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39 刺身vsエスカルゴ

 仕事を終え、無事にチョボルの旅館へと帰宅した俺を真っ先に出迎えてくれたのは、六足ワンコだった。

 少し嬉しかったので、そいつのふさふさな白い毛をよしよしと撫でてみたら、思いっきり噛み付かれた。

 やっぱり、ただのクソ犬だった。


「フーンさん、とっとと晩飯を食いに来やがらないとお前の取り分と、ついでにお前も始末しますよ!」


 チョボルのあたたかいお言葉。

 俺の帰宅を待っていてくれる人が居るなんて、俺はなんて幸せ者なのだろう。


「はい、どうぞ。さっさと食べやがってください」


 今日の晩飯は超大盛りの炊き立てご飯。

 大雑把に切られたレタスっぽい野菜。

 そして、よくわからん匂いを放つ、具が一つも入っていないスープだった。

 どう見ても、手抜きだな……。


「おいおい、遅かったな。どこまで行ってたんだよ?」


 食卓が乗ったトレーを持って適当なテーブルに着くと、手前の席に座っていたアムルがそう問いかけてきた。


「王都まで行って、ちょっと仕事をね」


「仕事を探していたのか。真面目な奴だな」


 真面目とか、生まれて初めて言われた気がする。

 運が悪かった頃は、失望し過ぎていてやる気なんて全く出せなかったし、ご都合主義マックスな現在も努力する必要性が全くないからなぁ。


 フォークでレタスっぽい未確認植物を口へ運ぶ。

 もぐもぐ。

 味はどっちかというと、水分を抜き取り過ぎて、パサパサになってしまったキャベツだった。

 

「それ、美味いだろ?」


 俺がレタスっぽいキャベツ味の何かを飲み込む様子を、アムルはキラキラと目を輝かせながら凝視している。


「まあ、不味くはないかな」


「だろだろ! そのシャシャは俺っちの故郷の特産品なんだぜ」


 このレタスっぽいのはシャシャって呼ばれているのか。

 こちらの世界では砂のことをシャと呼ぶので、直訳すると砂砂である。

 確かに砂っぽい食感かも。

 しかし、あんま美味しそうな名前じゃないな、それ……。


「シャシャだと? ということは、アムル殿はオルデナ村出身なのか?」


 アムルの隣に座っていた、先ほどまで黙々とご飯を食べ続けていたゴーサルは、突然、スプーンを口元へと運んでいる手を止め、俺たちの会話に割り込んできた。


「ああ、そうだぜ」


 へへん、と自信満々に答えるアムル。


「一つ聞かせてくれ。オルデナ村の住民は、魚を焼かずに生で食べると聞いたのだが、それは本当か?」


「ああ、オルデナ村には海神(ヴァルナ)のご加護があるからな。最高の魚がいつでも取り放題だ」


「ほ、本当なのか? し、信じられん……。あのようなゲテモノを生で食えるのか……」


 ゲテモノって……。

 刺身は美味しいよ。

 日本人の俺が保証する。


 アムルもゴーサルの言葉を聞いて少しイラっときたのか、彼はいつものちゃらちゃらっとした顔をちょっとした険相へと変え、バシンとテーブルを両手で叩きながら席を立った。


「げ、ゲテモノだと? おい、ゴーサル。言って良いことと、悪いことがあるぞ。今すぐ訂正しろ」


 少しイライラじゃないな。

 激おこプンプンしてるな、これは。


「しかし、一般常識の範疇で、あれを食い物だと思う人間は存在しないだろ?」


「悪いが、俺っちはお前がゲテモノっつってるものを、子どもの頃から食べて育ってきたんだよ!」


 この雰囲気を放置したら殴り合いになってしまいそうだ。

 気を利かせて、話題を変えてやるか。


「そういえば、ゴーサルはどこから来たんだ?」


(わたし)か? 私はクドネル村から――」


「クドネル!? あの超絶田舎地帯にぽつんと意味もなく存在する貧乏村かよ?」


 アムル、空気読めよ!

 まずいまずいまずい。

 ゴーサルの鼻息が荒くなっている。

 これは間違いなく殴り合いに発展するパターンだ。


「オルデナ村も田舎だろう……」


「そうだが、クドネル村ほど世間知らずな村じゃねーからな。フーン、知ってるか? クドネル村の連中はかたつむりを殻から吸い出して食うんだぜ。気持ち悪くね?」


 エスカルゴを食べたことはないが、美味しいらしいよ? 多分。


「オルデナ村のように、生では食わないがな」


 な!ま!って感じで生をやたら強調するゴーサル。


「けど、虫だぜ? 虫とか食うやつがいるかよ? 歯で噛み潰したら、とんでもねー臭いがする液体とか出てきそうじゃねーか」


「生魚のとてつもない悪臭の比にはならん」


「うるせーよ、虫食い野蛮人!」


「黙れ、共食い半魚人!」


 あらあら、段々とヒートアップしてきたご様子。

 これはもうどうにもならんな。

 お手上げ状態。


「ちょっと、あんたたち!」


 おっと、ソファイリまでもが大乱闘に参戦か!?


「食事中よ! 少しは周りの人に配慮しなさいよ! さっきから悪臭やらゲテモノやら、食欲を削ぐ言葉ばっかり!」


「す、すまない……」


「わ、悪かった……」


 ソファイリに注意されて二人ともすっかり消沈してしまった。

 まあ、これでアムルとゴーサルは静かになったし、結果オーライかな?


 しかし――なんか、二人が急に無口になったので居心地が悪い……。

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