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57 敵地でお泊まり会

 この砦を乗っ取ることによって、とりあえず俺たちの第一目的は達成された。

 これで後から来るアーマインの兵は、敵の襲撃に怯えず、楽々と山脈地帯を突破することができるはずだ。

 俺たちの作戦は滞りなく順調に進んでいる。


 ちなみに、いつものことなので今更言う必要はないのかもしれないが、運が良かったからか、俺は今のところ一度も戦闘をせずに済んでいる。

 道中に現れた強そうなイエティちゃんはセタニアが倒してくれたし、その他の雑魚敵もソファイリの高範囲魔法で即薙ぎ払われていた。

 そして今回は、カーンが一人で敵兵を殲滅してくれたのである。

 どうやらそこまで大した敵ではなかったので、一人で偵察のついでに倒してくれたみたいだ。

 俺的には手間が省けて大助かりなんだが、やる気満々だったアムルは「俺っちが活躍する機会が……」と激しく落胆していた。


「早速、次の目的地へ向かいたいところですが……」


 カーンはいまだに大吹雪が続いている砦の外を眺める。

 今出て行ったら、間違いなく遭難するな。

 るてるて坊主を降ろせば元に戻るはずだが、俺としたことがどの木に吊るしたのかをすっかり忘れてしまった。

 この吹雪の中を彷徨いながら探すのは無理そうだし、効力が切れるのを待つしかなさそうだ。


「今日はここに泊まればいいんじゃない? 今朝からずっと歩いてるし、あたしはもう疲れたわ。一休みしたい気分」


 あーっと声を上げながら背伸びをし、ソファイリは床の上に座り込んだ。


「で、ですが……」


 カーンは困ったように口ごもる。そして結局、自分が抱いた疑問を自己解決できたのか、ソファイリの意見に同調した。


「そうですね。奥の方に使えそうな部屋がいくつかありましたし、今日はここに泊まることにしましょう」


 というわけで、俺たちは砦の中で一晩を過ごすことになった。


***


 ふー、満腹満腹。

 俺はふっくらと膨らんだ腹をさすりながら、豪快なげっぷを放った。

 イエティちゃんの肉が意外と美味かったのでついついたくさん食べてしまった。

 余った分はソファイリのアイテムボックスにしまってあるので、しばらくはあれを食べられそうだ。

 明日の晩飯が凄く楽しみである。


「おい、フーン。何か遊ぼうぜ」


「いいけど、何を遊ぶんだ?」


 今夜泊まる個室に入ると、そこにはトランプを切っているアムルと、寝袋を床に敷いているゴーサルとカーンがいた。


「フーン様は寝袋を持っていないのですよね?」


「うん、持ってない」


「では、私の予備を貸してあげますよ。少し古いので穴がいくつか空いていますが、大丈夫でしょうか?」


「それで全然問題ないよ。ありがとう、カーン」


 おお、念願の床よりまともな寝床だ。

 高級感が漂うベッドや親しみ深い布団には劣るかもしれないが、冷たくて固い床とは比べ物にならないほどの素晴らしい睡眠を提供してくれるだろう。


 ちなみに、ここにいない女性陣は隣の部屋にいる。

 邪魔な物がたくさんしまってあったり、壁に大穴が開いていたりして、二つしか使えそうな部屋がなかったので、必然的にこのような分かち方になったのだ。


「じゃあ、何をするよ? 俺っちは柄揃えに一票」


(わたし)もそれでいいと思うぞ」


「お! 珍しく意見が合ったな、田舎猿のくせに」


「ああ。魚並みの脳みそしかない馬鹿なお前から、簡単に金を巻き上げられそうだからな」


「は! 笑わせてくれる! 俺は村で一番、柄揃えが上手かったんだぜ。クドネル村の原始人しか相手にしたことがない、お前ごときに負けるかってんだよ」


「ふふふ、それはどうかな」


 二人の視線の間でばちばちと飛ぶ火花。

 最近、思い始めたんだけど、この二人って本当は仲が良いんじゃないの?

 なんか罵倒しあうことによって友情を確かめてるみたいなやつ。

 喧嘩するほど仲が良いって言うし。


「では、始めましょうか。(わたくし)が札を配りますね」


 アムルもゴーサルも凄まじい剣幕を立てていたが、もちろん最終的に勝ったのは彼らではなく俺だ。

 おかげで小遣いがかなり増えた。

 そろそろベッドが買えるかもしれない。


 財布の中身をほとんど失ったアムルとゴーサルは、二人とも完全に自信を失って消沈してしまい、寝袋の中に潜り込んでしまった。

 妙にシンクロしているところを見ると、「やっぱ、仲が良いんじゃね?」と思えてくる。


 これ以上、起きていても意味がないので俺も寝袋に入るとするか。


 ――むにゅ。


 あ、あれ?


 ――むにゅ、むにゅ。


 足がつっかえて、寝袋の中に入れないんだけど?

 おかしいな。

 どう見ても、中身は空洞なんだが……。


 どうにか頑張って体を寝袋の中にねじり込むことに成功したが、なんだかものすごく窮屈な感じがする。

 イエティの肉を食べ過ぎて、太ったのか?


「狭い……」


 耳元で囁かれる謎の声。

 一瞬、びびってちびりそうになるが、俺はすぐにその正体に気づいた。


「なんで、ここにいるんだよ!」


 俺の寝袋にはミンが先に潜り込んでいたのである。

 しかも、例によって彼女は全裸。

 彼女の豊満な胸が俺の背中にみっちりと押し付けられていて、いろいろとかなりヤバイ(語彙力)。


「寒いから……」


 俺がこのセリフを言うのが何度目かは知らんが、物分かりが悪い彼女のためにもう一度言って差し上げようではないか。


「服着ろよ!」


「服着ても寒い……」


 ……それもそうだな。外は大雪だったっけ。

 どっちにしろ寒いのなら、わざわざ着るまでもないか。


「わかったよ。今日だけは一緒に寝てもいいよ。でも、明日はお前用の寝袋を見つけるから、そっちで寝てくれよな?」


 じゃないと、俺が睡眠不足で死ぬ。

 童貞の俺が、女体のあんなところやこんなところと密着している状況で、すんなりと寝られるかよ!

 ミンは特に問題ないのか、もうすでに寝息を立て始めてるけどね!


 はぁー……今夜は一睡もできなさそうだ。

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