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64 リフォニア城 その1

「暗くて見えづらいとはいえ、あそこから入るのは無理っぽくないか?」


 手に松明を持っている兵隊たちが十数人、門の前をうろちょろと歩き回っている。

 門自体は結構狭いので、あれではネズミ一匹すらすり抜けるのは困難だろう。


「大丈夫ですよ。私たちが通るのは正門ではなく、裏口ですからね」


 とカーンが告げると、


「やっぱり、異様に詳しいのね。王族と親しかったの?」


 と言いながらソファイリは訝しげな視線で彼を睨んだ。


「接点は多くありましたが……。親しかったかといえば、怪しいところですね」


 カーンは思わせぶりな言葉をつぶやき、正門とは別の方向へ、城の横にそびえる林の中へと進んでいった。

 俺とソファイリは顔を見合わせてから無言のまま頷き、カーンのあとに続いた。

 そして俺たちは、しばらく城の壁にそって林の奥の方まで歩いた。


「ありました。ここを使うのは久々なので、見つけるのに少々手間がかかってしまいましたよ」


 そう感慨深そうに言いながら、カーンは城の壁に右手をかぶせた。

 大量の蔦に覆われていて、どこにも扉のようなものは見当たらないが、どうやらここには何かがあるみたいだ。

 

「確かここを押せば……」


 カーンが壁を押すと、ギギッと蔦に隠れていた錆びれた扉が開いた。


「驚いた。こんな所にある隠し通路を知っていたのね」


 やたら小さな扉だ。高さは一メートルほど。大の大人なら屈まなければ通れない。


「子供が遊びで作った扉ですからね。では、先へ進みますよ。中に入ったら 見つかってしまわないために、極力音を立てないよう注意してくださいね」


「わかったわ。ちなみに、 どこを探せばいいかの目処はついてるの? あてもなく広いお城の中を彷徨っていたら、すぐに誰かに見つかるわ」


「もちろんですよ。その点に関しては、抜かりありません」


 カーンは自信満々に答えた。

 別にあてがなくても、俺について歩けばすぐに見つかると思うけどね。


 扉をくぐった先には小さな庭があった。

 小鳥の石像のくちばしから水が湧き出ている噴水。

 チューリップのような見た目をした花がたくさん生えている花壇。

 そして不思議なことに、ここも外なのに壁の向こう側より極端に気温が高かった。

 夏場の暑さとまではいかないが、半袖でも余裕なレベルの暖かさだ。


「……」


 ソファイリは興味深そうに花壇を眺めている。

 そして土の中に指をぶすっと突き刺した。


「火魔法と土魔法を絡めた応用技術ね。熱エネルギーを土の中に閉じ込めて、周囲の気温を人工的に上げているわ」


「はい、その通りです。よく気づきましたね」


「面白いわね。これを使って気温管理をすれば、あたしのガーデンにもっとたくさんの種類の植物を育てられるかも。どんな風に魔法を絡めたのか、ちょっと調べてみてもいい?」


 早くもここにきた目的を忘れている人が約一名。

 さっさとトリンを探しに行かないとまずいだろ。

 庭の土を研究している場合ではない。


「いつでも教えてあげますよ。私が作った術式ですからね」


「カーンって、もしかしてここの庭師だったのか?」


「いえいえ。もっとつまらないものですよ」


 俺がそう訊くと、カーンは苦笑を浮かべた。


 庭を抜けた俺たちは、室内へ通じる扉を使って堂々と城内へ忍び込んだ。

 夜遅いからなのか、廊下に人影はまったく見当たらない。

 好都合だ。

 このまま楽にトリンを救い出せるかもしれない。


「ここをまっすぐ進み、奥の階段を使って三階まで上がります。トリン様はおそらくそこにいるはずです」


「そこに捕らえられているのか?」


「え……まあ、多分そうですね」


 カーンは口元を歪めながらそう答えた。

 どうも確信しているわけではないらしい。

 まあ、エスパーじゃあるまいし、推測で居場所を突き止めているのだろうから当然か。


「……っ! みんな、ちょっと待って」


 階段まであと少しといったところまでたどり着くと、ソファイリが急に深刻な顔を浮かべて警告を言い放った。


「どうかしたのか?」


「誰かに見られているわ。気配を感じるの」


 俺はとっさに周囲を見回してみたが、特に怪しいものは窺えなかった。

 あっ……もしかして、ミンのことを言っているのか?

 危機感溢れる現状のおかげで、彼女の空気より薄い気配を察知できたのかもしれない。


「それなら、大丈夫だ。襲われたりは――」


「そこね!」


「おい、ちょっと待てよ!」


 だが、もう手遅れ。

 バスケットボールほどの大きさのファイアーボールがソファイリの手から放たれ、廊下の壁に着弾して大胆に燃え広がった。


「ソファイリ様、落ち着いてください! 城を燃やし尽くす気ですか!」


 青ざめた顔を浮かべながら、カーンは慌てて水魔法を使って炎を消し始めた。

 しかしソファイリはそんな彼を気にもとめず、手のひらの上に新たなファイアーボールを生成しはじめた。


「絶対に誰かがいるわ。さっき、炎をぶつけた場所から何人かの影が飛び出ていくのを見たもの」


 何人か……だと?

 敵は複数いるらしい。

 となると、どうやらミンのことではないみたいだ。

 それにこそこそと俺たちのことをつけているので、リフォニアの兵とも関係なさそうだ。

 いったい誰が――


 ――シュタ。


 ん?


 風を切る音が耳のすぐ横を通り過ぎる。

 何事かと後ろを向いてみると、壁に一本の細い棒みたいなものが突き刺さっていた。

 て、敵からの攻撃か?

 どんなものなのかを確認するために、俺はそれに向かって手を伸ばした。


「触っちゃダメ! その針には呪いの術式が組み込まれているわ。体に刺さったら、ほぼ即死よ」


「うおっ!」


 俺は思わずその場から飛びのいた。

 あとちょっとで触れるところだったよ……。


「カーン、フーン、とりあえず逃げるわよ。ここだと暗くて敵がよく見えないから、不利すぎるわ」


「私も同感です」


 ソファイリは二つ目のファイアーボールを地面に叩きつけ、俺たちと敵の間に大きな火柱を上げた。


「今よ!」


 俺たちは全速力で見えない敵から逃げ始めた。


 ――ヒュン!


 何本かの針が俺のすぐ傍をすり抜けていく。

 ラックのおかげで当たらないのには感謝しているが、もう少し心臓に優しい外れ方をしてもらいたいものだ。

 こんなにすれすれだとまったく生きた心地がしない。

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