X7 カーンの推察
今回の件で、姫様の消失と怪しい集団には関係性がないと判明しました。
となると、必然的に残される可能性は二つです。
姫様は他の誰かによって誘拐された、もしくは自分の意思でこの場から去った。
しかし、あの怪しい集団以外に事務所から姫様を連れ出した疑いをかけられる人物は一人も思い当たりません。
商人が何人か出入りしましたが、最後に訪れた麦を求めていた男性が去った時には彼女はまだ事務所の中にいました。
それに私には姫様が誘拐される理由が思い当たりません。
第一に、彼女は異国の姫ではありますが、リフォニアとアーマインの関係は悪くなく、お互いとの関係が薄いので、アーマインに妬みや恨みを持ったリフォニアの市民は数少ないはずです。
最近は八勇士の行動によって多少の被害を受けていますが、リフォニアの人たちはこれらがアーマインの差し金によって行われていることを知りません。
第二に、姫様は顔を常に隠していました。
姿や声でばれてしまう可能性はありますが、先ほど言ったようにアーマインとリフォニアは関係が薄いので、こちらの人々はそもそも姫様のことをよく知らないはずです。
仮に正体が割れてしまったとしても、大半の悪党にとっては彼女を誘拐するメリットがリスクと釣り合いません。
そう考えると犯人はおそらく姫様を一般女性だと思って誘拐した可能性が考えられます。
確かに身代金を目当てに一般女性を誘拐しようと企む輩はどこにでも存在するかもしれませんが、その程度の小悪党が証拠を全く残さずに彼女を誘拐できたとは考えにくい。
そして、私には彼女が自発的にここから出て行こうとする動機に、心当たりがあります。
マイル王子についてたずねてきた姫様。
セタニア様に襲われたフーン様。
気を失っていたアムル様とゴーサル様。
これらの事象を組み合わせれば、完成に近づいたパズルのように事件の全貌が見えてきます。
あとは現場で証拠を発見できれば私の予感は確信に変わるはずです。
***
次に探すべき場所についての目処がまだ立っていないので、何か手がかりになるものを見落としていないかどうかを確認するために、私たちはエデイン商会の事務所まで戻ってきました。
「さて、どこから探そうかしら……。じゃあ、あたしは倉庫の方で何か怪しい人物が出入りした痕跡がないかどうか、調べてみるわ。フーンたちも適当にそこらへんを探して」
「おっけー、わかったよ。俺は寝室を調べる」
気怠そうに返事を返すフーン様。
「早速、昼寝でもしてサボるつもりね」
「なんでわかるんだよ。エスパーかよ」
「私は玄関に何か怪しいものがないか探してきます」
「わかったわ。頼んだわよ、カーン」
私は探すべき場所を既に決めていたので、急いでそこへと向かいます。
玄関。
アムル様とゴーサル様が倒れていた現場。
もし私の仮説が正しければここにはあれが残っているはずです。
「クロノ・スキャン」
私が呪文を唱えると、脳内に様々な文字が浮かび上がってきます。
『43801-22-13 19:13:59 神の御加護』
『43801-22-13 19:12:18 ブラッド・ボイル』
『43801-22-13 19:01:20 色魔の囁き』
この場所で最近使用された魔法です。
隣に書かれた数字の意味はわかりませんが、数値が類似しているものほど近い時間帯に使用されていた可能性が高いらしいと、魔法学者の間では言われています。
神の御加護、ブラッド・ボイル、色魔の囁き。
いずれもが姫様が習得している魔法。
ブラッド・ボイルは対象の人物の怒りを高める魔法。
アムル様とゴーサル様が大掛かりな喧嘩をしたことに説明がつきます。
色魔の囁きは対象の人物を、目の前の人物に一時的に欲情させる魔法。
セタニア様がフーン様に襲い掛かったことに説明がつきます。
これで残り一つの証拠を見つけられれば私の仮説は確定的です。
長らくお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。年末はゆっくり休むつもりだったのですが、予想外に忙しくて更新頻度が死んでしまった……。ツイッターでも告知してありますが、お詫びに二章が完結するまでは毎日更新します! もし未来の私が約束を守らずに更新をサボっていたら、DMでも送って叱責してくれると助かります(笑)




