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19 雪神祭 前編

「かっこいいですね」


「似合っている」


「そ、そうなのか……」


 なんか緑色の妙なふんどしを無理やり履かされたのだが……。

 まあ、メルリンがかっこいいと称してくれているみたいなので問題ないか。


「よし、お前たち。準備はできたかい? すぐに出発するよ」


 玄関から届くババアの声。

 その命令を聞くなり俺たちは真っ先に彼女のもとへと向かう。


 そして、こんなに寒いというのに、俺はパンツ一丁で外へ連れ出されてしまった。


 ぶるぶる、冷風に皮膚をざらりと舐められる。

 凍え死にそうだ。


 辺りを見回してみると、他の男性のほとんども俺と同じ格好をしている。

 これが最近流行りの羞恥プレイですか?

 と、思ったのだがどうやら違うらしい。


 今日は雪神祭(ゆきがみさい)という名のお祭りが開催されるらしく、このふんどしはそれに参加するための衣装なのである。

 つまり、盆踊りに浴衣を着ていくようなものだ。


 女子陣は寒そうな服装を帯びている俺とは違って、普段着の上に赤いコートを羽織っているだけだ。

 男卑女尊はいけないと思います。


「うわ~、フーンさん見てください! 噴水が凍りついていますよ!」


 放出されていた水がそのまま固まったらしく、氷は見事な曲線を描いていた。

 透き通った宝石のように輝いていて、とても美しい。


 俺たちは噴水の横を通過して、ぐんぐんと街の中心部へ近づくと、まばらだった人々がだんだんと密集してきた。

 クソ寒いのに、周囲の人間が放つ体熱で汗をかいてしまいそうなほどである。


「おう、カリア。久しぶりだな」


 人混みの中からカリアの名前が呼ばれる。


「ボブスか。久しぶり」


 声の主は俺の二倍程度の背丈がある巨漢だった。

 裸の上半身はバリバリのエイトパック。

 両足と両腕には山のような筋肉が盛り上がっている。

 ちなみにハゲ。

 だが、彼は容姿とミスマッチなガラガラを左手に装備し、背中に赤ん坊を入れたリュックを担いでいた。


「こんにちは、ヨムルさん。そして、メルリンさん」


「お久しぶりです、ボブスさん」


「おやおや、一年振りかねぇ。元気そうで何よりだ。アベルも元気にしているかい?」


「はい、おかげさまで」


 彼女たちとの挨拶を終えると巨漢は首をぐきっと捻り、俺の顔をじーっと見つめる。

 ご飯粒でもついているのだろうか。


「ところで、そこの見慣れないお方は誰なんですか?」


「あたしの新しい奴隷だよ。名はフーンだ」


 巨漢は再び視線を俺へと移す。


「フーンか。宜しくな」


「よ、よろしくお願いします」


 彼は握手するために右手を差し伸べた。

 威圧感がパない。

 手のひらで軽く俺の顔を包み込めそうだ。



***



「彼は去年の闘技大会で準々優勝だった人ですよ」


 家族が待っているからと言ってボブスがこの場を去ると、メルリンが説明してくれた。どうりで強そうだったわけだ。


 でも、確かカリアは準優勝だったよな。

 まさか、あの筋肉怪物よりも強いのか?

 俺が適当に枝を振っていたら、自爆して気絶したのに?

 信じられん。


「おい、カリア。お前はあいつと戦ったことがあるのか?」


「あいつは必ず勝ち上がってくるから、ほぼ毎年ボブスと闘技大会で戦っている。今の所、3勝1敗だ」


 カリアが予想以上に強いのか、ボブスが予想以上に弱いのかが、悩みどころだ。


「あたしはちょっと用事があるから、先に行ってくるよ」


 そう言い残し、ババアは赤いカバーを被せてあるワゴンを引っ張りながら、雑踏の中へ単独で進んでいった。

 よっしゃ!

 後はカリアさえ引き放せば、メルリンと二人っきりだ!


「あーら、カリアちゃん! ひっさしぶり~♪」


 今度はやたらテンションが高い、ひょろりとした体つきの男性が現れた。


「やあ」


 カリアはそう一言だけ返すと、彼を無視して通り過ぎようとした。

 彼女の雑な対応がいつもに増して、さらにお粗末になっている。

 面倒な奴に出会ってしまったと、思っているのがバレバレだ。


「も~う、カリアちゅわーん。あたしに会えたのが嬉しくて、照れているのね。かっわいい~!」


 絶対に違うと思う。


「ふふ……って、あらまあ、いい男! ちょっと、カリアちゃん。この子、あんたの彼氏?」


 きゃふんと奇声をあげながら、オネエさんは俺を指差した。


「断じて違う」


「じゃあ、あたしが美味しく頂いちゃっていいかしら?」


「好きにしろ」


 いやいや、俺が困ります。


「だ、ダメですよ! フーンさんにそういう趣味はありません!」


 ぶんぶんと両手を左右に振りながら、メルリンが俺を庇ってくれた。


「あっ、でも、フーンさんって女装しますし、もしかしてそういうのも……」


「あれは忘れてくれ!」


 俺の黒歴史を掘り起こさないで!

 切実にお願いします。


「あらあら、もしかしてメルリンちゃんの彼氏だったの?」


「ええええええっ! その……、あの、ぜ、絶対に違います!!!」


 え~!? 何が絶対に違うの?

 メルリンは俺が恋愛対象になるのを完全否定したの?

 めっちゃショックで泣きそうなんだけど。


「なら、あたしがもらうわね」


「悪いが断らせてもらう。俺は男に興味ないんだ」


「いや~ん、可愛い声。ますます、好きになっちゃうわ!」


 くっ……、拒絶の言葉さえも逆効果だったか。

 メルリンの好感度も、こいつぐらい簡単に上がってくれたらいいんだけどなぁ。


「パーシファー、いい加減にしろ。フーンも迷惑している」


「も~う、相変わらず怖いのね。カリアちゃんは。そんなのだといつになっても彼氏作れないわよ?」


「お前は一生作れないだろ」


「まあ、ひっど~い! 絶対にカリアちゃんの先を越して、その高らかに掲げている可愛い鼻をへし折ってやるわ。フーンきゅん? カリアちゃんにいじめられて辛かったら、いつでもあたしのとこへいらっしゃいよ。あたしがたっぷり愛情を注いであげるわ」


「考えておくことを、前向きに検討することを、検討します」


「そっか! 嬉しいわ。じゃあ、あたしは先に行っているわね。ばいば~い!」


 そう言い残すと、パーシファーはウィンクと投げキッスで俺にトドメを刺し、るんるんとした軽快な足取りで姿を消していった。


「今度、闘技大会で当たったら天国まで先に行かせてやる……」


 カリアが殺意に満ちた視線をパーシファーの後ろ姿に送る。


「え? あいつも強いのか?」


「ああ、パーシファーは熟練したハンマーの使い手だ。毎年ベスト4には入っている」


 あんなひょろひょろとした体でハンマーを振るうのか。

 人は見かけによらないな。

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