明るい「今」を保つため
「俺は未来のお前だ」
将来自分はどうなっているのだろう。「未来」について考えていたある日、トシキの元に、謎の男からそんな電話がかかってきた。
「俺は未来を知っている」
男は証拠と言わんばかりに、今日これから起こる様々な出来事を伝えた。すべて、当たっていた。
「――ということで、俺が伝えられる情報はここまでだ」
一ヶ月かけて、男はトシキに「情報」を伝えた。それらはすべて「金」になるものだった。
「いったい何が目的なんだ?」
トシキは未来の自分が何をしようとしているのか分からなかった。
「……」
だがそこで電話が切れた。トシキは予知を頼りに、宝くじや競馬などで一気に金を稼いだ。
あっという間に億万長者。トシキはただただ遊んで暮らした。
そんな生活を十年過ごした。トシキはハワイの海に沈んでいく夕日を眺めながら、ふと、こんなことを思った。
(俺はいつ、電話をすればいいのだろう)
トシキは自分も過去に電話しなければならないということに、ようやく気づいた。
あの声の感じからして、まだ先の話かもしれない。いや、そもそもどうやって過去に電話をかけたというのだろうか?
「…………」
楽しかった今までの人生が一気に不安で押しつぶされる。
未来から電話が送られてきたということは、必然的に今のトシキも過去に電話を送ることができるということでもある。
だが、もしも、もしも……どこかで歯車が狂い、過去に電話をかけることができなかったら? 今ここにいる自分は、消えてしまうのではないか?
「…………」
そう考えるとゾッとした。トシキはいち早く、過去へ電話を送る方法を探すことにした。
だが、いくら金を持っていようがそんな技術があるはずない。金で雇った科学者は全員去っていった。
「電話電話電話電話……!」
今の自分が失ってしまう恐怖から、トシキはおかしくなった。
トシキは誰にも協力を求めることはせず、「過去への電話」の開発をした。
そして、様々な偶然、執念もあり、トシキは電話を完成させた。
「俺は未来のお前だ」
そして、一言一句違わずあの時と同じ言葉を告げる。
これで過去は変わることはない。トシキはようやく、「今」を守ることができた。
だが時すでに遅し。
「――ご臨終です」
完成したのは、五十年後。
トシキの人生は、「過去」によってそのほとんどを消費してしまっていた――。




