家族崩壊
「実はわたしは本当の姉じゃないらしいの」
姉は唐突にそんなことを言った。
「血、繋がってないってこと?」
俺は動揺を悟られないように聞き返す。
「たぶんね」
「へえ、そうだったんだ」
逆に頭が真っ白になる。脳の処理が追いつかなかった。
「えっと……なんで分かったの?」
なんとか俺はそう訊いた。
「お父さんに聞いたの。お父さん、気まずそうな顔で、『本当の姉弟じゃない』って答えたわ」
「……え、それだけ?」
父が嘘をついているという可能性もある。
「わたしもそう思ったわ。だから私なりに証明することにしたの」
そう言って姉は封筒を取り出す。
「この中に、DNA検査の結果が入っているわ。絶対に、本物よ」
「……そうみたいだね」
本物なんか見たことないが、姉個人の手作りにしては、凝りすぎている。
「で、ここからが問題なんだけど」
「うん、分かっているよ」
血の繋がりはない。多分、これは本当のことだ。俺は今まで本能的にそういう感覚を何度も味わってきた。
「問題は、どちらが本当の子供か、だろ?」
両親は俺も姉もどちらも愛してくれた。だがやはり、「血」は大きな境界線を引いている。なんだかんだで、俺は両親と血が繋がっていたかった。
「多分、俺が義理だよ。全然似ていないしね」
自嘲気味に俺は言った。
「そうね……でも、わたしが言っているのは、そんな小さなことじゃないの」
「え……?」
「――見るわよ」
姉はゆっくりと封筒を開き、中に入った紙を確認する。
「……………………」
俺は横から覗き込む。小難しいことが書いているが、俺と両親に血の繋がりがあることが分かった。
「えっと……」
気まずい雰囲気が流れる。姉はクククと変な笑い声をずっと上げている。
「あの、姉さん――」
「姉さんじゃないわ」
姉は顔を上げる。吹っ切れたのか、すっきりした顔になっていた。
「……たとえ血が繋がっていなくても、俺たちは家族だよ」
俺ははっきりと姉に宣言した。
「ううん……それじゃ困るの」
「そんな――!」
「これからは、思う存分……アタックできる……!」
「――え?」
いつの間にか、姉は俺の目の前に来ていた。そして、
「これから、よろしくね……!」
この日から、姉は俺を、「弟」と認識しなくなった――。