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74 協力者

目隠しの光(ブラインド)!」


消音(サイレス)!」


 ソファイリの光魔術と闇魔術を駆使して警備隊の目をごまかしながら、俺たちはなんとか俺のバイト先である、マジックショップ北星まで辿り着いた。

 店の中には、見慣れた位置に水晶玉のようにつるつるとしたものがあった。


「お久しぶりです、ジジ……じゃなくてビュ……ビュ……ビュフィ?」


 やっべ、久しぶりすぎて名前を忘れてしまったみたいだ。


「お久しぶりです、店長!」


 博打を打つよりこちらの方が安全だと思ったので、俺はそう言い直した。

 よく考えたら、適当な名前を叫んでもラックのおかげでどうにかなっていただろうが、人間、そう簡単に非論理的な行動は取れないものである。


「フーン! お前、こんなところで何をしておる!? 王都中の人間がお前を探しているんじゃぞ!? ばかもん、さっさとここから離れろ!」


 俺の姿を見ると、ドワーフの店長は顔を真っ赤にして、つるぴかーんな頭から湯気を放ち始めた。

 上にやかんを乗っけたいところだが、状況的にふざけている場合ではないので諦めた。


「根性はひん曲がっておるが、悪意だけはかけらもないお前のことだ。きっと誰かにはめられて、クーデターの引き金役としてうまく使われたんじゃろ? お前が私怨で王を殺したと聞いたが、とても信じられなかったぞ」


「まあ、確かに私怨はなかったですね」


 完全に事故だったからな、あれ。

 唐突に意味もなく殺された王様が不憫でならない。


「ん……? そこにおるのは誰じゃ? 何かとても気色悪い雰囲気を纏っている女じゃの」


「あら? 薄汚い種族のくせに、生意気なことを言うのね」


 店の外で様子を伺っていたソファイリが、ずかずかと大股で踏み込んできた。

 さっきのジジイのセリフが気に障ったらしく、しょっぱなから喧嘩腰だ。

 よくあるエルフはドワーフと仲が悪いというやつなのだろうが、俺たちはこれからこのジジィに頼みごとをしなければならないので、少し自重してもらいたいところだ。


「まあ、そいつはともかく、わざわざ危険を犯してまでわしに会いに来たということは、それ相応の理由があるんじゃろな? 何が目的じゃ?」


「実は――」


 俺はこれまでの経緯(王様を俺の不注意で殺したことを除いて)、そして俺たちのこれからの予定をジジイにざっと伝えた。

 全てを話し終えると彼はうむうむと頷き、幸いなことに協力的な姿勢を見せてくれた。


「そうか。なら、わしが明日の早朝に出向いて、逃げるための馬車を借りてきてやろう。今夜はここで休んでいけ。わしの結界による警備は万全じゃし、どうせ他に行くあてはないんじゃろ?」


「はい、助かります! 店長マジ最高、愛してる!」


 ジジイは抱きつこうとした俺をぱっと片手で押し飛ばすと、ソファイリの前に立ち、精一杯の上から目線(身長的には下からだが)で彼女に言葉を告げた。


「おい、そこのエルフ娘。わしに何か言うべきことがあるんじゃないかの?」

 

「……ありがとうございます」


 そう言いながらも、ソファイリはあまりありがたくなさそうな凍てついた眼でジジィを睨んでいた。

 心の中では罵詈雑言辞典の音読でも繰り広げられているのだろう。


 ――チリリーン。


 玄関のベルの音だ。時刻は遅いが、まだ閉店はしていないので、どうやら客がやってきたらしい。

 俺は久々に接客をしてやろうと意気込み、くいっと口の両端を吊り上げて営業スマイルを作った。そして対応に出ようとするが――ソファイリに腕を引っ張られて、店の奥まで連れ込まれてしまった。


「ちょっと、バカなの? あたしたちは指名手配されてるのよ? 信頼できる人以外に、姿を見せたらダメでしょ」


「そ、そうだな。悪い、迂闊だった」


 棚に置いてある緑色のポーションに来店した客の姿が写っている。

 あの人には覚えがあるぞ。

 確か、35話の中盤でこの店に入店してきて、名前すら明かされずに五行ほどのセリフを話した、自称お得意さんのチャラそうなおっさんだ。

 ジジイの名前は覚えていないのに、どうしてこんなどうでもいい情報は詳しく思い出せるのだろうか……。


「すまないねー、ちょっと立ち聞きしちゃってね。かなり面白いことになっているみたいだな、じいさん」


「おい、どこまで聞いておったんじゃ!? さっさと白状しないとわしの魔法が火を吹くぞ、文字通りに」


 なんだか話が良くない方向へ進んでいる。

 こんなところで魔法の戦闘が行われたら、騒ぎになって人が集まってきてしまうかもしれないぞ。


「おいおい、もし俺が全部って言ったらどうするんだよ?」


「わしの魔法が火を吹くな」


「ははは、それは弱ったね。せっかく俺がバリーへ行く馬車を出してやろうと、提案するところだったのに」


「ふん、でまかせじゃ。うまいことを言って、この場を逃れようとしているに違いない」


「そうだな、確かに俺の潔白を証明するのは難しいな。いや、参ったよ、じいさん。これは焼かれるしかないかもな。ははは」


 チャラそうなおっさんの口調は、これから焼かれるかもしれないと考えている人間の話し方とはとても思えなかった。

 へらへらと笑ってるし、態度が能天気すぎる。


「じゃあ、これに賭けてみるか。おい、そこに隠れているバイト君! パーシファーって名前のやつを知っているかい? 割りと目立つやつなんで、名前ぐらいなら知ってるかもしれないと思ってね」


 パーシファー……だと?

 知らないけど背筋に悪寒を走らせる、嫌な感じがする名前だな――と、とぼけたいところだが、あいつのインパクトはまったくコンパクトではないので、残念ながらしっかりと覚えている。


「ああ、知っている。友じ……知り合いだ」


「俺、そいつの叔父なんだ。あいつに会いに行くために明日バリーへ向かう予定だったんだが、ついでにお前たちも連れてってやるよ」


 パーシファーの叔父?


『王都にはね、あたしの叔父が住んでいるのよ』


 そんなパーシファーと最後に交わした言葉がもわっと脳内で思い起こされた。

 こんなところで偶々出会ってしまうとは、相変わらず運がいいなあ、俺。

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