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広異世界の小さな話  作者: 元田 幸介
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伝わらない気持ち

 一目惚れだった。


 話したい、お近づきになりたい、付き合いたい……彼女を脳裏に浮かべる度に、俺の想いはどんどん強くなっていった。

 告白しよう。俺ははちきれんばかりの想いを彼女に伝えることにした。

 が、困ったことに、俺は今までの短い人生の中、今まで誰かに告白したことはない。だからどういう風に告白すればいいか分からなかった。


「好きです」


 もちろん、そう言うのが一番いい。けれどそこに至る過程が困難過ぎる。

 そもそも俺と彼女はそこまで接点がない。家庭の事情で、俺は今年に入って通い出したからだ。

 だから入って早々の男に、いきなり「好きです」なんて言われても困るだろう。

 じゃあまずはお友達から……といきたいが、俺は今まで友達がいた試しがない。だから友達の作り方そのものも分からなかった。


 ――と、いろいろ言ってみたがけっきょく俺は告白することを怖がっているだけだ。だが、この気持ちを抱いたままでもいられない。

 三日三晩考えた末、俺は手紙を使って気持ちを伝えることにした。


【一目惚れです。是非、俺と付き合ってください】


 シンプルイズベスト。俺は手紙にそれだけ書いた。

 次の日。俺は彼女の下駄箱に自分の名前を添えた手紙を入れた。緊張しすぎて、その日は何度もトイレに行った。そして放課後、俺は彼女に呼び出された。

「……きみだよね?」

 彼女はおそるおそる手紙の名前部分を指差し尋ねた。

「うん。俺」

「……へえ、すごいね」

「え? そうかな?」

「すごいよ。それで……」

「うん……」

 俺は彼女の答えを待つ。が、彼女の口から出たのは、意外過ぎるものだった。 


「なんてかいてるの?」


 彼女は困り顔で手紙を指差す。

「……あ、ごめん」

 最悪だ、自分のことしか考えていなかった。


 漢字どころの話じゃない。普通は、まだひらがなも難しい年代だ。


 俺はそれぞれの漢字にルビを振り、今度こそ彼女に自分の気持ちを伝えた――。

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