社会人5日目、土曜の夜……
歓迎会という名の新人いじめをなんとか乗り切った俺は、ふらつく足どりで駅へと向かった。
気持ち悪い。世界が反転するようだった。なので俺が駅とは反対方向に歩いていても、なんら不思議ではなかった。
気づけば見知らぬ公園に着いていた。俺は酔いを覚ますため、ベンチに座ることにした。
「おい、ここはワシの寝床じゃ」
急におっさんが現れた。
「おっさん、家賃払ってんのか?」
俺はそう言ってベンチに座ろうとする。だがムキになったおっさんは俺より先に腰を下ろした。
「……」
俺も同じく座る。おっさんはあからさまに嫌な顔をしたが、どけとは言わなかった。
「……あー気持ち悪っ」
「飲みか?」
おっさんが俺に話しかけてくる。
「ん、ああそうだけど」
「ほお、もうそんな時期か」
おっさんはコンビニ袋に入ったカップ酒を飲み始める。見ているだけで気持ち悪くなるので、俺は顔をそらした。
「お前さん、学生か?」
「もう酒が入ってんのかおっさん? 社会人だよ」
つい俺は答えてしまった。
「ほお。それで歓迎会で飲みすぎたってところか」
「ああ。ったくあいつら……調子に乗りやがって」
思い出す度にイライラする。一番腹が立つのは、本人たちは良かれと思ってやったことだ。
「大変じゃなあ。部下の面倒は」
「……ああ、そうだな」
「やめたくならんのか?」
「……そういうわけにもいかねえよ」
これまで両親に馬鹿みたいに迷惑をかけた。いい加減恩返しをしないといけない。俺はなにがあろうと耐えなければならなかった。
「ほお、まあ頑張れよ」
「おっさんもな」
だいぶ酔いが冷めてきた。俺は立ち上がりおっさんに別れを告げる。
「ま、苦しくなったらいつでもこちらに歓迎するぞ」
「……遠慮しとくよ」
一瞬、受け入れてしまいそうになった。おっさんの生き方を否定するつもりはないが、それでもそこに行くわけにはいかなかった。
「そうか……」
「じゃあな」
「あっ、待て」
「なんだおっさん?」
「さっきからおっさんおっさん言っているがな……」
「実は二十代なのか?」
「そんなわけないだろ。あのな……」
おっさんは最後に、こう言った。
「おまえもわしと大して変わらんだろうが」
約四十年ぶりに、俺は大人に怒られた。