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23 闘技大会 一回戦

「さあさあ、始まりましたーっ! 第54回闘技大会、一回戦です! 記念すべき初戦の挑戦者たちは~、こちらです!!!」


 スタッフのお姉さんの合図を受け、階段を上って戦場へと赴く。

 闘技場(コロッセオ)の広さは前もって知ってはいたが、実際に中に入ってみると、その広大さに絶句させられる。

 凄まじい数の観客だ。


「青コーナー! 戦闘中は恐ろしい鬼神、家に帰ると頼れるダディ! 主婦力と戦闘力の高さが町内で話題のボブスです!」


 きゃー、と若い女性陣が叫び声を上げる。


「赤コーナー! ヨムル氏のリンゴ農家で働く若き奴隷! 得体のしれない雰囲気をまとった少年、フーンです!」


 会場はしーんと静まりかえった。

 俺、人気なさすぎだろ。

 それに得体の知れないって……確かに俺は人一倍暗めな顔つきだが。


「フーンよ、正々堂々と戦おうではないか!」


 どんと胸を叩いて、そう宣言するボブス。


「正々堂々と戦ったら俺が間違いなく負けますよ」

 

「そうか、なら好きなだけ卑怯な手段を使っても構わないぞ! 全力で俺を潰しにこい!」


 い、イケメンすぎる……。

 これからわざと負けるつもりなので、ちょっと申し訳ない。


『はたして、本当に負けられるのでしょうか?』


『そんなに難しいわけないだろ』


『大富豪の時は負けようとしていたのに、圧勝してしまいましたよね』


『あれは運が絡むゲームだからだろ? 今回は実力がモノを言う戦いなんだし、こちらから攻撃をしなければ、俺が勝つ可能性なんて万に一つもないよ』


『そうだと良いですね。個人的には浮雲さんに優勝してもらいたいのですが……』


「選手のお二方、準備はよろしいですか? では~……スターーーーット!!!」


 甲高いホイッスルと観客の声援が戦場の隅々を包み込み、戦いの火蓋が切って落とされた。


 ボブスは目前に構えていた大斧をえいやと空高く掲げ、俺に向かって猪のように猛進してくる。

 隙が大きい攻め方だが、俺が妙なトリックを仕掛ける前に、速攻で俺に大打撃を与えて戦いを終わらせるつもりなのであれば、悪くない手段だ。

 まあ、トリックなんかないんだけど。


『浮雲さん、回避しないと首をはねられますよ』


 首をはねられるのは流石にまずい。

 だが――こ、怖すぎる。

 足がすくんで動けない。

 元々、負けるつもりではあったが、頭をすぱこーんされて退場するのはまっぴらごめんだ。

 もっと、無難で痛くない敗北を所望します。


「うおっらーーーっ!!!」


 もうボブスは俺の目の前だ。

 だ、誰か俺を助けてくれ!


「悪いが、この勝負はもらったぞ、フーン!」


 首筋を狙って刃が振り下ろされ――






 すかっと俺の髪の毛を何本か切り取った。


「ほう、なかなかやるな。俺の渾身の一撃を紙一重で(かわ)すとは」


 いや、動いた覚えがないのだが……。

 どうやら俺が理不尽な躱し方をすると、相手に現実が歪んで見えてしまうらしい。


「だが、これはどうだ? うおりゃーっ!」


 怒涛の連続スラッシュ。

 少し落ち着いてきたので、俺は一歩ずつ後ずさりしながらボブスの乱撃を避ける。

 そろそろ、うまいこと攻撃を食らった振りをして倒れてみるか。


「ぐはーっ!」


 肺の奥底から空気を絞り出し、若本規夫(わかもとのりお )顔負けの叫び声を上げ、木偶の坊のように体を静止させてどすりと地面に倒れこむ。


 くっくっくっ、俺の迫真の演技にボブスはまんまと騙されただろうな。

 ちらっと左目を開くと、俺の真上にたたずんでいるボブスが斧を空高く掲げていた。

 

「すまん、フーン。倒れた振りをして不意打ちをかけるつもりだったのだろうが、流石に今のは露骨(ろこつ)すぎたぞ」


 すすす、ストップ!

 ボブスさん! 違うから!

 その認識、間違っているから!

 俺、不意打ちなんてしないから!


 助けを乞うにも恐怖に駆られた俺の喉は掠れきっており、体は完全に硬直状態。

 今度こそ終わった……。


 すると――


 ――ずっこーーーーーん!


 金具を金具で叩いたような、間の抜けた音が響く。


「み、見事だフー……」


 と言い残し、ボブスは俺の上に倒れた。

 お、重い。前回のお姉さんの十倍は重そう。

 しかも、おっぱいと違って筋肉はごつごつなのであまり心地よくない。


「ボブスは戦闘不能のようです! よって、勝者フーン!」


 いつの間にか、俺の勝利が宣言されていた。

 なにがなんだか、わけがわからない。


『どうやら、【メタルパニック(タライ落とし)】が発動したみたいです』


『なんだ、タライか』


『ボブスさんは頭皮が薄そうなので、もろにダメージを負ってしまったようですね』


 いくら攻撃することを避けても、パッシブスキルは発動を制限できないのか。

 この能力はこれからの戦いでも面倒な障害になりそうだ。


『何はともあれ、一回戦勝利おめでとうございます!』


『全く嬉しくないな……』



***



 カリアも一回戦の相手を打ち負かし、額の汗をタオルで拭いながら、余裕の表情で待合室へと戻ってきた。


「まさか、お前がボブスを倒してしまうとはな。少し見直した」


 俺も倒せるとはまったく思っていなかったんだよなあ。

 ていうか、倒そうとすらしていなかった。


「きゃーっ! フーンきゅんもカリアちゃんもあたしと一緒に二回戦進出ね!」


 何かが聞こえたような気がするが、空耳だろう。


 そんなことより、次の対戦相手は一体誰になるのだろうか。


 部屋をさっと見渡すと、

 長いひげを生やした仙人っぽい老人、

 ぐふふと気色悪いを漏らしている黒ずくめの少女、

 重装備をまとった鎧姿の人、

 延々と剣の素振りを繰り返している頭が悪そうな顔つきの男性、

 猫耳と尻尾がもふもふで可愛い亜人種のお姉さん、

 存在をあまり認識したくないオネエさん、

 そしてカリア。


 一番強そうなのは老人と鎧の人かな。

 逆に黒ずくめと剣士は、アホなことをして自滅しそうな雰囲気を醸し出している。


 そういえばカリアの攻撃はご褒美と判別されていたっけ。

 彼女との対戦であればラックのオート回避が発動せずに済むので、負けることが可能かもしれない。

 後はくじ運さえ良ければ……というか悪ければ――


 しかし、くじ運ねぇ……。

 不安しかない。

<名前> ボブス・ジョンズ

<種族> 人間

<年齢> 28

<身長> 201cm

<体重> 120kg


 険しい顔、ほぼ筋肉で構成されたボディ、ハゲ。

 ライオンですら尻尾を巻いて逃げ出してしまいそうな容姿のせいで、王都から引っ越してきたばかりの当時はバリーの人々に恐れられていたが、持ち前の心優しさと誠実さ、そして料理お掃除なんでもござれな主婦力の高さで巷の評判を一気に勝ち取った。現在は美人の奥さんと一緒に幸せな家庭を築いている。

 ごっつい体つきなのでよくクマに見間違えられる。


<ステータス>

レベル :39

パワー :59

マインド:11

スピード:22

トーク :11

チャーム:18

マジック:1

ラック :4

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