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36 八勇士のバイト その2

 結局、開けた扉は全て爆発したので、結論として全部罠だった。

 当たりが無ければ、どれだけ運が良くても当たるわけがないよな。

 これで納得だ。


「ば、バッカモーーーーーーーン!!!!!!!!!!」


 爆発に巻き込まれて、黒焦げになったドワーフじいさんは大層ご立腹のご様子。


「店をぶち壊すつもりか!!! わしがギリギリで廊下全体に防御結界を張ったから、どうにか壁が壊れずに済んだものの――」


「す、すみません。正解の扉を見つけるのに、ついつい夢中になってしまいました。あっ、でも、爆風のおかげで、ほこりがほとんど一箇所に纏められてますよ。これで、掃除が楽になりますね!」


 廊下はピッカピカのテッカテカになっており、まるで鏡のように俺とドワーフジジイの顔を映している。

 爆風だけでこれをこなすのは、物理的には無理があるかもしれないが、ラック的には問題ない。

 単なる、ありきたりな現象だ。


「一体全体、どうなっておるんじゃ……。鑑定結果の中には、爆発を無効化できるようなスキルはなかったぞ。わしの装置が不完全なはずは……」


 ショックを受けているのか、ジジイはぶつぶつと呟きながら頭を抱えている。


 無効化以前に、命中してないんだよなぁ。

 まあ、でもジジイの気持ちはわかる。

 某ゲームでだいばくはつを使った時に、「しかし XXXXの こうげきは はずれた!」って表示されたら誰でもショックを受ける。


「えっと、それで掃除用具はどこにあるんですか?」


「――あ? ああ、掃除用具か。それなら倉庫の中にしまってある。この通路を真っ直ぐ奥まで進めば魔法で透明化された扉があって、それが倉庫につながっておる。あの八つの扉は泥棒を惑わすための罠じゃ」


 なら、最初からそう言えばいいのに……。

 面倒くさいジジイだ。


 倉庫の中からほうきとちり取り、そして雑巾とバケツを持ち出し、俺は早速作業に取り掛かった。

  

 雑巾を絞る。

 廊下をつーーーーー。

 廊下をつーーーーー。


 あれ? なんか、デジャヴ。


 本当にどこまで行っても、掃除しかしていない。

 八勇士って、臨時掃除人か何かなの?


***


 よし、倉庫へ繋がる廊下の掃除は終了。

 ピッカピカのテッカテカを通り越して、つっやつやのつるっつるになっている。


 次は店の方だ。

 初見の時は気づかなかったが、物陰や窓際などは結構汚い。

 まずは、雑巾を使って細かい部分のほこりを拭き取るか。


 ――チリリーン。


 入り口の扉が開き、そこに取り付けられているベルの音が響き渡った。


 ジジイは「むむむ、ありえん……」と繰り返し呟きながら、数式がたくさん書かれた紙切れと鑑定石を交互に睨んでいて、接客どころではなさそうなので、俺が代わりに挨拶をすることにした。


「いらっしゃいませ」


「お、新入りか?」


 訪れた客は、青色の小さな羽が飾られた帽子を被った中年男性だった。

 どことなくチャラそうな印象を感じる。


「……なんだ、お前か」


 顔を机の上に向けたまま、ジジイは客の質問に答えもせずに淡白な言葉を述べ、何事もなかったかのように、再び鑑定石を見ながら数式を書き始めた。

 客の相手をする気ないのかよ、こいつ。


「今度はいつまで持つかな~」


「近頃の若いもんは軟弱者ばかりじゃからの。二、三日経ったらこいつも辞めるじゃろ」


 数式を書く手を休めずにジジイが返事を告げる。


「それは違うだろ。あんたが厳しすぎるから、みんな辞めちまってるんだよ。そろそろ、自覚したらどうなんだ?」


 男にそう非難されると、ジジイは書く手を止めた。

 そして自分の背を高く見せようとしているのか、ひょっこりと椅子の上に立ち上がった。


「そんなことがあるものか! わしが若かった頃はこの程度の扱いでも、まだ生温いほどじゃ。近頃の若いもんは、ちょっとでも疲れる仕事や難しい仕事を渡すだけで諦めおる。メンタルがスライム並みに脆いんじゃよ」


「時代が変わったんだよ。もう、戦前のギスギスした世の中じゃないしな。今の若い奴はもっと気楽に生きたいんだよ」


「バカバカしい。何が気楽に生きたいじゃ。ただ怠けたいだけに決まっておる」


「ははは。確かにそうかもな」


 男は愉快そうに笑いだした。

 ファンタジー世界というと戦乱状態ってのが定番だが、ここはかなり平和ボケしているらしい。

 戦いに全く興味がない俺には都合がいい話だ。


「じいさん。今日はこれを貰っていくよ」


 男は棚から赤色の液体を含んだビンを二つ手に取った。


「600コペルトじゃ」


「おいおい、俺はお得意様じゃないか。ちょっとぐらいお安くしてくれよ」


「相場以下では絶対に売らん」


「相変わらず釣れない奴だな……。わかった、その値段で手を打ってやるよ。だがな、じいさん。実を言うと俺の手元には500コペルトしかないんだ。だから、今回は少しばかりお金を貸して――」


 ブチッと大きな音を立てながら、血管がジジイのつるぴかーんな頭に浮かび上がる。


「金がない奴は出て行け!」


「へいへい、ははは」


 へらへらと笑顔のまま、男は素直に店から出て行った。

 

「お客様にあんなことをして良いんですか? 一応、お得意様なんですよね?」


「ああ、あいつは構わん。何度追っ払っても、毎日ここへ寄ってくからの。しかも、その大半は冷やかしじゃ。あんなゴミクズは客としてみておらん」


 つまるところ、二人は仲良しなんだな。

 本当に迷惑と思っているのならば、立ち入り禁止処置でもするはずだ。

 このジジイは間違いなくソファイリよりもツンデレしている。


 ――チリリーン。


 客の第二ラウンド来場。

 今度は黒覆面を被った大柄な男と貧相な体つきの若そうな女だった。


「今すぐ金を出しやがれ!」


 銃口を向けられているし、多分客じゃないな。うん。

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