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71 リフォニア城 その8

 最後の階段を登りきると、そこには一つだけ大きな扉があった。

 おそらくトリンはここに捕らえられているのだろう。

 待ち構えているのはさしあたりラスボスだな。

 俺は落ち着くために一度深呼吸をしてから、扉に両手を当てた。


「扉を開くぞ、カーン」


「はい、フーン様」


 よし、これ以上ためらう理由はないな。

 よっこらせっと……こ、これは……!?


 ――何も見えん。


 部屋内のすべてにモザイクがかかっており、いたるところに謎の光線が張り巡らされ、よくわからん立て札を持ったちびキャラたちが縦横無尽に飛び回る。

 カオスの渦中に飲み込まれてしまったかのような気分だ。

 ……ん?


「んんっ……愛し……、…ル!」「僕も……マ……ルダ!」


 やかましい規制音のせいで断片的にしか聞こえないが、誰かの声がうっすらと聞こえる。


「おい、トリン! 助けに来たぞ! いるなら返事をしてくれ!」


 声がはっきりとしてきた。

 片方はトリンのように聞こえるが、もう片方はいったい誰なんだ?


「トリン、どこだ!」


「……あら、フーンさん? そしてトロイも」


 どうやらトリンが俺たちの存在に気づいたらしい。


「姫様、迎えに参りました」


 海外意識(センサーシップ)のせいで目が封じられて何がなんだかよくわからんが、カーンの落ち着き具合からして、どうやらラスボスと戦闘みたいなことにはならなさそうだ。


「トロイ、これは一体どういうことなんだ?」


「詳しい説明はのちほど。まずは服を着てくださいませ、お兄様」


「そ、それもそうだな……」


「あら、いやだ。よく考えたら、かなり恥ずかしいですわね。ふふふ」


 い、いったい何が起こっているんだ!?

 モザイクのせいで状況がまったく把握できない。

 だが……なぜか、ものすごく損をしている気がする!


「フーン様、一旦廊下に出ましょう」


「え? まあ、いいけど……。カーン、俺を担いでくれないか? スキルが誤発動したせいで、どっちに扉があるのかわからない」


「……了承しました」


 ――バタン。


 扉が閉まる音が鳴り、俺の視界は回復した。


「おめでとうございます、フーン様。私たちの目的は無事に達成されました」


「え? そうなのか?」


「はい。 八勇士は誘拐されたマチルダ姫をリフォニアの魔の手から救った。ここから先、しばらくの間はそのように口裏を合わせていただくと助かります」


 口裏?

 いったいどういうことなんだ?


「なんだかよくわからんが、俺の視界がふさがれている間にカーンがなんとかしてくれたのか?」


「フーン様には部屋内の様子が見えていなかったのですか?」


「ああ。俺のめんどうなスキルのせいでちんぷんかんぷんだ」


「……あまり気にしないでも大丈夫ですよ。とりあえず私の提案に沿って行動すれば、八勇士のみなさんは無事にアーマインまで戻れます」


 賢明なカーンがそう言うのだから、それで大丈夫なのだろう。

 だが、いくつかの疑問がまだ残る。


「そういえばカーン、さっきはマチルダ姫って言ってたけど、俺たちはトリンを助けにきたんだよな?」


「フーン様、あまり深入りしないほうが賢明ですよ。真実を知ってしまえば、あなたに危険が及びます。トリン様は無事に救出されて、どこか遠くへ去っていったということにしておいてください」


 う~ん、気になる。

 だが、カーンがああ言うのだから、多分そうした方がいいのだろう。


 ――キーッ。


「トロイ、待たせてしまってすまない」


 扉が再び開くと、高級感あふれるガウンをまとった金髪の男が出てきた。


「ごめんなさいね、トロイ。私、どうしても彼に会いたかったの」


 彼に続いて顔を出したのは、どうも見覚えがある気がする美人なお姉さん。

 これほどの美人を俺が忘れるはずはないのだが、なぜか彼女の顔が当てはまる人物は一人も思いつかない。

 不思議だ。


「兄様、下の応接室で少し話をしましょう」


「ああ、わかった。マチルダはここで待っていてくれ」


「はい、わかりましたわ」


 カーンは俺とマチルダ姫を残し、金髪イケメンを連れて階段を下りていった。

 しかし――本当にどこかであった気がするんだよなあ。

 でも、俺が一国の姫と接点を持っているとは思えないし……。

 とりあえず本人に聞いてみるか。


「えーっと、どこかでお会いしましたっけ?」


「そうね。確かにどこかでお会いした気がしますわ、ふふふ」


 ぼかした言い方をするマチルダ姫。

 この声もどこかで聞いたような……まあいいか。


 楽しそうに微笑みながらマチルダ姫は俺の顔を眺めている。

 このまま無言で過ごしていたら恥ずかしくて落ち着かないし、何かほかに話題はないものか……。


「そういえば、カーンはさっきの金髪を兄様って呼んでましたよね。あの二人はどういう関係なのか知ってますか?」


「トロイ……じゃなくて、カーンはね、マイル王子の弟ですのよ。十年前にリフォニアとアーマインが平和条約を結んだ時に、 アーマインへの贈り物として養子に出されましたの」


 ほう。

 それで、やたらリフォニアについて詳しかったのか。

 なぜ、そんな人物が田舎者の集まりであるはずの八勇士に混じっていたのかは謎だが、おそらく彼なりの理由があったのだろう。

 マチルダ姫とマイル王子はさっきからトロイ、トロイって言ってるし、カーンは多分偽名だな。

 本物のカーンと入れ替わって潜入していたのかもしれない。

 

『浮雲さん、そんなことに構っている暇はありませんよ』


 ベルディーが俺に通信を送ってきた。

 そういえば、何か重要なことを忘れているような……あ、思い出した。


「マチルダ姫、ここに時魔導師を呼ぶことは可能ですか? 俺の仲間が石化の魔法にやられて、今にも死にそうなんです」


「あら、それは大変ね。急いでマイル王子に頼んでみましょう。彼ならリフォニア中の時魔導師をかき集められるはずよ」


 ふぅー。

 よかった、これでソファイリは助かりそうだ。

 あとはアムルたちだな。

 まあ、理不尽レベルで最強なセタニアがいるから多分大丈夫だろうけど。

 むしろおっさんの方が心配か。



***



~下の階、廊下にて~


「わはは、強いな貴様ら!」


 地面に横たわりながらおっさんは大笑いをあげた。


「おう、おっさんもな。久しぶりに苦戦したぜ」


 おっさんの隣にはアムル、ゴーサル、そしてセタニアが寝そべっている。

 全員ともに身体中が傷や痣だらけになっており、とても自力で動けそうにない状態だ。


「どうだ? 回復したら私と一杯飲みに行かないか?」


「おっ、強い上に話がわかるやつだったとはな! もちろん、行くに決まってんだろ! ちなみに支払いはおっさん持ちな」


「ははは、構わんぞ」


「では、私も同行させてもらおう」


「セタニアもいくヨ!」  


「ふははは! 構わん、構わん! いくらでもおごってやろう」

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