35 八勇士のバイト その1
「こんにちは」
建物の中はひっそりとしている。
棚や机の上には様々の摩訶不思議アイテムが並べられているが、それを買いにきている客や、店番をしている人間はどこにも見当たらない。
空き巣に入られるぞ、これ。
「ぶつぶつ……よめん? …ぶつぶつ……これが…こうで………………ぶつぶつぶつぶつ……なんじゃ、これは?」
お、誰かの声だ。
でも、どこを探してもやはり人はいな――いた。
水晶玉が机の上に乗っているだけかと思ったら、ゆらゆら動いているではないか。
しかも、よく見てみたら肌色だし。
とりあえず机に向かって歩き、俺はキラキラ光る頭皮を撫でてみた。
「何をしとるんじゃ、ボケ!」
「す、すみません! 柔らかそうだったので、つい……」
触ったら怒鳴られた。当たり前だな……。
憤慨しながら丸めていた体を伸ばし、水晶頭についている、もじゃもじゃに伸びたヒゲと大きくて丸い赤鼻が明らかになった。
この見た目と座高の異常な低さからして、このじいさんは恐らくドワーフという種族なのだろう。
「で、お前は何をしにきたんじゃ? ひやかしなら帰ってくれ」
客かもしれない人間をいきなりひやかし扱いするのは、ビジネスモデルとしてどうかと思う。
まあ、客じゃないんだけどね。
「えっと、冒険者ギルドで依頼を受けたんですけど……」
「ふん、どうせお前みたいな腰抜けの若造はいままでの連中同様、三日で辞めてしまうじゃろうな。わしの時間を無駄にする前に帰ってくれ」
彼の言う通りのような気もするが、このまま帰るのもしゃくなので、とりあえず反論をすることにした。
「どうして、そんな確信が持てるんですか?」
「お前のステータスじゃよ」
ドワーフじいさんはギルドで見た鑑定石にそっくりだが、それよりも一回り大きい石を膝の上から持ち上げ机の上に置いた。
「ほぼゴミ同然じゃ。まるで鍛えておらんのじゃろう」
「確かに鍛えていませんけど……」
「なら、お前をここで働かせるわけにはいかん。そんなひょろっちい奴に、高価な品物が入った重い箱を任せられるものか」
「力仕事以外なら大丈夫ですよ」
「マインドが1の癖に何を言っておる。お前に会計を任せられるわけないだろう」
「大丈夫ですよ、足し算と引き算は小学校で習ってますからね」
「そうか、なら2+3は何だ?」
「ちょっと待っててください、えっとリンゴが二つで……もう片側にみかんを三つ……両方を合わせて……1、2、3、4、5ですね!」
「一々、そんなノロノロ計算していたら客が帰ってしまうじゃろ!」
むっ、確かに。
「なら、掃除はどうですか? これなら経験豊富なので、失敗はないと思います!」
「勝手にしろ。わしにはお前に頼みたいことなどない」
それ以降、俺が何を言おうと、ドワーフじいさんは口を開かなくなってしまった。
面倒くさい性格の雇い主だ。
せめて掃除用具の場所ぐらい教えてくれたらいいのに。
『そういえば、ベルディー。一つ気になっていることがあるんだが』
『なんですか?』
『さっきから俺のステータスが低い低い言われているんだけど、酷くない? 一応、レベル26までに溜まるポイントを先取りしているんだから、それなりに振られているはずだろ?』
『ああ、それですか。実はですね、ラックは隠しステータスなので、高品質の鑑定石じゃないと表示されないんですよ』
もっと早く言ってくれよ……。
まあ、それはともかく、まずは掃除用具を探すか。
これをうまくやれば、じいさんも俺を雇うことに納得してくれるかもしれない。
多分、品物が展示されいる表部屋ではなく、どこか奥の方にしまってあるのかな。
関係者以外お断りっぽい雰囲気の扉があるので、まずはその中を探してみるか。
――キィィッ。
建てつけが悪そうな扉を開くと、反対側はほこりっぽい通路だった。
何年も掃除されてなさそうなレベルの汚さだ。
そして、通路の壁には扉が九つ。
もしかしたら、この内のどれかが物置きなのかもしれない。
「一応、言っておくが、その扉のうち八つは防犯装置じゃ。開けた瞬間爆発する」
さりげなくヤバいことを告げるジジイ。
とはいえ、俺にはラックがあるので適当に選んだ扉が正解になるはず。
奥まで歩くのが面倒なので、とりあえず一番手前の扉を開こう。
左袖で使ってほこりの嵐から口を守りながら、ゆっくりと通路の上を進んでいき、ドアの前までたどり着く。
そして、俺は取っ手を右手でぎゅっと掴んだ。
正解だとわかってはいるが、やはり胸がドキドキする。
取っ手を回す前に、一度心を落ち着かせようと深呼吸をしたら、思いっきりほこりを吸い込んだ。
げほっ、げほ。
ああ、もう耐えられん。
さっさと扉を開いて――
――じゅどーーーーーーーーん!!!!!!!
『爆発したな』
『しましたね』
『ソファイリのエクスプロージョンと比べたら大したことないけどな』
『少しは慣れてきたみたいですね』
だだだ、と誰かが駆け寄ってくる音が響く。
「何をやっておるんじゃ! あの忠告を受けても、なお扉を開いたアホはお前が初めてじゃ! 待ってろ、今すぐ回復ポーションを持ってきて――」
「あ、いや。大丈夫ですよ。間一髪で躱しましたから」
「嘘つけ。わしの空間魔法作動装置は完璧じゃ。人間如きの速度では避けようが――」
通路を覗き込んだ瞬間、ジジイは言葉を止めた。
「……む、無傷じゃと?」
「だから、言いましたよね?」
トラップ魔法が俺に効かなかったのは、さほど驚きではないが、どうしてハズレの扉を開いてしまったのだろうか。
とりあえず、当たりを引くまで全部開いていこう。
俺は次の扉の取っ手を握った。
「おい、やめろ!」
既に開いてしまったので、もう手遅れである。
――じゅどーーーーーーーーん!!!!!!!
「ろ…かが……ほうか……!!!」
ジジイが何かを叫んでいるが爆音がうるさいので、うまく聞き取れない。
――じゅどーーーーーーーーん!!!!!!!
またハズレか。
――じゅどーーーーーーーーん!!!!!!!
――じゅどーーーーーーーーん!!!!!!!
――じゅどーーーーーーーーん!!!!!!!




