77 ヨムルとティータイム
「で、王様を殺したあとパーシファーの叔父と出会って、ここまで送ってもらったんです」
「ほう、なんというか……それは幸運だったね」
俺の王都での冒険談を最後まで聞いたババアの感想は実に的を得ていた。
最初から最後まで立て続けに幸運が続いたから、なんとか五体満足のまま戻って来れたようなものだし、本当に俺のラックには感謝しなければいけない。
「お茶が出来ました」
台所へ繋がる扉が開き、お茶を乗せたトレーを持って、メルリンが居間に入ってきた。
彼女はテーブルの上にお茶を四つ置くと、くるりと俺たちに背を向けて、すぐさま逃げるように台所へ戻っていった。
残念だ。メルリンともこれまでの出来事について教えてあげたかったのに、さっきからずっと台所に籠っている。
俺のあんな活躍やこんな活躍について自慢したかったのに。
まあ、あとでメルリンと俺だけの二人っきりの状況で、お互い離れていた間の出来事についてじっくり、ねっとり、楽しく話し合うとしよう。
うん、それがいい。
メルリンといちゃいちゃするには、ソファイリとセタニアが邪魔だしな。
「で、お前たちはこれからどうするんだい?」
はて? 俺たちはこれからどうするのだろう?
綺麗さっぱりノープランな俺は、頼れるソファイリに期待の眼差しを向けた。
「はぁ……。そうですね。他に行く宛もないし、ほとぼりが冷めるまで、しばらくはこの街で隠居生活ってことになるでしょうね」
「まあ、それがいいだろうね。でも、それだと住むところが必要じゃないか。二、三日泊まるだけなら、うちでも構わないが、いかんせんちょっと狭いからね。メルリンとカリアは私の部屋で寝るとして、お前たち三人は彼女たちの部屋で……」
「ダメです!」「無理です!」
急に台所の扉が開いてメルリンが顔を出し、ソファイリが勢いよく立ち上がり、二人の声が見事にハモった。
「し、失礼しました……」
メルリンは真っ赤な顔を浮かべて台所の中に戻っていった。
いったい今のはなんだったんだ……。
あと、ソファイリは即答しすぎ。
どんだけ俺と一緒の部屋に住みたくないの……。
その程度なら受け入れられるほどには、信用できる仲になれたと思っていたから、若干ショックだ。
「セタニアはそれでいいヨ!」
「あんたはロバと一緒に馬小屋の中で寝るのも問題ないでしょ。ちょっと黙ってて」
ソファイリがさらりと酷いことを言った気がするが、セタニアは「そだね!」と答えただけで、別に気にしていないご様子。
相変わらず呑気なやつだ。
「まあ、ともかく、住むところの話だね。これは本当に偶然なんだが、実はあたしゃ、この近くで売りに出されている空き家の鍵を所有しているんだ」
「盗んだんですか?」
「アホかい、そんなわけないだろ……。ちゃんと家の持ち主に頼まれて、正式に預かっているんだよ、フーン。ちなみにその家の持ち主は、お前もよく知っているあのパーシファーだ。彼はつい一昨日、いきなり荷物をまとめてこの街を出ていった」
なんだと? パーシファーだって?
しかも、一昨日出ていった?
なんというグッドニュース。
あまり会いたくなかったので、運がいい。
「何か急ぎの用があったらしくてね。しばらく戻れないが、戻ってきた際に売値の七割を返すだけでいいから代わりにあの家を売ってくれと、あたしに頼んできたんだ」
つまりババアは三割も丸儲けできるのか。
ババアは元手を一切出していないので、家を売る際に生じる多少の手間を考えても、ほぼ間違いなくパーシファー側に分が悪い取引だ。
そんなものを持ちかけさせるほど重要なものとは、いったい何だったのだろう?
「つまりヨムルさんには、あたしたちにその家を売ることができるということですか?」
「そうだね」
「じゃあ、その家を買わせてもらいます」
「本当かい? 言っとくけど、フーンの知り合いだからって安くはできないよ? あたしの所有物じゃないんでね。ちゃんと相場で買ってもらわないと困る」
「大丈夫ですよ。こんな田舎の一軒家の値段なんて、たかが知れてますからね」
今の言い方にカチンときたのか、ババアの表情がちょっと強張った。
まあ、ソファイリの懐事情を知らないんだし、無理もない。
ポンと何気なくコペルト紙幣を10枚出せるのだから、本気を出せばバリーの土地の三割とか買えてしまいそうだ。
「わかったよ。じゃあ、頭金は最低でも――」
「そんなことをする必要はありません。一括払いでお願いします」
「いや、流石にそれは無理――」
ソファイリが貯蔵箱から札束を取り出すと、ババアはむぐっと口を噤んだ。
そして目を大きく丸く開いて、音にならない悲鳴をあげると、どてんと椅子から転げ落ちた。
田舎者のババアには、ちょっと刺激が強すぎたようだ。
そういえば、パーシファーが出ていったということは、パーシファーに会いにきた叔父さんは入れ違いになってしまったということか。
急な用事だったらしいし、連絡を入れる暇がなかったのかな。




