24 闘技大会 二回戦
各選手がランダムに振り分けられ、残念ながら俺の対戦相手はオネエさんとなってしまった。
「きゃーっ! うっれし~! フーンきゅんと一騎打ちよ~ん。どさくさに紛れていろんなことしちゃおっと」
何やら不穏なセリフを口にしているが、今回ばかりは即敗退する手立てを考えついているので問題ないだろう。
「フーン、パーシファーには気をつけろ。前年の大会では戦闘中に大衆の前で胸を揉まれるという屈辱を味わった」
カリアは苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。
相当なトラウマなのだろう。
しかし、あいつ女性にも興味があるのか。
オネエというよりただの変態じゃないか。
「ちょっと~、それは言いがかりよ。あれはたまたま、あたしの目の前にあんたが飛び込んできたから、思わず手を前に出しちゃったのよ」
「そこまでは納得がいくが、豪快に揉んだのはどう考えてもおかしいだろ!」
憤慨しながらオネエさんの胸ぐらを掴むカリア。
「だって、思いの外に柔らかかったんだもん。ぺったんのくせに」
「黙れ!」
へぇー。まな板でも一応柔らかいのか。
でも、メルリンはそこそこ大きい美乳だから関係ないな。
「一戦目はフーン様とパーシファー様の戦いとなります。こちらへお越しください」
スタッフの女性が俺たちを呼び出しにきた。
剣はカリアに研いでもらったし、作戦のイメージトレーニングは万全。
後は全力で敗北を目指すのみだ!
***
「青コーナー! 可愛い人なら性別にとらわれず、くまなく愛せる変態紳士! 飲み会には常に引っ張りだこの、パーシファーだ!」
「みんな~! 愛してるわ~!」
観客席の様々な位置から、パーシファーコールが巻き起こる。
ネタで叫ばれているだけなのかもしれないが、それでも人気ありすぎじゃないですかねえ。
「赤コーナー!(前回のコピペという手抜きなので省略)」
前回同様、観客がしーんと静まり返った。
俺へ対する反響だけ酷すぎるだろ。
「フーンさん! 頑張ってください!」
あまりにも静かだったので、メルリンの声がはっきりと耳元まで届いた。
なるほど! 彼女のために観客はわざわざ黙っていてくれたんだな。
ありがたや。ありがたや。
「では……スターーーーッウゥッ!」
アナウンサーの兄さん、テンション上げすぎである。
「いくわよ、フーンきゅん! たっぷりといたぶって、しゃぶり尽くしてあげるわよん!」
恐ろしい予告をしながら、開幕と共に俺へ向かって突っ込んでくるパーシファー。
パーシファーもボブスと同じ近接戦闘型か。
なら、間違いなく彼の攻撃は俺には当たらないだろうな。
ふふふ……、だが対策は万全だ!
俺は腰に添えられた剣を引き抜き、それの先っぽを自分の腹に突きつける。
かなり安直なアイデアだが、敵の攻撃が当たらないのであれば自らの体を刺してしまえばいいのだ!
では、早速――
「……」
痛みを感じるのが怖くて自分を刺せねぇー!
「フーンきゅん! 何をしているのよ!」
パーシファーは奇怪な行動に出た俺を驚いた表情で見つめている。
あいつが困惑している隙にさっさと自殺しなければ――
「ダメよ、フーンきゅん!」
鈍器の一振りで剣を俺の手から跳ね除けると、パーシファーはハンマーを地面に投げ捨て、絞め殺しかねない握力で俺に抱きついてきた。
こいつのまな板は固いな。当たり前だけど。
でも、ちょっと暖かい。
「あたしなんかのためにそこまでして勝たせてくれるなんて、あたしがぜーーーーーーーったいに許さないわ」
ボブスに演技の真意を間違われた時のように、また勘違いされてしまった。
これはお前のためじゃなくて俺のためなんだよ。
「フーンきゅん、あなたの本当の気持ちが知れて嬉しかったわ。この戦いが終わったら、二人でもっとたくさんお話ししましょ――」
――ぐさっ。
やれやれ……。「この戦いが終わったら」などと言って、死亡フラグを立てたりするからである。
俺の手元から弾かれて宙を舞っていた剣は落下する際にパーシファーの右肩を貫いたのだ。
毎度のごとく発動するCEROの横暴のおかげで彼の腕を滴るべきである血液は見えない――のだが……。
なんだか俺の体にジメジメとした感触が伝わってきた!
しかも生臭い!
『なあ、ベルディー。これってひょっとして……いや、ひょっとしなくても……』
『はい。ご想像の通り、負傷したパーシファーの体から流された新鮮な血です。どうやらCEROの横暴は視覚しか遮らないようですね』
お、おぇ……は、吐きそう。
メンタルが弱い俺には刺激が強すぎる。
「勝者、フ――」
俺は気を失った。
***
「ようやく、目が覚めたか」
俺の瞳を上から覗き込んでいるのはカリアだ。
残念無念。メルリンに膝枕と看病をされたかったのに……。
「確かにあいつは気持ち悪いが、まさか抱きつかれただけで気絶してしまうとはな。悪いが、腹を抱えて爆笑してしまった」
常に無愛想なカリアが腹の底から笑うなんて非常識にもほどがある。
俺は一体どれほどの醜態を晒したのだろうか。
「次の対戦相手が発表された。お前の相手はジェギルスだ」
「ジェギルス?」
「闇魔術を主軸に戦う老人だ」
ああ、あのヒゲか。
亀の甲より年の功っていうし、今回はそこそこ期待できそうだ。
「カリアも準決勝まで勝ち進んだのか?」
「無論だ。お前より先に敗退してたまるか」
となると万が一、俺が老人に勝ったとしても、まだ頼み綱は残されているってことだ。
それにカリアが優勝すれば勇士として王都へ強制連行されるので、ババアの奴隷は俺とメルリンの二人だけになる。
それはこの上ない理想展開だ。
「カリア、頑張って優勝してくれよ」
ぽんと彼女の肩に右手を置く。
「な、なんなんだいきなり……。私は元からそのつもりだ」
<名前> パーシファー・メルロ
<種族> 人間
<年齢> 23
<身長> 185cm
<体重> 62kg
お姉さんではなく、オネエさんである。
持ち前の明るさと人の良さのおかげか、男女問わず友人が多い。心をついつい許してしまう裏表ないオープンさが彼の武器。
だが、他人と一定の距離を置きたがる人見知りにも積極的にベタベタしてくるので、カリアのような人とは相性が悪い。彼自身はカリアをとても気に入っており、セクハラ紛いのアプローチをよくするが、その度にカリアにボコボコに殴られている。
一応バリーに家を持っているが、外出していることが多く、彼の職業や家庭環境は謎に包まれている。
<ステータス>
レベル :35
パワー :24
マインド:17
スピード:20
トーク :18
チャーム:26
マジック:3
ラック :10




