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48 さようならベルディー その5

 なんだかよくわからんが、なりゆきで、でっかいダイヤを手に入れてしまった。

 やたら目立つから周りの人たちの視線を無駄に集めるし、懐にしまおうにも俺は貯蔵庫(アイテムボックス)を持っていない。

 とてつもなく邪魔なので、早々に始末したい――のだが、買い物がまだ終わっていない。

 つまり、今から持ち帰るわけには行かない。

 となると、王都で換金するしか選択肢はないのだが、どこへ行けば換金できるかなんて、余所者の俺が知るはずもない。

 これ、どうすりゃいいんだよ……。


 問題を少しでも減らすために、早く買い物を終わらせたいけど、いまだにチョボルが渡してきた買い物リストの内容を全然思い出せない。

 悩みながら、うろちょろしていても仕方がないので、俺はとりあえずダイヤを抱えたまま、八百屋などが並ぶ商店街を目指すことにした。

 適当に店を眺めていれば、必要なものを思い出すかもしれないしな。


「えーっと、こっちだ」


 こちらに来てからまだ日は浅いものの、バイト中の昼休みに何回か飯を確保するために訪れていたので、商店街は王都の中でもかなり馴染みがある場所だ。

 なので、王都内のどこからでも、すぐにそこまでたどり着くことができる。


 後はこの坂を下るだけで、八百屋、肉屋、魚屋などの様々な美味しい食物を抱えている店がずらりと並ぶ通りに出るはず――


 ――だったのだが、坂のふもとまで下りきった瞬間、不幸にも見覚えがある奴らに話しかけられてしまった。


「ちょっと待った、そこの兄ちゃん」


「あ、はい」


 話しかけてきたムサい男は銃口を俺に向けていた。

 ま〜た、この盗賊どもかよ……懲りないな。


「死にたくねーなら、そのダイヤをおとなしくこっちに渡しな」


「はい、どうぞ」


「ふぇっ?」


 こちらがあまりにもあっさり渡したのに驚いたのか、彼は素っ頓狂な声を漏らした。

 銃を持ってる奴が渡せっつたら、普通渡すだろ。

 何をそんなに驚いているのやら。

 あげると言ったのに、いつまでたっても受け取らないので、俺は盗賊兄貴のだらしなく開いた口の中にダイヤを突っ込んだ。


「これでいいんだよな? 俺は忙しいんで、お先に失礼しまーす」


 すぐさま立ち去ろうとしたが、今度は隣の女盗賊が騒ぎだした。


「ちょっと待つっす! お前、怪しいっす! 兄さん、きっとどこかに隠れている護衛がここを見ているっす! あいつが安全なところまで歩いた瞬間、あたい達を襲うつもりっす!」


 何日も食っていないのか、彼女は前に見たときよりもさらに痩せ細っている。

 だが、無駄に喚くスキルに関しては、あまり衰えていないみたいだ。


「なるほど、そういうことか。よくも俺たちをだまそうとしてくれたな!」


 なんだよ、その被害妄想!

 被害に遭っているのは、どう考えてもこっちなんだけど……。

 面倒ごとからちゃちゃっと逃れられる、最善の選択肢を選んだつもりが、バカ妹分のせいで盛大に裏目に出てしまったではないか。


「なら、お前ごと攫って、身代金を請求するしかあるめーな。ヒヒヒ」


 下ろしていた銃口を、もう一度こちらに向け、盗賊兄貴はかませ盗賊特有のゲスい笑みを浮かべた。


「いや、俺を攫っても身代金を払ってくれるような人はいないんだけど……」


「なわけねーだろ。そんな高価な物を持ってるんだ。お前はどっかの貴族のお坊っちゃまにちげーねー」


 いよいよやばそうだったので逃げようとしたのだが、俺の足の速さではどうにもならず、すぐに捕まって盗賊兄妹に縄で身体を縛られ、ダイヤと一緒に馬車の荷台に放り込まれてしまった。

 どうしてこうなった……。



***



 俺を乗せた馬車は坂道を急がず、焦らず、実にゆったりと登っていく。

 断片的に聞こえてくる二人の会話によると、盗賊共は俺を王都の外れにある秘密基地とやらまで連れていくつもりらしい。


「もっと早く行けないのか? 縛られてるのに、飽きてきたんだが」


「無理だ。このロバはこれ以上早く動かねぇ」


 気になったので、ロバの様子を見てみたら、相変わらず不気味なほどに痩せ細っていた。

 飼い主なんだから、ちゃんとエサやれよ……。


「ブルウルルル……」


 とうとう限界に達したのか、ガイコツロバはしょげかえった鼻息を吐き、一歩も動かなくなってしまった。


「動くっすよ! このクソが!」


 妹盗賊は疲れきったロバに容赦なく鞭を打つ。

 かわいそうだし、助けてやりたいのだが、手足を縛られているので俺にはどうにもならない。

 何発か鞭を食らうとロバは失神したのか、足を崩して倒れ、びくとも動かなくなってしまった。


「しかたがねえ。ロバを取り外して、馬車を基地まで押していくぞ」


「わかったっす、兄さん」


 冗談だろ?

 ここから歩いていくのか?

 いつになったら帰れるのやら……。


 泥棒兄妹はひょいっと地面に飛び下り、ガチャっとロバと馬車を繋いでいた、縄や金具を手早く取り外した。


「よし、馬車の後ろにまわ――」


 ――ギギギギギギギ。


 あれ? なんだか景色が少しずつ動いているような気が……そういえば、ここって坂だったっけ?

 馬車が勝手に転がり始めたんだけど。 


「「しまった!」」


 アホかよ、お前ら!


 泥棒兄弟は逃げるように転がる馬車を追って全力疾走しているが、もう遅い。

 馬車は既に自動車並みの速度で坂を駆け下りている。


 もちろん、俺を乗せたままで。


 ぶっ飛ばされる路上の置物、間一髪で馬車のタイヤを躱す人々、止めようと馬車を追っている王都の警備隊。

 かなりカオスなことになっているが、手足を縛られている俺にはどうすることもできない。

 とりあえず、死人が出ないように祈るしか――


 ――あっ。


 馬車に気づいていない十数人の集団を前方に確認。

 このままでは彼らは確実に()かれてしまう。

 声を上げて危険を知らせないと。


「お~い!」


 俺の叫びに反応して集団の中の一人がこちらへ振り向く。

 よかった――って、おい!

 全然、よくない!


 あいつはケパスコ泥棒のお嬢様じゃないか。

 馬車の進路から逃れるのはもう遅いと判断したのか、彼女を取り巻いている十数人の執事軍団は彼女と馬車の間に立ちはだかった。

 筋肉むきむきな連中だし、多分この馬車を止めてくれるだろう。


「「「ギャー!!!」」」


 見事に全員ぶっとばされました。

 無能すぎる……。


「ワン!」


 しかし、何故かクソ犬だけは無事に馬車の中へ着地していた。

 こいつは怪我すらしていない。

 運がいい犬――というほどでもないな。

 あと数百メートルで、馬車が時計台に衝突するので結局死ぬ。

 

「ベルディー! なんとかしてくれ!」


 返事がない。

 そういえば、いないんだっけ……。

 まあ、一応お約束なので言ってみたものの、ベルディーに助けを求めて実際に助かったケースを一つも思い出せないので、特に問題はないか。


 そんなことより、どうにかして自力で助かる方法を考えよう。


 衝突する前に飛び降りるのは――怖いから無理だな。

 それに、うまく着地できなければ間違いなく死ねる。


 この犬を生贄にして――も助からないな。

 このクソ犬なら何匹でもくれてやるのに……。


 くっ、何か役に立つマジックアイテムが都合よくあれば――あった。

 相変わらず、ご都合主義マックスな俺の人生だ。

 馬車の隅に浮遊石が落ちているではないか。

 おそらく、このあいだ盗まれたものを一つ見落としていたのだろう。

 これをうまく使えば馬車から脱出できるはずだ。


 俺は早速、浮遊石を拾い上げた。


「……」


 ……どうやって使うんだ、これ?


「うぃんがーでぃあむ、れびおーさ?」


 反応しない。違うみたいだ。


「チンカラホイ、ルーラ、レビテト!」


 まずい、まずい、まずい!

 時計台がもうすぐそこまで迫っている!

 

「ワン!」


「うるさいぞ! こっちは忙しいんだよ!」


 ――パクッ。


 あっ。


 浮遊石を丸呑みにしやがった。

 時計台は――目の前じゃん。


 これは…………さすがの俺も…………終わったかも。


 ――ドガッシャーーーン!

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