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65 リフォニア城 その2

「あそこの部屋に入りましょう。中に明かりを灯せる魔法道具があるはずです」


 未知の敵から走って逃げていると、カーンが前方にある扉を指差した。


「わかったわ」


 扉を開き、俺たちは一斉に部屋の中へなだれ込んだ。


 ――バタン!


「私が扉を押さえておきます。みなさんは敵が再びやってくるまえに、戦う体制を整えてください」


 俺とソファイリは慌ただしく駆けまわりながら部屋の中を探しはじめた。

 タンスの引き出しを片っ端から開け、クローゼットをおっ開いて中の物をそこら中に投げ出し、ベッドの上に寝ている邪魔なおっさんを床に蹴り落とした。

 むむむ、どこにもないぞ……いや、ちょっと待った。

 

 俺、何探してるんだっけ?


「なあ、ソファイリ。俺たち何を探してるんだ?」


「火を灯せるマジックアイテムよ」


「それはわかるんだけど、それってどんなアイテムなんだ?」


「基本的にはろうそくみたいな形をしたものが多いわね。たまには松明みたいなものもあるけど」


 ふむふむ。なるほど。

 つまり魔法燃料か何かを含んだろうそくみたいなものか。


「でもさ、ソファイリの火魔法を使えば必要なくないかそれ」


「戦いながらあかりを灯していたらこっちが不利でしょ。向こうは暗闇でも問題なくこちらが見えているみたいだし。それにしても、なかなか見つからないわね。普段は見つけやすい場所に置いてあるはずなのに……あー、これも違うじゃない! ちょっとこれ邪魔だから持ってて」


 痛てっ!


 ソファイリが投げた何らかの物体が俺の頭に直撃した。

 敵意がない攻撃はやはり躱せないみたいだ。


「気をつけろよ!」


 怒りに身を任せて反射的にその物体を投げ返したが、俺のエイム力の低さが災いして完全に明後日の方向へ飛んでいってしまった。


 ――ボコ!


 おっ、結構いい音。

 

「んんぐっ……痛てて。な、なんだなんだ。頭に何かがぶつかったぞ。寝ている間にベッドから落ちたのか?」 


 床に転がって完全に置物と化していた、おっさんがお目覚めのようだ。


「……って、おい、貴様ら! 私の部屋で何をしている!!!」


 ちょうどいいタイミングだ。


「おっさん、手伝ってくれる? 明かりを灯すマジックアイテムを探してるんだ」


「ままままま、マジックアイテムだと!? そんな汚らわしいものは私の部屋にはない!!!」


 何をそんなにご立腹しているのかはわからんが、とりあえずこのおっさんが役にたたなさそうだということはわかった。

 というわけで、俺はソファイリに合図を送る。

 すると彼女はすぐさま小さな声で呪文を唱え、強力な雷撃を邪魔なおっさんに向かってぶっ放した……のだが――


「さっさとこの王城から出て行け、コソ泥ども! さもなくば、ここで私が貴様らを成敗してやるぞ!」


 ……効いていないのか?


 ソファイリの話によると、像ですら軽く気絶させることができるはずの電撃らしいのだが、なぜかおっさんは彼女の攻撃に一切の反応を示していない。

 蚊に刺されたほどにも感じていないご様子だ。


「ソファイリ様、フーン様、急いでください! 扉をこじ開けられてしまいそうです! 私の力では抑え切れません!」


 ああ、ややこしいことになってきた。

 おっさんはしつこく怒鳴り続けているし、敵がそろそろ入ってくるし、明かりを灯すマジックアイテムは見つからないし。


「ええい、もうどうでもよい! 全員まとめてここでぶった切ってやる!」


 おっと、おっさんがとうとう本気モードに入ってしまったみたいだ。

 床に落ちていた剣を拾い上げた彼は、憤怒の形相で俺とソファイリを睨みつけた。


「フーン、あいつは頼んだわよ。どうやら、あたしの魔法じゃ倒せないみたい」


「いやいやいやいや! 俺がそんな強キャラを相手に勝てるわけないだろ!」


 チート級の魔力を持ったソファイリですら敵わないやつだぞ!

 俺が勝てる可能性なんて万に一つもないじゃないか。

 俺のラックはあくまでも確率操作ができるだけであって、不可能を可能にするものじゃないんだよ。


「喰らえ!」


 おっと、危ない。

 俺は絶妙なタイミングで飛び退いて、紙一重でおっさんの剣を交わした。

 絶妙なタイミングというと、俺が敵の攻撃を優れた洞察力を使って躱したように聞こえるが、もちろん適当に飛んだ結果そうなっただけである。


『おい、ベルディー! どうにかしてくれ!』


『かなり長い間わたしを放置しておいて、いきなりそれですか? レディーの扱いがなってないですね。これだから浮雲さんはモテないんですよ』


『はいはい、わかったからわかったから。なんとかしてくれよ、ベルえもん! タイミングよく出てくる新しいスキルはないのか?』


 凄まじい勢いで俺のすぐ横に残像を残していくおっさんの剣。

 マジで心臓に悪い。


『えーっと……ないですね』


『じゃあ、タライはどうなんだよ! 俺は今、危機に瀕しているはずだ!』


『それがですね。どうやらさっきから何度も発動しているみたいなんですよ』


 え?


『あのおっさんはタライも無効化しているのか?』


『はい、そうです。浮雲さんのタライは防御貫通ダメージなので、それはありえないはずなんですけどね』


『おかしいだろ! もしかしてバグじゃないのか? ソファイリの魔法もあっさりと耐えてたし』


『その可能性はありますね。ちょっとあのおっさんのステータスを確認してみま……あっ』


 ん?

 ベルディーが急に黙り込んでしまった。


『ベルディー? ベルディー! 応答せよ、ベルえもん!』


『……あの、えっと……そうですね』


 ベルディーがもごもごと口ごもっている。

 このパターンは前にも一度あった気がするぞ。

 確かあの時は――


『こいつもお前の設定ミスか?』


『いやあ、さすが浮雲さん! よく気づきましたね!』


『俺を褒めたら許されるとでも思ってるのかよ!』


『ごごご、ごめんなさい!』


 モニターを前に土下座しているベルディーの姿がありありと想像できる。

 ダメ人間首席の俺が言うのも難だが、本当にどうしようもないやつだ。


『で、おっさんのパラメーターはどうなってるんだ?』


『マジックが0になっています。おかげでこのおっさんは魔法を使用することができませんが、その代わりに魔法の影響を一切受けることはありません』


 なるほど、そういうことか。


『その他のパラメーターはどうなっている?』


『総じて高めですが、特に目立ったことはありません。スキルも肉体強化系ばかりです』


 つまり、そこそこ強い普通のおっさんか。

 勝てるかもしれない。

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