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58 荒くれ者、現る

 つまらん。

 負けず嫌いで、ずる賢いエデイン商会の会長を賭けで倒して、全財産を頂いたところまでは面白かったのだが、急な視点変更の弊害で、俺の大活躍が現在進行形でダイジェスト化してしまっているのが非常に気に食わない。

 というか、ぽっと出の地味メガネのくせになんで第二の主人公ヅラしてんの?

 俺の出番奪ってまであいつの話する意味あるの?


 とまあ、そういった俺の本音はさておき、カーンとソファイリが物品の流通を妨げるための作業を全部引き受けてしまったので、俺には何一つやることがない。

 俺は商人の世界というものについて何も知らないので、仕方がないことではあるのだが。


「なんにも起きねーな」


 俺の隣にも暇そうな奴が一人。


「モーラノイ、おなかすいたヨ」


「ふぁーあ」


 訂正。三人だな。

 どこかに隠れているであろう、ミンも含めれば四人だ。


 入り口の前で見張りをしていろとソファイリに言われたので、俺たちはここでずーっと棒立ちしているのである。

 おそらく、邪魔になるから外で待っていろと言いたかったのだろうが、無駄に気を遣って、見張りという名目を一応作ってくれたのだろう。


「敵なんか、いつまで待っても来ねーな。つまんねーの。さっさと強い奴らと戦いたいぜ」


「そのうち訪れるはずだ。私達はリフォニア内の商人の大部分を敵に回したのだからな」


 俺もゴーサルの言う通りだと思うのだが……相手は商人だろ?

 商人といえば、どんなRPGにおいても(まあ、例外はあるだろうけど)戦闘能力はほとんど皆無なジョブだ。

 どう考えても俺たちが苦戦する未来が見えないし、戦いはあっけなくほんの数秒で終わるだろう。

 強い敵なんてものは多分来ないんじゃないかな。

 戦いたいとは微塵にも思わないので、俺は別にそれで構わないけど。


「おいおい、てめぇーら! ちょっとツラ貸せや!」


 噂をすればなんとやら、早速敵が現れた。

 やけに人相が悪い商人だなぁ。

 首から踵まで刺青まみれだし、思いっきりさらけ出されている胸部にはバツ印の傷痕が広がっている。

 

『商人に雇われた、そこらへんの荒くれ者じゃないですか?』


 ベルディーの冷静な分析通り、まあ、多分そうだよな。

 あんなのとまともな取引ができるとは到底思えない。


「よっしゃ、俺っちが片付けてやるぜ」


 そう言ってアムルは自信満々に突っ込んで行き――


「ギョエーーーッ!」


 ――見事に返り討ちにあった。

 

 どうやら木陰に大勢の魔道士の伏兵が潜んでいたみたいだ。

 遠くから放たれた数々の電撃魔法を食らって、アムルはあっけなくダウンしてしまった。


「仕方がないな……」


 のっそりと重い腰を上げ、ゴーサルは荒くれ者をしっかりと見据える。

 心なしか荒くれ者が少し身震いしたように見えた。


「ゴーサル、大丈夫なのか? 相手は魔法攻撃を使ってくるみたいだぞ」


「問題ない。不意を突かれたら苦戦するだろうが、来ることがわかっている攻撃ならどうとでも対処できるからな」


「へっ、強がりやがって! 素手の奴が俺様の大剣相手に何ができるってんだ! そこの槍男と同じように、ぶった切ってやるぜ!」


 お前の大剣、今の所なんもしてないぞ。

 威張るのなら、せめてさっき大活躍した後ろに潜んでる魔道士のことを自慢しろよ……。


「ふっ、愚か者が」


「愚か者がどっちかは今にわかるぜ! いけ、お前ら!」


 やっぱ他力本願か。

 荒くれ者は自らは一歩も動かずに右腕を空に掲げ、潜んでいる魔道士たちに合図を送った。

 すると、さっきと同じように複数の電撃魔法が飛んできて――


「甘いな……龍牙返し(りゅうががえし)!」


 ――ゴーサルの平手に吸い込まれるように集まり、そこで反射されて各々がまるでブーメランのように元の場所へと帰っていく。

 戻っていった魔法攻撃が着弾するとギョエーっと悲鳴が四つあがり、黒い煙が木々の後ろからもくもくと舞い上がった。

 

「ま、まじかよ……」


 荒くれ者は俄然怯え始め、一歩一歩後ずさる。

 自慢の大剣とやらはいつ振るわれるのだろうか。


「けっ、でも目的は果たせたぜ! 時間稼ぎは成功だ! 撤退だ!」


 そう言い残し、荒くれ者は尻尾を巻いて逃げ出した。


 なんと言う三流悪役にぴったりなセリフ。

 言うのも相当あれだが、聞いているだけで恥ずかしいぞ、それ。

 まあ何はともあれ、荒くれ者を撃退できた。

 ことは片付いたみたいだし、俺はちょっとトイレにでも行くか。


「ちょっと足を外す。見張りは任せておくぞ」


「了承した」


 アムルは気絶しているが、ゴーサルとセタニアほどの強者が構えていれば、ここは俺がいなくても大丈夫だろう。

 過剰なまでの安心感がある。

 というか、足手まといな俺がいない方が安全なまである、


「モーラノイ、まってヨ」


 トイレへ向かって進み出すと、なぜか後ろからセタニアがてくてくとついてきた。

 一緒に来ても何も楽しいことはないぞ……。


「セタニア、トイレに行くだけだから別に一緒に来なくても大丈夫だぞ」


「いっしょに……いこ……」


 ぺちょりと頭に何かが落ちてきたので、気になってくるりと振り向いてみると、俺の背後には薬物中毒患者のように涎をだらだらと垂らし、顔を恍惚と染めているセタニアがいた。

 嫌な予感しかしない。


「いや、来なくていいから!」


 俺はトイレに駆け込み、バタンと扉を閉じた。

 鍵をかけておけば、流石に入れないだろう。


「いっしょに……いくヨ!」


 ――ドガッシャ!


 甘かった。

 木の扉ごときがセタニアの暴走を止められるはずがない。

 彼女は体当たりで扉を粉砕し、個室の中にいた俺を押し倒して、ドスリと馬乗りになった。

 デジャヴを感じる展開だ。


「セタニア、何をしようとしているのかは察しがつくけど、やめておかない? ちょっと心の準備が……」


「モーラノイ、エパリアソソソソイノ!!!」


 話が通じない。

 セタニアは雄叫びを上げながら、一枚一枚と俺の衣服を剥いでいく。

 最後に残ったパンツを手で握り、セタニアは前に倒れて俺の顔に自慢の胸を押し付けた。

 はぁーはぁーと暖かい吐息が俺の髪の毛をくすぐる。


 森の中でレイプ未遂された時が思い起こされてきた。

 となると、オチもおそらく同じなのだろう。


 ――バゴン!


 間の抜けた音があたりに響き渡り、ぶるるんと振動がセタニアの体を伝って俺に届く。

 サンキュー、タライさん。

 気を失ったセタニアの手の掌握は解かれ、パンツはあるべき所有者の手元に戻り、俺は念願の自由を得た。

 めでたし、めでたし。

 さてと、このあらんいやんな状況をソファイリに見つけられて誤解される前に、さっさと事後処理をしておこう。

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