トウメイカ
無差別に人を襲う、クズな魔法使いによって、ショウマは呪いの魔法をかけられた。
その魔法によって、ショウマの姿はよほどのことをしない限り、誰にも認識できないようになってしまった。
いわゆる透明人間だ。この魔法のせいで、ショウマの人生はいつダメになってもおかしくないものになっていた。
一刻も早く戻らなければならない。ショウマは呪いの特性を逆に活かし、一ヶ月かけてその魔法使いを見つけた。
「戻せ」
その魔法使いの首筋に針を押し当て、ショウマはそう命じた。
「……解除はできない」
だが魔法使いは首を横に振った。ショウマは魔法使いの首筋にぐさりと針を突き刺した。
「しっ、したくてもできないんだ!」
魔法使いは首元を抑えながら、慌ててそう付け加えた。
「どういうことだ?」
「まず第一に……解除の魔法を知らないんだ」
「かけた魔法を解けばいいだけだろ」
「そんな単純なものじゃない。一度かけた魔法はそのまま残り続ける。その魔法を失くすには、別の魔法で上書きするしかないんだ」
よく意味は分からないが、この魔法使いは魔法を解くための「鍵」を持っていないらしい。
「覚えろ」
だがそんなことで逃がすわけにはいかない。ショウマは魔法使いを脅す。
「で、でも……覚えるのはかなり時間が……」
「一週間で覚えろ」
「わ、分かりました……!」
こうしてショウマの監視下で、魔法使いは解除魔法を覚え始めた。この魔法使いはクズなことには変わりないが、物覚えはいいらしく、一週間でちゃんと魔法を覚えた。
「よし、覚えたな?」
「……ああ。間違いなく、これで解除はされる」
「じゃあさっさとしろ」
「ここで第二の問題なんだが……」
魔法使いは言いづらそうに、こう訊いた。
「あんた、どこにいるんだ?」
魔法使いはあさっての方向を向いて、ショウマに尋ねた。
「ここだ」
ショウマは魔法使いの耳元で思い切り叫ぶ。
一瞬の油断、もとに戻りたい一心から、ショウマは「ミス」を犯してしまった――。
それは、最低最悪な、取り返しのつかない選択ミスだった。
「――うるさっ」
プチンッ。
さっきからずっとブンブンうるさいハエを、魔法使いはようやく潰すことができた。
「――おい、どこだー?」
それと同時に、ショウマの「声」は聞こえなくなっていた。




