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広異世界の小さな話  作者: 元田 幸介
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女の子には会いたくない

 あるところに、何の特技もない、無趣味無個性、独り身の男がいた。


 男がコンビニから帰ろうとした途中、今にも倒れそうな女の子を見つけた。


「……」


 男はそのまま無視して通り過ぎようとした。


「ご、ごはん……!」


 だがベタな、それでいて切実な叫びを聞き、男は仕方なく、女の子を自分の部屋に連れて行くことにした。


「ほら、食べなさい」


 男は買いだめしていたカップ麺にお湯を注ぎ、女の子に渡す。女の子はきょとんとしながらも、ラーメンを食べ始めた。


「……美味しい」


「……そうか」


 男も女の子と一緒にラーメンを食べ始めた。たしかにいつもより美味しく感じられた。


「ごちそうさま……おやすみ」


 あっという間に食べ終えた女の子は、そのままその場で眠り始めた。男は敷布団の上に女の子を移動させ、上から毛布をかけ、女の子が目を覚ますのを待った。


「おはよー」


 だが女の子が目を覚ましたのは、翌朝になってからだった。


「元気になったか?」


「うん。ありがとう」


「そうか。じゃあ早く出て行け」


 詮索はしない。男はただ早く、女の子を家から追い出したかった。


「えーいーじゃん。もうちょっといさせてよ」


 女の子は出ていこうとせず、勝手気ままにテレビをつけた。


「出て行け」


 男は言葉を強めてもう一度言った。


「帰りたくない……」


 女の子は頑なに動こうとしない。男は携帯に手を伸ばした。


「お金払うから、置いてよ……」


「……」


「ねえ」


「……」


「あんな奴らのいるところより――」


「――いい加減にしろっ!」


 バチンッ!


 我慢の限界が訪れた。男は女の子の頬をひっぱたいた。


「な、なにするのよ!」


「うるさい! 親に向かってあんな奴らなんて言うんじゃない!」


 男は何年ぶりかに本気でキレた。


「で、でも……」


「ここにいてもお前は幸せになれない。分かっているだろ!」


「…………」


 近所迷惑を顧みない大声。女の子はその気迫に圧倒され、ゆっくりと立ち上がった。


「…………」


「…………」


「…………ごめんな」


 感情的になって手を上げてしまったことに、男は女の子に心の底から謝った。


「ううん。こっちこそ、迷惑かけてごめん……」


「……早く仲直りしろよ」


「うん。バイバイ……」


「ああ、さよならだ」


 互いのために、もう二度と会わない方がいい。


 男は「別れた()()()供」に別れを告げ、力強くドアを閉めた。





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