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38 八勇士のバイト その4

「おい、あいつを縛り上げろ」


「へい、兄さん!」


「や、やめんか! おい、そこのお前! わしを助けろ!」


 お、お前? だ、誰のことでしょうか?

 そんな人は知らないなぁ。


 あの強盗どもに魔法を無効化され、ジジイはいまさら焦り始めているみたいだ。


「少しでも動いたら銃をぶっ放すぞ」


 盗賊の兄さんはすっと俺に銃を向けて警告を放つ。

 別に心配しなくても絶対に動きませんから。

 やっぱ、君子危うきに近寄らずだな。これ、俺のモットーにしよ。


「むむむむ!!! んむむむ!!!」


 口を布切れで封じられて、うまく話せないみたいだ。

 ロープでぐるぐる巻きに縛られたジジイは、芋虫のようにぐねぐねと必死にもがいている。

 

「おい、そこの坊主。店の品物を俺たちの馬車に運ぶのを手伝え」


 坊主? 俺のことっぽいな。

 銃を持っている奴に逆らうのは無謀だし、ここは素直に従うとするか。


「へい、兄さん! 喜んで!」


「なんか、うざってーのが増えた気分だな……」 


『浮雲さん! 彼らを止めなくていいんですか?』


『わざわざ、危ないとこに自分から突っ込む必要はないだろ。それに、銃で撃たれたことは無いんだから、絶対の絶対の絶対に回避できる確証があるわけでもないし』


『……臆病過ぎですよ』


 臆病じゃなくて注意深いというんだよ、これは。

 石橋を叩いて渡る性格ってやつだ。


「むむむむむむむむむむむむむむ!!!」


 ジジイが何か言いたさそうな目をしているが、まあ、気にしないでも大丈夫だろう。


 さてと、兄さんの為に店の品物を運び始めるか。

 狙うべきなのは軽い物かな、一番手間がかからないし。


 ここに置いてある瓶は……意外と重いな。

 しかも、たくさん持つのが難しい形状をしているし、兄さんに手を抜いていると思われたくないので却下だ。


 こちらの妙な輝きを放っている拳サイズの石は……軽っ。

 ずっしりとした見た目に反して、ピンポン球のような軽さだ。

 中身が空洞なのだろうか?

 まあ、それはともかく、一気に20個は持っていけそうなので、これに決定。


「おい、坊主! さっさとしろ!」


「へい、兄さん!」


「むむむむむむむむむうむむむむむむむんんんん!!!」


 あー、聞こえない聞こえない。


 扉のすぐ外に駐車されていたのは、腐った板と錆びたネジで構成された、オンボロ馬車だった。

 その馬車を引いているのは、上に人を乗せただけで足を骨折してしまいそうな、貧相な体つきをしたロバらしい。

 手綱が今にも滑り落ちそうなほどガリガリに痩せている。


「坊主、こっちに持ってきてくれ」


「へい、兄さん!」


 俺はぽいっと石を全て馬車の中に投げ込んだ。


「へへへ、兄さん。王都アバゴルまではるばるやってきて大正解っすね」


「そうだな。最初の仕事がこうも簡単にできちまうのは、嬉しい誤算だった」


 もしかして、こいつらも俺と同じ田舎者なのだろうか?

 ちょっと親近感が――湧かないな。

 強盗だし、世間体的にあんまり関わりたくない。


 でも、田舎で……というか、バリーにいた頃にこいつらを見かけたような気がしてならない。

 特にあのロバ。

 なぜだろう?

 あとちょっとで記憶の引き出しが開きそうな気がするのだが……う〜む、思い出せない。


「よし。面倒な奴らに見つかる前にそろそろ撤退するか」


「「了解っす、兄さん!」」


「お前は来なくていいんだよ、坊主……」


 盗みを終えた盗賊の二人はひょいと馬車に乗り込み、ぴしっと鞭でロバを叩いて、颯爽と……は言い難い速度で去っていった。


 よしよし。これで、誰も怪我を負わずに一件落着。

 命はお金で買えない尊いものなのだから、全員無事だった事実がもっとも大切なこと。

 そう説明すれば、ジジイも俺の行動を許してくれるだろう。


***


「バッカモーーーーーーーン!!!!!!!!!!!」


 縄を解いた瞬間、壮絶な怒鳴り声に見舞われた。

 どうやら許してくれないみたいだ。


「今すぐ、奴らを追いかけるぞ!」


「はいはい」


 面倒くさいなぁ……。

 だが、運がいいことに、さほど時間が掛けずに盗賊の二人を見つけることができた。

 

「助けてくれー!」


 扉を開いた瞬間に聞こえたのは兄さんの声だ。

 しかも、なぜか天から聞こえてくる。

 なので、空を見上げてみると、上空30メートルほどの位置に、空飛ぶ馬車とその中に乗っている盗賊の二人がいた。

 何故こんなことになったのかは不明だが、どうやら降りられなくなっているみたいだ。


「そうか! その為にお前は、奴らの馬車に浮遊石レビストーンをありったけ積み込んだんじゃな!」


「え? ……あっ、はい。その通りです」


 なんだかよくわからんが、俺の手柄になったっぽい。


 その後、ジジイの風魔法と重力魔法を使って盗賊の二人を無事に救助し、彼らに店の売り物を全て返却してもらった。

 あいつらは王都の警備隊に差し出すべきだと思ったのだが、ジジイが二度とここへ盗みに来ないのなら逃がしてやってもいいと告げたので、彼ら二人はまたもや野放しになってしまった。


「逃がしちゃって良いんですか?」


「あのゴミどもを警備隊まで連れていくのに、かかる時間がもったいないじゃろ? それに、他の店で盗みを働いてくれれば、相対的にわしの店が有利になる」


 ひでぇー自己中だな、このジジイ。

 まあ、あいつらの知能レベルでは、多分、永久に盗みを成功させられそうもないので、心配する必要はないだろう。


「ところで、一つ聞きたいことがあるんじゃが」


「なんですか?」


「お前は異国の出身か? それも、海の先の遠く離れた大陸の」


 えっと、異世界も異国の一種かな。


「海の先ではないと思いますけど、確かに遠い所から来ました」


「そうか。どうにも、鑑定石に映ったお前の名前が読めないわけじゃ。精度が落ちたのかもしれんと心配して損じゃった」


「鑑定石には名前も映るんですか?」


「ああ。わしが持っている高品質の物でないと無理じゃがな」


 プライバシーの侵害じゃないのか、それ?


「で、お前の名はなんというんじゃ?」


「フーンです」


「フーンか。明日もよろしく頼むぞ」


 ジジイがさっと手を差し出す。

 俺は笑顔を浮かべながら、それをがっちりと掴んだ。


 こうして、俺は無事に仕事先を見つけたのであった。

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