理解している。

 俺が選んだ選択肢は、ライオンフラワーの俺に対する警戒心を完全に解消してしまったのだ。

 

「グルルルルァ!!!」


 ライオンフラワーはくるりとこちらへ向き直り、血に染まった眼球で俺を睨みながら、勇ましい雄叫びをあげ、鉤爪を振り上げて飛びかかってきた。


「お、お助け……」


 恐怖に体を支配されている俺は、飛びかかってくるおぞましい魔物をせめて視界から消すために目を瞑った。

 全速力で逃げるや、横へ飛び退くのような、選択肢を選べる精神状態ではなかったのだ。


 だが、悪あがきをする意気はまだある。

 俺は両手に握った剣を前に出し、それを適当に振り回し始めた。

 簡単に躱されるだろうし、筋力の問題で当たっても然程のダメージは与えられないだろうが、今の俺にはそれが精一杯だった。


「……」


 ……なんだ? 急に静かになったぞ?


「信じられん……。お前は弱いふりをして私をからかっていたのか?」


 カリアの声が近くから聞こえたので、俺は再び目を開く。

 すると――


 ――俺の前には半径5メートルほどのクレーターが出来上がっていた。


 数秒前には、緑の草原と凶悪な魔物があったはずだ。

 なのに、いつの間にそれらは消滅し、でかい穴と化していた。

 わけがわからないよ。


「お、俺が倒したのか?」


「ああ、その剣から放たれた衝撃波に全てが潰された」


 そ、そんなバカな。これもラックが成せる技なのか?


 ……まあ、そういうことにしておこう。

 俺のラックはなんでもありなチート能力なので、真面目に考えるだけ無駄だ。


「お、そうだ。花粉の瓶を拾っておかないと」


 花粉の瓶とは極小確率でライオンフラワーから落ちるドロップアイテムだ。

 前にババアの農園から毛虫を駆除するために、手に入れたことがある。

 今は必要ないが、高価な物なので余分に持っていても損はないだろう。


「一匹倒した程度で落ちるわけがない。あれはレアドロップだぞ?」


「でも、俺が倒すとなぜか落ちちゃうんだよな……って、あれ? どこにも無い」


「当たり前だ」


 ドロップアイテムが落ちなかった?

 おかしい。俺のラックがあれば確定ドロップするはずなんだが……まあ、いいか。

 俺は見ていないが、カリアが言っていた剣から放たれた衝撃波とやらが瓶ごと破壊してしまったのだろう。


「ふー……。なんとかギリギリ操作できましたが、間違えてパワーをカンストさせちゃいました。気づかれる前に戻さないと……ん? 待ってくださいよ。箱庭(ゲーム)のサーバーに接続できるということは、理論的に普通のネットにも接続できる? もしかして、これを弄れば……」

 

 ベルディーが何か独り言を呟いている。

 カンストとか、サーバーとか言っているし、どうしてもネトゲが遊びたくて、ついにゲームの脳内シミュレーションでも始めてしまったのか?

 これは末期症状だな。

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