メアワセ
その目を見た者は、石のようになってしまう。
僕の町にはそんな噂が流れている。
それは決して都市伝説ではない……と、僕は今日初めて知った。
「わたし、きれい?」
それは、今僕の眼の前にそれを証明する者が現れたからだ。
「……」
スタイルのいい大人の女性だった。顔立ちもいい。サングラスをかけているところ以外、変なところはない。
「わたし、きれい?」
女性は再び同じことを尋ねてくる。
まだ「変な人」の可能性もある。だけど僕は似たような都市伝説があったことを思い出していた。
僕の知っている限りだと、あれはどっちに答えてもろくな目にあっていなかった。
対処法は「ポマード」だった。だけどそれがこの女性にも伝わるとは思わない。この女性が隠している部分が「眼」だったからだ。
そして、もしもサングラスを取ってしまったら……。
「きれい?」
僕が女性と目を合わせないよう、いつも以上にうつむきがちになっていると、女性はかなり近くまで来ていた。答えを聞くまでは逃さないという、確固たる意志が見えた。
「……あの、いくつか質問――」
「き・れ・い?」
僕の問いに、女性は割り込む。どうやらそれ以外の質問は受け付けないようだ。
「……」
きれいかきれいじゃないかなんて、サングラスを外してもらわないと、分かるわけがない。だけどもしも眼を合わせてしまったら、僕は人間じゃなくなってしまう可能性が非常に高かった。
僕はどうにかしてこの理不尽な問いかけから逃れる方法を考える。
「きれいきれいきれいきれいきれい……?」
もう時間がなかった。女性は今にも眼を開けそうだった。
「……きれいです!」
もうどうにでもなれ。やけくそに僕は答えた。女性は予想通り、こう返事した。
「こ・れ・で・もおおおぉ?」
女性はサングラスを外し、僕の肩をガシッと掴んだ。そしてほぼ強制的に、僕は女性と目を合わせられてしまった――。
「……あれ?」
ところが僕の身には何も起きなかった。僕は恐る恐る女性を見る。
「……………………ああ」
女性の姿を見て、僕はすぐに納得する。
「……きれいでしたよ」
両肩に置かれた女性の手を壊さないように外し、僕は女性に本音を伝えた。
そして、地面に落ちたサングラスを拾った。
「さようなら……」
もう二度と、裸眼で視ることはできないだろう。僕は事が大きくなる前に、女性から離れた。
そして、これからの人生をサングラスをかけたまま過ごすことを決意した。




