70 リフォニア城 その7
敵の気配がする。
ソファイリの魔法が解けて、針忍者のやつが動き出したな。
――シュッ!
俺はひょいと器用に身をよじり、石化の呪術が組み込まれた針をかわした……ように敵からは見えているだろうが、たまたま背中を掻こうと体を動かしたところを狙われただけだ。
さてと、ここは敵を無視して先へ進むべきだろうか?
敵の攻撃は永遠に当たらないだろうし、リスクが少なそうな選択肢だ。
それともこいつをトリンが捉えられている場所までついてこないように、ここで仕留めるべきだろうか?
頂上までこいつを連れて行って、トリンがあいつの針にやられてしまったら元も子もない。
やはり、ここで倒すべきだな。
しかし――
周囲を飛び回る針を目で追いながら敵の位置を把握しようとしているのだが、まるで見当がつかない。
三百六十度の全方角 、前後左右はもちろん、上からも下からも飛んでくるんだけど?
分身の術でも使っているのか?
タライさえ発動してくれれば、敵の位置なんてどうでもいいのだが、遠距離攻撃が俺に当たらないということは流石にわかりきっている。
なので、延々と針を避け続けても命の危険はまるで感じられない。
つまり危機に瀕していないので、タライを発動させるのは不可能だ。
うーん、どうしたものか。
『無理やり発動させればいいんじゃないですか?』
『どうやって?』
『突っ込むんですよ。敵の真正面に』
『どこが真正面なんだよ』
『なるほど。あんなに動きが早いとわかりませんね』
『そうだ! ベルディー、そっちから忍者野郎の位置をピンポイントできるか?』
『一時一時の居場所なら見つけられますが常に動いているので、浮雲さんに現在の居場所を伝えるのは難しいですね……あ! ですが動きにパターンがあるっぽいです。どこへ向かうかの予測位置を教えてあげましょうか?』
『頼んだ』
『では、武器を構えてください』
腰にまとっている剣を抜く。
うん十話の時を超え、ようやくババアにもらった剣を使う時がきたみたいだ。
そんなに軽いわけではないのだが、ついさっきまで持っていたことすら忘れていた。
『いいですか? わたしが今と言ったら、前へ一直線ですよ? 今から約――』
「うぉー!」
『あ、間違えました……』
――ぐさっ!
手ごたえありだ!
「うげぇー!」
俺の剣を横腹に食らった針忍者は、悪党っぽい悲鳴をあげると煙になってぱっと消えた。
相変わらず不自然なグロ規制だ。
おかげで緊張感がまるで湧かない。
まあ、 俺のメンタルの弱さ的に、死体を目の前で見たらおそらく気絶してしまうので、それよりはマシか。
俺は血痕がまったくついていない剣を鞘に戻した。
見た目だけかもしれないが、洗う手間が省けてよろしい。
さてと邪魔者はいなくなったことだし、急いで先へ進もう。
貯蔵箱の中は時間の流れがかなり遅くなっているとはいえ、止まっているわけではないしな。
***
「これ以上進むことは許さん!」
次のフロアにたどり着くと、早速新手の邪魔者が俺の前に立ちはだかった。
今度は毎度おなじみの魔法無効化おっさんだ。
しかもこれまでとは違って、大勢の兵隊たちと一緒にいる。
冴えないおっさんだなあと内心思っていたのだが、中心っぽい立ち位置やまとっているリッチなアーマーから察するに、どうやら大将か何かだったらしい。
「全隊、前へ進め! 奴をひっ捕らえろ!」
「「「うぉー!!!」」」
威勢良く大声をあげながら前進を始める兵士たち。
まだ朝早いというのに、近所迷惑な奴らだ。
さてと、今度はどうするべきか。
こちらも突進してやつらを正々堂々と迎えうつ。
そんな、これまで通りのやり方で大丈夫なのだろうか。
多分、それで大丈夫なんだろうが……あれだけの大群に突っ込む勇気は流石に持ち合わせていないな。
『頼んだわよ、フーン』
頭の中でソファイリの言葉が思い浮かんだ 。
そうだ。
今の俺は俺だけのために行動しているのではない。
俺は人の命を背負って行動しているのだ。
自分のために行動するのは、いくらでも後回しにしてもいい。
俺しか被害者はいないからな。
だが、誰かのために行動することをなおざりにするのは、いくらなんでも無責任だ。
となると答えは一つ。
俺は剣を抜き、一歩前へ――
――ズガッシャーン!
「ふぁっ!?」
あのー、えっと……ありのまま今起こったことを話すぜ!
敵兵のど真ん中に大穴が開いて、おっさんと二、三人の兵を残して全員落ちちまったぜ!
そういえば前にもこんなことがあったような気がする。
相変わらず雑な展開だ。
向こう岸のおっさんは口をあんぐりと開けて、呆然と立ち尽くしている。
慣れてしまった俺は、まあ、大して驚いてはいないが、ギャグ漫画みたいなできごとに初めて遭遇したおっさんにはちょっと刺激が強すぎるか。
かわいそうに。
「とう、俺っち参上!」
お、来たな。
さすがに理由もなく地面を崩壊させるほど、この世界は理不尽ではないみたいだ。
「フーン殿。助けにきたぞ」
地面にぽっかりと開いたクレーターからひょいと飛び出てきたのは、アムル、ゴーサル、セタニア、そしてカーンだった。
「いったい、どうやってここまで来たんだ?」
「いや、それがだな。俺っちの超優れた作戦が大成功したおかげで、簡単に忍び込めたんだぜ!」
相変わらずうざいテンションでアムルが自慢話っぽく説明する。
「ふーん。それはよかったな。で、どうやってカーンと一緒になったんだ、ゴーサル?」
アムルが語るとうざそうなので、代わりにゴーサルに話題を振る。
「私たちはトリン殿を探している最中に、敵を相手に苦戦しているカーン殿とタイミングよく出会ったのだ」
なるほど。
そういうことだったのか。
さしあたり、協力して針忍者を倒すことに成功したのだろう。
「で、この大穴は?」
最後の疑問をセタニアに投げかける。
「カーンがトリンのばしょをしっていたヨ。まっすぐそこへむかってるんだヨ」
なるほど、なるほど。
確かにこれは最短距離だな。
真面目に城の階段を上っていた俺がバカみたいだ。
まあ、それはともかく……
「これだけの戦力があればあのおっさんを倒せるはずだ。俺たちとトリンの間に立っているのはあいつが最後。カーン、アムル、ゴーサル、セタニア、(そして、ミン)、もちろん協力してくれるよな?」
「おう、もちろんだぜ!」
「無論!」
「たたかうヨ!」
彼らの戦意が勢いよく滾っている 。
これは間違いなく勝てそうだ。
アニメだったら、勝ち確BGMが鳴り出すようなシーンだろう。
「だが、ちょっと待ってくれ」
「どうかしたのか、アムル? ……って、おい!」
アムルはひょいと俺を持ち上げ、颯爽と大穴の上を飛び越えて最終階層へと向かう階段の前に着地した。
そして彼に続いてセタニア、ゴーサル、カーンまでもがその超人めいた飛びをこなし、俺とアムルの横に着地した。
「お前はカーンと先に行っててくれ。ここは俺っちと糞猿とセタニアに任せろ」
「えっ……でも――」
「急いでるんだろ? 理由はわからねーが、俺っちの勘がそう囁いてる。なら、さっさとトリンを助けてここから脱出しよーぜ?」
「あ、アムル……」
あれ?
こいつってこんなに良い奴だったっけ?
アムルの言葉にホロリと涙して感動しかけるなんて……屈辱。
「フーン様、急ぎましょう」
「ああ、そうだな」
俺は階段へ向かっていくカーンを追いながら、くるりと振り向いた。
「お前ら、絶対に負けるなよ!」
「あったりめーだろ! 俺っちは最強なんだぞ?」
「心配はご無用だ、フーン殿」
「はやくたたかおーヨ!」
頼んだぞ、お前ら!




