一変した世界
「一ヶ月後、世界は一変する」
誰が言ったかは分からない。だが世界中の誰もがそれを信じた。
何がどう変わるかは分からない。だが人々は焦りを感じた。
「変わる前にやらなくちゃ」
世界が変わるそれまでに、今までやれなかったことをやろうとする者が増えた。
「仕事、辞めます!」
ある者は会社を辞めた。
「ずっとあいつを殺したかったんだ!」
ある者は殺人を犯した。
「一回坊主にしてみたかったの」
またある者は髪型を変えた。
「え? 俺、そんなに眠っていたの!?」
そしてある男は、世界が変わる前日に長年の眠りから目を覚ました。
「ええそうよ。そして、明日世界は変わるわ」
女は男に簡潔に説明した。
「どういう風に?」
「それは分からない。でも、変わることは間違いないわ」
「……そうか」
その声を聞いていない男には、いまいちピンとこなかった。
「明日、世界が変わるんだよな?」
もう一度、男は女に確認した。
「ええ、そうよ」
女ははっきりそう言った。
「……うーん」
やはりピンとこない発言だった。
「誰に聞いても明日から変わると言うわ。なんなら連れてきましょうか?」
「いや、そういうことじゃなくてだな……」
男は気まずそうにしながらも、窓を指差す。
「もう、変わってるよな?」
大なり小なり、人の意志によって世界が変わる。
男はあちらこちらから火の上がる街並…………ではなく、窓に反射して映る、坊主頭を見て、そう思った。