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27 王都?

 がたんがたんと馬車が障害物を踏んで弾むたびに俺のケツに軽い衝撃が走る。

 日本のように道路が整備されていないので、道の上は石ころなどのゴミだらけなのだ。

 馬車の席はやたら固い木製だということも俺の苦痛を増幅させている。


『なあ、ベルディー。一体いつになったら王都へたどり着くんだ?』


 出発してから既に一週間は経過している。


『そうですね、この速度だとおおよそ今夜辺りではないでしょうか』


 今夜……、まだ朝になったばかりではないか。


『退屈だなあ』


『何かお話ししますか?』


『そうだな……あ、そういえば俺のステータスってどうなってるんだ? 闘技大会で強敵相手にかなりの数の戦闘をこなしたし、そろそろレベルが上がってもいい頃だと思うんだが』


『そ、そうですね……別の話にしませんか?』


 なんだこの明白なはぐらかしは。


『怪しいぞ、ベルディー。今すぐ俺のステータスを教えてくれ』


『は、はい。えーっと、レベルは3まで上がっています』


『ほう。ステータスは上がったのか?』


『えーっとですね……実は何も……』


『何も変化していないのか?』


『ご、ごめんなさい……』


『別にベルディーが謝る必要があることじゃ――』


 ――いや、待てよ。

 ベルディーが謝っているということは、もしかして彼女はなぜ俺のステータスが上がらないのかを知っているのかもしれない。


『ベルディー、どうして俺のステータスは上がらないんだ?』


『あの、その、えと、ですね。実は最初に浮雲さんに与えたボーナスの50ポイントは、レベル26までの間に得るはずだった成長ポイントの先取りだったんですよ』


『つ、つまり……』


『浮雲さんはレベル26を超えるまで一切ステータスが上がりません』


 絶望した! 努力しても成長しない自分に絶望した!


***


 太陽が沈み、この世界における二つの月、紅玉(こうぎょく)のルネアと翠玉(すいぎょく)のイルが夜道を淡い光で照らしている。

 ベルディーの推測が正しければ、そろそろ王都が見えてくるはずだ。

 俺は馬車から顔を出して前方を眺めてみた。


 ――綺麗。


 圧倒的な光景を目の当たりにし、真っ先に思いついた単語がそれだった。

 空高く掲げられた数々の大きな旗や色とりどりの炎を灯す松明。

 無数の建造物から放たれる黄金に輝くイルミネーション。

 メルリンたちが暮らす田舎では決して見られない絶景だ。


『王都には電気があるのか?』


『いいえ。あれは多分、光魔術と火魔法の融合だと思いますよ』


 俺はこれからあの街で暮らすのか。

 どれほど発達しているのだろうか。

 街の内情を知るのが今から楽しみだ!


 ――かくん。


 え?


 馬車は王都へ入るための門にたどり着く直前に、大きく右へと曲がった。


『あそこが王都じゃないのか?』


『はい、あそこが王都ですよ』


『じゃあ、どうして馬車は別の方角へ向かっているんだよ?』


『さあ。神のみぞ知るですね』


 王都を囲むレンガの壁がぐんぐん遠退いていき、代わりに森の木々が馬車の周辺に現れる。


『どう考えても、おかしいんだが……』


『大丈夫ですよ、多分』


『もしかしたら、いつの間にか馬車がジャックされて、俺は誘拐されているんじゃないか?』

 

『考えすぎですよ。とはいえ、そういう展開も悪くはないですね』


 いや、悪いだろ。


「ヒヒーン!!!」


 馬の鳴き声が周囲に(とどろ)き、馬車がぴたりと止まった。

 どうやら、目的地に到着したようだ。


 ババアに貰った剣をとっさに構え、おそるおそる外へと踏み出す。

 馬の呼吸やそよ風を除き、物音がまったく聞こえない。

 辺りはとても閑散(かんさん)としていた。

 盗賊に襲撃される展開にはもってこいの立地といえる。


 ここは一体、どこなんだ?


「モーラノイ!」


 突然、耳に飛び込む聞いたことがあるような気がする声。


 ――どさ


 俺は背後から押し倒された。

 くっ、やはりここで停車したのは俺を確保するための罠だったのか。

 

「モーラノイ、ひさしぶりだヨ」


 聞き覚えがありすぎる声だが、どうにもこれに関する記憶が脳の奥底へ封印されているようで、何も思い出せない。

 何かしらのトラウマ要素があるみたいだ。


「はやく、もどってつづきするヨ」


 続き? する?

 

 ――むにゅ。


 不自然なほどに柔らかい胸部が俺の背中に押し付けられる。

 そして、それを切っ掛けに俺がこの世界にたどり着いて間もない頃の記憶が、もくもくと雲のように俺の脳内を覆い尽くす。


「うおー、思い出した!!!」


 うなぎのようににゅるにゅると気持ち悪くもがいて、彼女のデスホールドから抜け出す。


「あ、モーラノイ。なんでにげる?」


 とあるジャングルの変態蛮族(やばい女)ではないか。

 彼女は前に会った時よりは現代的(といってもこちらの世界の現代だが)な服装をしていた。

 相変わらず露出がやばいが、下半身を覆っていた葉っぱはオレンジ色のやたら長いスリットを入れられたスカートになっており、ココナッツの殻っぽい色と形のブラは胸部に巻きつけられた白い布で代用されている。


貴様(きさま)が最後の勇士ですか?」


 今度は木々の隙間から坊主頭の可愛げな少年が現れた。


「ようこそ、いらっしゃいました。俺様はここの近くの宿で亭主をしているチョボルです。貴様は何かと俺様のお世話になると思われるので、覚えておきやがってくださいね?」


 こいつ、口調に統一性がなさすぎるだろ……。


「モーラノイ、いくヨ。みんなまってるヨ」


 みんな……。他の八勇士のことだろうか?


 え、ちょっと待った。

 てことは、この変態蛮族も勇士に選ばれたのか?

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