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72.5 一炊の夢

「じゃあ、スペ3ね。はい、もう一度あたしの番」


「えー、ソファイリさんが隠し持っていたんですか!?」


 ソファイリがメルリンのジョーカーの上にスペ3を召喚。

 これはかなりの爆アドだ。

 もし対戦相手に俺がいなかったら、この試合はソファイリの一人勝ちだっただろう。


「不覚を取られたな……。私の策が台無しだ」


 カリアが手札を睨みつけながら、必死に思考を巡らせ、新しい作戦を捻りだそうとしている。

 哀れな奴め。

 どうせ彼女が最下位になるのは決定事項なので、無駄な努力なのに。


「ねえねえモーラノイ、これはどうやってつかうノ?」


 セタニアがそう質問しながら、俺の顔に自分の手札を押し付けてきた。

 ……前言撤回。

 最下位候補の筆頭に選ばれるべき人物は、こっちの方だったかもしれない。


「さっき説明しただろ……。ともかく対戦相手に手札を見せたら、不利だからちゃんと隠し持ってろ」


「おっけー。わかったヨ!」


 そうセタニアはあたかたもしっかり理解したかのように返事をした。

 だが、あの顔は絶対にわかっていない顔だ。

 もうしばらくすれば、まったく同じ質問をソファイリにもする。

 それがいつものパターン。


「ふむ、これにしよう」


「セタニアはこれだすヨ!」


「だから、それは今出せないの。さっき説明したでしょ……」


 しかし……わいわい、がやがやと騒がしいな。

 美少女たちに囲まれているこの空間の異質な騒がしさには、どうも慣れない。


「次は浮雲さんの番ですよ。早く出してください、さあ早く早く」


「あ、うん」


 左隣に座っているベルディーが、ひしゃげた羽でパタパタと俺をはたいて急かそうとする。

 慌ててカードを選ばせてミスを促そうとしているのだろうが、それは無意味だ。

 俺はそもそも何も考えずにカードを出しているので、間違えようがない。

 別に深く考えずとも選んだほうが正解になるのだ。


「じゃあ、これだな」


 俺は二枚の2を出し、周りの女性たち(ルールを理解していない奴を除く)をまとめて絶句させた。




 ……え? どうしてついこの間、王様を殺して絶体絶命の危機に瀕していたはずの俺が、こんなのほほんとした四コマ漫画みたいな状況になってしまったかって?

 それを説明するには少し話をさかのぼらせる必要がある――

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