表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
広異世界の小さな話  作者: 元田 幸介
94/100

社会人5日目、土曜の夜……

 歓迎会という名の新人いじめをなんとか乗り切った俺は、ふらつく足どりで駅へと向かった。

 気持ち悪い。世界が反転するようだった。なので俺が駅とは反対方向に歩いていても、なんら不思議ではなかった。

 気づけば見知らぬ公園に着いていた。俺は酔いを覚ますため、ベンチに座ることにした。

「おい、ここはワシの寝床じゃ」

 急におっさんが現れた。

「おっさん、家賃払ってんのか?」

 俺はそう言ってベンチに座ろうとする。だがムキになったおっさんは俺より先に腰を下ろした。

「……」

 俺も同じく座る。おっさんはあからさまに嫌な顔をしたが、どけとは言わなかった。

「……あー気持ち悪っ」

「飲みか?」

 おっさんが俺に話しかけてくる。

「ん、ああそうだけど」

「ほお、もうそんな時期か」

 おっさんはコンビニ袋に入ったカップ酒を飲み始める。見ているだけで気持ち悪くなるので、俺は顔をそらした。

「お前さん、学生か?」

「もう酒が入ってんのかおっさん? 社会人だよ」

 つい俺は答えてしまった。

「ほお。それで歓迎会で飲みすぎたってところか」

「ああ。ったくあいつら……調子に乗りやがって」

 思い出す度にイライラする。一番腹が立つのは、本人たちは良かれと思ってやったことだ。

「大変じゃなあ。部下の面倒は」

「……ああ、そうだな」

「やめたくならんのか?」

「……そういうわけにもいかねえよ」

 これまで両親に馬鹿みたいに迷惑をかけた。いい加減恩返しをしないといけない。俺はなにがあろうと耐えなければならなかった。

「ほお、まあ頑張れよ」

「おっさんもな」

 だいぶ酔いが冷めてきた。俺は立ち上がりおっさんに別れを告げる。

「ま、苦しくなったらいつでもこちらに歓迎するぞ」

「……遠慮しとくよ」

 一瞬、受け入れてしまいそうになった。おっさんの生き方を否定するつもりはないが、それでもそこに行くわけにはいかなかった。

「そうか……」

「じゃあな」

「あっ、待て」

「なんだおっさん?」

「さっきからおっさんおっさん言っているがな……」

「実は二十代なのか?」

「そんなわけないだろ。あのな……」

 おっさんは最後に、こう言った。



「おまえもわしと大して変わらんだろうが」


 約四十年ぶりに、俺は大人に怒られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ