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8 検問

「バリーへお越しの方は、こちらの列にお並びください!」


 槍を手に握っている兵隊っぽいおっさんが人混みを取り仕切っている。


 適当に壁へ向かって歩いて、他の旅人っぽい連中の後をつけていたら、なんとか街門までたどり着けたようだ。

 後はこの列に並んで順番を待つだけである。


「はぁ~。なんとかここまで来れたっすね、兄貴!」


「おお。あと少しだぜ」


 俺の真ん前に並んでいるのは、見覚えがある盗賊の二人だった。

 そして、彼らの隣にはオンボロ馬車を苦しそうに引いている、かわいそうなロバの姿もある。


「ん?」


 盗賊弟分が、なぜかこちらをじーっと熱烈な視線で見つめてくる。

 い、色目じゃないよな?

 お、俺、そういうのは無理だぞ?


「それ、どっかで見たような気がするっす……。お嬢さん、その服をどこで手に入れたんっすか?」


「……!」


 迂闊(うかつ)だった。

 この洋服は、俺があいつらから盗んだものじゃないか。

 どうにかそれっぽい話をでっちあげて、誤魔化したいところだが、異世界語を話せないので返事ができない。


「どうかしたのか?」


「兄貴、あの女が着ているワンピースになんか見覚えが……」


 顎に手をやりながら、盗賊弟分はう~んと考え込むように首を捻る。

 やばばばばばばばばばばばばば、ばれるかももも――と心配していたが、幸いなことに俺が問い詰められるような展開にはならなかった。


 盗賊弟分が急にギョッとした顔を浮かべて、くるりと俺から視線を外したのだ。


「いや、なんでもないっす、兄貴! よく考えてみると実は全然覚えがないっすね! 俺に女装趣味があるわけないっすし、今朝なくしたワンピースなんて存在するわけないっすし、あの女がその存在しないワンピースを着ていたなんて奇跡もあるわけないっすからね!」


「お、おう?」

 

 盗賊兄貴は困惑したように疑問符を頭の上に浮かび上がらせる。


 誰も訊いてないのに、ベラベラと喋りすぎだろ。

 てか、これあいつが着てた服なのかよ。

 なんだか無性に気持ち悪くなってきたぞ。

 街に入ったら、さっさと着替えを探さないと。


「そんなことより、そろそろ俺たちの番っすよ、兄貴!」


「おっ、そうだな。じゃあ俺が先に検問を通るぞ。お前の分も入街料金を払ってやるから、財布を貸してくれ」


「はいっす、兄貴」


 まあ、何はともあれ、どうにか怪しまれずに済んだ。

 街の中ではあいつらのことをなるべく避けながら行動することにしよう。


 兄貴の方は無事に検問を通り抜け、次は弟分の番である。


「は? そんなの聞いていないっすよ?」


 盗賊弟分が切羽詰まった表情で、検問の兵隊と言い争いを始めた。

 どうやらトラブってしまったらしい。


「ここを通るために、通行手形が必要なのは常識だ」


「知らないっすよ、そんなの!」


「悪いが、お前は不法侵入を試みた罪で、これより公開処刑される」


「ちょっと待つっす! 冗談っすよね! 兄貴、助けてくれっす!」


 検問所の向こう側で、盗賊兄貴はにっこりと微笑みながら手を左右に振っていた。

 財布を貸せって言ったのはこういう……。

 クズすぎるだろ。


「こっちへ来い!」


 凶悪な人相をした大男が、喚き散らしている盗賊弟分の首根っこを片手で掴み、列の最前線、つまりは俺の真正面に引っ張ってきた。


「お前ら、よく見てろ! 不法入国者は……こうだ!」


 大男は背中に担いでいる恐ろしく鋭利(えいり)な斧をもう片方の手で抜き、すぽこーんとケヴィンの首を俺の目の前で躊躇(ちゅうちょ)なくはねた。

 大事なことなのでもう一度言うが、すぽこーんとはねたのだ。


 むちゃくちゃ、むごたらしい光景のはずなんだが―――


『血が一滴も飛ばなかったぞ?』


『新たなパッシブスキルを習得しました! 【CEROの横暴(ゴアブロック)】です。目に映った刺激的なものに自動的な修正を施し、常に平常心を保って戦えるようにする便利なスキルですよ』


 首の中が空洞になっていて、逆にホラーなんだが。


 ―――って、それどころじゃないだろ!


 通行手形を持っていない以上、俺もまもなく首がすぽこーんってはねられるんだよね!?

 ここは一旦引こう……と思ったのだが、後ろの人混みが過密(かみつ)すぎて通り抜けられない。

 どこもかしこも、ぎゅうぎゅう詰めである。


 まずいまずいまずいまずいまずい!!!


 お、落ち着け。

 とりあえず、まずはその場しのぎだ。

 俺はどうぞどうぞと手でジェスチャーし、後ろに並んでいたあんぱんとか焼いてそうな、(ほが)らかな顔のおじさんに列の先頭を譲った。


「通行手形を出せ」


「そんなもんあるか、ボケ!」


 兵隊の要求を真っ向から蹴り飛ばし、朗らかおじさんはボコスカと検問の兵隊を殴って気絶させた。

 全然、朗らかじゃねぇ!


「おい! 奴を捕らえろ!」


 どだだだっと、街壁の上で待機していた数十人の兵が雪崩れ込む。


「おい、一体どうなってるんだ?」


「列が動かなくなったぞ!」


「どきやがれぇ、このノロマども!」


 列を制御していた兵隊までもが、そちらへ向かってしまったので、秩序(ちつじょ)を失った雑踏(ざっとう)はカオスと化した。

 皆が我を通せと他人を押し退けながら、門を目指している。

 兵隊を押し倒したり、大きな武器をぶんぶんと振り回したり、女装している俺のケツにさりげなく触れたりと、列に並んでいた集団は完全にやりたい放題である。


 さてと、このどさくさに(まぎ)れて俺も街の中に侵入するか。

スキルが増えたのでまとめてみました。


アクティブスキル

・なし


パッシブスキル

・【CEROの横暴(ゴアブロック)

 青少年の心に悪影響を及ぼす可能性がある、グロテスクな表現をフーンの視界からことごとく排除する。

 青少年健全育成基本法案に基づいた健全なスキル。

 

・【メタルパニック(タライ落とし)

 第六感が危機を感じると、自動的に敵の頭上にタライを落とす。

 タライは直径30センチを誇り、鉄製。

 標準的な成人男性を気絶させる程度の威力が出る。

 常に見えない護衛がつきまとっているようなチートスキル(?)だが、気を失っていると発動しないという欠点がある。

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