60 フーンの推察
おかしい。
俺がこんなにも熱心に探したのに、トリンを誘拐した人物についての情報が一つも手に入らない。
普通なら少し見回しただけで、犯人の足跡や落し物を見つけられるはずなのだが、どれだけ探しても全くもって何も見つからないのだ。
『事務所の中を一回ぐるりと巡っただけで、熱心に探したと言えるんですか? 今もベッドの上でゴロゴロしているだけですし』
うるさいなぁ。
いちいち、ケチをつけなくてもいいのに。
『そういえば、ベルディー。お前はトリンがどこへ行ったか調べられないのか?』
『そうですね。ちょっと頑張れば調べられなくもないですが、めんどいので調べません』
『もう少し熱心になるべきなのは、お前の方じゃないのか?』
『わたしは十分熱心ですよ。さっきジムに行ってきたばかりで、クタクタなんです。しばらく休ませてください』
天界にもジムがあるのか。
……ムキムキになったベルディーを想像してちょっと笑ってしまった。
「フーン、こっちへ来て! カーンが情報を持って戻ってきたわよ」
ロビーの方からソファイリの声が響いてくる。
俺にすら見つけることができなかった情報を、カーンが持ってきたとはとても思えないなあ。
でも、まあ呼ばれたのでとりあえず「はいはい」と返事をして、俺は彼女のもとへ向かった。
ロビーにたどり着くと、そこでは既に俺とトリン以外の八勇士達が全員集合していた。
「トリン様の居場所がわかりました」
俺が椅子に座り込むと、カーンが話を始めた。
「彼女はリフォニア軍に攫われ、王都モルガンブルクへと連れて行かれたのです」
「ほ、本当なのか?」
ゴーサルは目を大きく開いて、驚いた表情を見せる。
「はい、間違いありません。信用できる人物から確定的な目撃情報を入手しました」
「なら早速、出発だ! 一気に突っ込んで敵の本拠地を壊滅させてやろうぜ!」
「落ち着け、アムル。私たちの目的はリフォニアの壊滅ではない。あくまでも、トリンを救いだすだけだ」
「どっちも似た様なもんだろ」
いや、似てないから。
悪の侵略者と正義の味方並みに似てない。
「そういえば、マチルダ姫もリフォニアに攫われてるんだろ? あいつもモルガンブルクにいるんじゃないのか?」
「その可能性は高いですね。もし、機会があれば彼女も救い出せるはずです」
ああ、そういえば、この遠征の目的ってアーマインが攫われたマチルダ姫とやらを助けるために起こす戦争を、手助けすることだったっけ。
すかっり忘れてたや。
「俺っちが今から向こうへ送ってくれる馬車を手配してくるよ」
「ちょっと待って、アムル。今日はもう遅いから、出発は明日にしましょう。モルガンブルクまでたどり着くには半日かかるし、敵の本拠地に攻め込むのだから、存分に準備を整えてからの方がいいわ」
「……まあ、それもそうかもな」
というわけで、今夜は各自の寝室に戻って、出発の準備を整えることになった。
ベッドの上で寝るのが楽しみだ!




