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広異世界の小さな話  作者: 元田 幸介
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与えたつもりが……

 帰り道にある河川敷。その橋の下にダンボールが置かれていた。

「にゃーぉ」

 小さな鳴き声が聞こえた。ヨウスケは土手を下って中を見る。白と黒、二匹の猫が入っていた。

 猫たちとヨウスケの目が合う。そのつぶらな瞳はなにかを訴えているようだった。

「……ちょっと待ってろ」

 ヨウスケは猫にそう言って、コンビニまで走る。財布の中の小銭をすべて使って、猫用の缶詰を買った。

「ほら、食べろ」

 ヨウスケはフタを開き、猫に缶詰を与える。猫二匹はすぐさまエサを食べ始めた。

「にゃあ!」

 喜びを表すように、猫は鳴いた。

「……悪いな」

 ウチでは犬を飼っているので、こいつを飼うことはできない。ヨウスケはそこらへんに落ちていた容器二つに、残りのエサと水を入れて、立ち去った。

「にゃあ、にゃあ!」

 猫の鳴き声が、いつまでも耳から離れなかった。

「――最低だな」

 家に帰ったヨウスケは自己嫌悪に襲われた。

 捨て猫にエサをやる。一見、「良いこと」をしたように思える。だが実際はぜんぜん違う。

 中途半端な優しさほど残酷なことはない。ヨウスケはあの猫たちにあるはずのない「希望」を持たせてしまった。

「……」

 悩んで悩んで悩んだ末、ヨウスケは中途半端なことをやめることにした。自宅で飼うことはできないかもしれない。それでも飼い手を探すことはできるはずだ。数日後、ヨウスケはカバンに大量のエサを入れて、猫たちのところへ向かった――。




「ふう。久しぶりに食べられたぜ」

「大成功ね」

「ああ。まさかこんな簡単に成功するとはな……」

「でも、もらってくれそうにはなかったわね……」 

「いいんだよ。俺たちには、あのくらいの中途半端な優しさで十分だ。それに――」

「それに?」

「お前を、ほっとけるわけないだろ」

「ふふ、ありがとう。……それじゃ、いきましょうか」

「……そうだな」 


 猫たちはにゃーんと鳴きながら、草むらの中に姿を消した。



 そして、ヨウスケがあの猫たちに会うことは、二度と無かった。


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