59 荒くれ者たちのアジト
「普通の木の枝!」
と某猫型ロボット風に言いながら、拾い上げた木の枝を掲げてみる。
周りのみんなは「何こいつ、バカなの?」とでも言いたげに、ひきつった目で俺のことを睨んでいるが、気にしない気にしない。
ゴーサルだけはうむうむと頷きながら、俺のことを期待に満ちた視線で見てくれている。
商会を探した時もこの手段を使ったので、ゴーサルだけは俺がこれから何をしようとしているのかを知っているのだ。
「えーっと、この木の枝。タネも仕掛けもない普通の木の枝。だがしかーし、俺がちょちょちょいのチンカラホイと魔法をかけると……」
俺は木の枝の近くで指をくねくねと触手のように動かして、それっぽい演出をする。
「はい、完成。正しい方角を示してくれる、道案内ステッキに早変わり!」
「……」
場は気まずい沈黙に制された。
おそらく、それは俺の言葉に対する疑心とかによって生まれたものではなく、「こいつの頭、大丈夫なの?」という心配から来たものなのだろう。
手を額にやりながら呆れ果てた表情をしているソファイリが特にそうっぽい。
今に見てろよ。一発で奴らのアジトを当ててやるからな。
俺はトンと木の枝で地面を突くと、ぱっと手を離して重力に全てを任せた。
かたんとすぐに倒れた木の枝が指し示した方角は……あっちか。
あっちに何があるのかは全くもってさっぱりわからんが、多分あっちで正しい……いや、百パーセントあっちで正しいのだろう。
「よし、俺についてきてくれ」
「フーン様、冗談を言っている場合ではないと思うのですが……」
これだから理性的な人間は困る。
少しトンチンカンなことを言っただけで、嘘だと思ってしまう。
もう少し寛容になりたまえ。
「大丈夫だよ、カーン。俺を信じろ」
「は、はぁ……」
「もし、これから行く場所にあの怪しい連中がいなかったら、その時は俺が全責任を取るよ。だから、信じてくれ」
「で、ですが……フーン様のマジックのステータスでは、そのような複雑な魔術は使えないはずです」
そういえば、カーンは鑑定能力を使えたんだっけ。
つまり俺の魔力が1だということを知っているのか。
これまでは大して気にしてなかったけど、鑑定を使える人間には俺の貧弱なステータスが丸見えってのはかなり恥ずかしいな……。
うーむ、どうすれば納得してもらえるのだろうか。
そういえば、高品質な鑑定石じゃないとラックとかのステータスは見えないって、結構前にベルディーが言ってたよな。
もしかして鑑定能力にも同じような制限があるのかもしれない。
『ベルディー、カーンの鑑定って俺のどこまでが見えるんだ?』
『そうですね。最高レベルまで磨かれた鑑定ですと、スキルも隠しステータスも全部筒抜けになるんですが、カーンさんのは……データベースによるとレベル3ですね。基礎ステータスや名前などの情報しか見えないはずです』
これは使えるかもしれない。
「問題ないよ、カーン。これは魔術じゃなくてスキルなんだ。だから、俺の魔力とかは関係ないの」
「ああ、そうでしたか。承知しました」
理屈さえ通ってればあっさり信じてくれるのかよ……。
いい人すぎる。
***
「ここで間違いないのか、フーン?」
街外れにぽつんと佇む古い二階建ての屋敷。
蜘蛛の巣や蔓に覆われていて、ほとんどの窓が割れている、見られても無人だと思われそうな場所。
つまり、隠れ家にはもってこいだ。
「ああ、おそらくそうだよ、アムル」
「なら、話は早いな。俺っちが突っ込んで、全員ぶっ飛ばしてきてやるよ! 前に戦った時は不意打ちに合って少し手こずったが、大して強くない連中だったからな」
少し手こずった?
俺の記憶が正しければ、確かズタボロにやられてたよね?
まあ、わざわざ指摘しないけど。
「ウォッラアアアァーーー!!!」
毎度のごとく、清々しいほどの全力突進。
アムルは腐りかけている木の壁をぶち破って屋敷の中へ突入した。
「な、なんだなんだ!」
「死ねー!!!」
動揺している荒くれ者のおっさんを問答無用でぶっさすアムル。
あっという間に一人目がダウンだ。
「ひーっ、助けてくれ!」
「おらおらおらぁ!」
二人目のおっさんがダウン。
家の壁をぶち破っていきなり強襲をするとか、事情を知らない第三者から見れば、どう考えても俺たちの方が悪者だよな、これ。
まあ、雑魚敵の宿命というやつか。
かわいそうに。
「か、神様、お、お助け……」
「俺っちに喧嘩を売って……俺っちの仲間達に喧嘩を売って、生きて帰れるとでも思ったのかよ!」
言い直すなよ、おい。
「かあちゃーん!!!」
赤子のように泣き叫ぶ三十代半ばのおっさん。
しかし、慈悲はない。
アムルは腕を前方へと勢いよく差し出し、海王の槍をおっさんの心臓へ向けて――
「ちょっと待ってください!」
槍はおっさんの肌にちくっと刺さる直前に止まった。
「どうかしたのか、カーン?」
「まずは、トリン様の居場所を聞き出さなければいけません。既にどこかへ連れて行かれている可能性も考えられます」
あっ、そういえばそうだな。
危ない危ない、無意味な殺戮を犯しただけで終わるところだった。
だが、カーンのおかげで命拾いしたおっさんは泡を吹いて気絶しているので、ちょっと聞き出せそうにない。
困ったな。
「とりあえず、屋敷の中を探しましょ。何かが見つかるかもしれないわ」
というわけで、俺たちはソファイリの提案に従って屋敷内の隅々を探索した。
だが、ゴキブリを見つけたソファイリが炎魔法をぶっ放したこと以外、特に何も起こらなかった。
どうやら、トリンはここにはいないみたいだ。
***
「う……うーん」
「目が覚めたみたいよ」
縄で縛られている荒くれ者のおっさんは、ふあーっと呑気にあくびをした。
「あー、ひでぇ夢だったぜ。いきない現れた意味わかんねー野郎に、兄貴たちがぶっ殺されちまうんだからな……」
「夢じゃねーよ」
アムルが荒くれ者のおっさんの頭を海王の槍の尻でトンと叩いた。
「ギャー!!!」
おっさんらしからぬ悲鳴をあげて、ぶるぶると震えながら恐怖に満ちた顔を浮かべている。
「ちょっとあんた、バカなの? また気絶したらどうするのよ!」
「悪い悪い。まさか、あれほど驚くとは思ってなかったんだよ」
このおっさん、荒くれてるのは見た目だけっぽい。
メンタルの弱さが俺並みだ。
「あなたたちはトリン様をどこへ連れ去ったのですか?」
「と、トリン様?」
「私と同程度の背丈の女性です。顔を覆う布切れをかぶっていて、上品な姿の」
「し、知らねーよそんなの……」
おろおろと言い淀むおっさん。
少し怪しいが、あれほど動揺しているのだからはっきりと話すのは難しいか。
「しらばっくれんじゃねーよ!」
「ひぃっ!!!」
アムルは槍の先っぽをおっさんの首の近くまで運んだ。
「さっさと白状しねーとお前の首が飛ぶぞ」
「だ、だから知らねーんだよ! 信じてくれ!」
「うるせー! さっさと言え!」
「な、何かの間違いだ! 俺は何も知らねーよ!」
ん? 何か様子がおかしい。
大したことがない弱っちい悪役なら、この程度の恫喝であっさり全部漏らすはずだ。
少し俺が質問してみるか。
「エデイン商会を襲ったのはお前だよな?」
「そ、それは確かに俺たちだ。で、でもな、俺たちは商人に雇われてやったんだ。悪いのは俺たちじゃねーよ!」
「やっぱ、お前らじゃねーか。トリンはどこにいるんだよ!」
ちくっとアムルの槍の先がおっさんの首に刺さり、赤い血が一滴流れ出た。
「ひ、人さらいなんか知らねーよ! お、俺たちはあの商人が欲しがっていた麦を盗み出してやっただけだ!」
む、麦?
なんで麦なんかを盗みにきたんだ?
「ど、どうやら何かの間違いだったみたいね。もうここに用はないし、さっさと別の場所を探しに行きましょ」
「そ、そうですね」
今度はソファイリとカーンがキョドっている。
何か思うところがあるのだろうか。
「なんだよ、ただのコソ泥かよ。つまんねーの」
アムルはそう言うと、ぐさっとおっさんを縛り上げているロープに槍を突き刺し、器用にそれを切り裂いた。
「さっさと逃げろよ。お前ごときに構っていられるほど、俺っちは暇じゃねーんだよ」
「お、俺のねぐらは――」
「あ、ごめんね。ついさっき、うっかり燃やしちゃったの。そこにある灰の山がそれよ」
俺たちはぽかーんと口を開いたまま佇む、荒くれ者のおっさんを放置して、その場を去った。




